第36話 浮気裁判ですか?


 午前中の講義が終わり、お昼休みになった。さすがに講義中はしっかりと勉強して鑑定で遊ぶのはやめました。


 修二達が来る前に鑑定で遊ぼうと思い、急いでカフェテリアに向かいます。何を食べようか迷っていたけど、カレーライスを注文します。寒くなって来たから、辛い物が食べたくなったのだ。


 一人暮らしをするようになってから自分で料理を作ることが減ってしまった。すべてはあのボロアパートの小さなキッチンが悪いのです。


 寒いし、鍋とか食べたいな。葉月ちゃんと一緒に食べたら幸せだろうなぁ。葉月ちゃんと一緒に住む事になったら、今よりももっと大きな部屋に引っ越しを考えなきゃダメかもしれない。


 そんな事を考えながらカレーライスを食べ、コッソリと周囲に目を向ける。実験のため、見知らぬ人を鑑定してみようと思ったのである。でもどうせ鑑定するなら女の子が良いよね! ごめん葉月ちゃん、これは浮気じゃないので許して下さい……。


 誰がいいかなーと辺りをキョロキョロしていたら、右奥の壁際に一人で座っている女性を見つけた。茶色いロングコートを着ているのでスタイルとかは分からないが、オシャレな帽子を被り、何故かサングラスをしている。怪しいぞ……。


 寒いからロングコートは問題ないと思うけど、帽子とサングラスって顔を隠しているってことだよね。よし、実験に付き合って貰いましょう! 神様神様、あの女性の正体を教えてください! そんな事を思いながら、鑑定してみた。




新山加奈子にいやまかなこ

 東京の国立大学に通う3年生、21歳独身です。

 実は、いま売り出し中のグラビアアイドルのKANAKOさんです。


 身長154cm、体重48kg、スリーサイズは上から90,59,86でおっぱいがおっきいです。な、なんとGカップです!

 このロリロリフェイスとたわわなお胸を武器に、グラビア界のトップを目指します。

 そして綺麗な黒髪は肩まで伸びて、白い肌とのコントラストが魅力的です。

 ちなみに、35歳既婚者のプロデューサー池田重留いけだしげると不倫中です! 

 昨日もイメージビデオを都内のホテルで二人きりで撮影してます。


※今日の運勢※

 今からでもアフターピルを飲みましょう。危険です。




「ええぇぇぇ……」


 まさかの結果に思わず声が出てしまった。あの人ってグラビアアイドルなのか。しかも不倫中とかやばい……。


 しかも今日の運勢とか本当に危険だ。不倫して妊娠しちゃったらどうなるんだろう。教えて上げたいけど、伝えたらセクハラじゃ済まないぞ……。


 よ、よし、この結果だけじゃ普通の鑑定だよね。今度はもっと詳細な情報が得られるか実験しないとダメだよね!


 はやる気持ちを抑え、KANAKOさんをロックオンした。神様神様、あの女性の昨日のイメージビデオ撮影について教えてください! 強く願いながら、鑑定してみた。




新山加奈子にいやまかなこ

 東京の国立大学に通う3年生、21歳独身です。

 実は、いま売り出し中のグラビアアイドルのKANAKOさんです。


 その日、KANAKOはプロデューサーの池田から、都内にあるホテルで撮影を行うと呼び出されていた。

 彼女は内心、普通の撮影だけで終わるはずがないと期待しながらホテルへ向かった。

 ホテルの部屋に入った途端、濃厚なキスをされた。体の芯から溶かされるような甘いキスだった。

 彼曰く、このエッチな表情が男受けするのだと言う。確かに彼女は、彼にプロデュースして貰ってから売れていた。なので彼に全幅の信頼を寄せていたのである。

 彼の用意した布面積の極めて少ないエッチな水着に着替えた。

 彼はビデオカメラを片手に、彼女の魅力を引き出そうと尽力した。

 ベッドに仰向けになる彼女の艶めかしい表情を撮影する傍ら、彼女の下半身を優しく愛撫した。

 彼の執拗な責めに耐える彼女の表情は、美しかった。

 次はお風呂での撮影に移った。

 彼女はシャワーを浴びながら、豊満なバストを艶めかしく触り、男を挑発する笑顔で誘った。

 次第に盛り上がる二人、そのまま撮影は続けられたが、体は繋がったままであった。

 撮影会は朝まで続き、ビデオカメラには世に出せない記録が残ったのであった。


※今日の運勢※

 今からでもアフターピルを飲みましょう。危険です。



「マジかぁ……」


 また声が出てしまった。やっぱり売れっ子のグラビアアイドルでも、裏では色々とあるんだなぁ。


 やっぱりこの鑑定能力はレベルアップしている。そして、願った内容を教えてくれることがあるようだ。無茶なお願いをした場合はどうなるか分からないけど、例えば10年後の自分を教えて欲しいと願っても、きっと無理だろうな。


 あと確認するとしたら回数とかかな。これは時間のある時にゆっくりと確認しよう。


 ……撮影会の内容を見ちゃったし、ちょっとKANAKOさんのお顔とか見てみようかな。スマホを取り出してWEB検索をしてみた。


 やはり有名なグラビアアイドルなのか、一発でヒットした。画像を見ると、男受けする綺麗な女性だった。しかも際どい水着姿の艶やかな表情をしたエッチなやつだ!


 この写真を撮るときも、エッチな撮影会をしていたのか!? やばい興奮してきた。


 そんな事を考えていた時、不意にスマホの写真を撮るアプリの音が聞こえて来たのだった。





―― カシャカシャ♪ カシャカシャ♪ ――


 


 ハッとなり顔を上げると正面に修二が居た。そして僕に向かってスマホを構えている。どういう事だ修二!?


「うふふ、見てしまいましたわ~! 薫さんたら婚約した翌日に浮気だなんて、葉月ちゃんが知ったらどう思うでしょうね~?」


「……なっ!?」


 背後から玲子さんの声がする。振り向けば、玲子さんも僕に向かってスマホを構えていた。玲子さんの場合、僕のスマホの液晶画面を撮影していたような感じである。


 まさかKANAKOさんの画像を見てニヤニヤしていたところを撮られたのか!?


「ち、違うんです玲子さん、これは違います!」


 僕は必死に言い訳を考えたが、言葉が出て来なかった。焦って変な返答になってしまった。


「修二さん写真撮れたかしら?」


「ああ、バッチリだ。鼻の下が伸びて酷い顔だぜ」


「……ひどい」


 つまり僕は、二人に決定的な証拠を握られたってことか……。これが葉月ちゃんにバレたら、婚約解消になってしまうかもしれない! なんとかして二人を説得して証拠写真を消して貰わねば!


「な、何が目的ですか玲子さん! その写真を使って僕を脅す気ですか!?」


「いえ、そんな事しませんわ。もう葉月ちゃんに写真を送りましたので、お達者で~ですわ! 朝のセクハラの恨みはこれでチャラにしてあげますわ!! あぁ、気分が良いですわ~!」


「すまん薫、俺には止められなかったんだ」


「……ひどいっ!」


 玲子さんはご機嫌に笑っているし、修二は申し訳なさそうな顔をしている。僕はこれから起こる事を考え、気が気じゃなかった。


 朝のセクハラって修二達の初体験を参考にしたっていうあの話か!? あのセクハラとこの写真じゃ釣り合わないと思います……。


「ど、どうしよう……」


「そもそも何でそんな画像見てたんだ?」


「そうですわ! 葉月ちゃんにちょっと似てるところがまたいやらしいですわ!!」


 葉月ちゃんと似てるかな? 髪の長さとか違うけど、胸の大きさとか同じくらいな気がする。色白だし、結構似てるのかも!?


「違うんです聞いてください。あっちの右奥にいるサングラス掛けた人いるでしょ? 帽子まで被って怪しかったから、ちょっと見てみたんだ。そしたらこの画像の人だったの!」


「へぇ……」


 修二が振り返り、サングラスの女性を見つめる。ロングコート着てるし、分からないよね。


「修二さん、あんまりジロジロ見てはいけませんわよ?」


 玲子さんの声で修二が勢い良く顔を正面に向けた。


「それでね、芸能人って出て来たから気になって画像検索してしまいました……」


「あぁ分からなくもないな」


「修二さん!?」


 また修二が怒られてる。でも顔を隠した知らない芸能人が居たら、調べちゃうよね!?


 もうバレちゃったし、あの女性にも不幸になって欲しくない。信じてくれるか分からないけど、言うだけでも違うよね。玲子さんに頼んでみよう。


「話は戻るけど、あの女性の今日の運勢がね、そのー、何というか女性特有のアレな内容でさ、自分じゃどうして良いか分からなくて悩んでたんだ」


「伝えないとまずい感じのやつか?」


「うん……出来れば……」


「じゃあ玲子、上手いこと伝えてやってくれよ」


「分りましたわ。じゃあ薫さん、紙に書いて下さいませ」


 僕は頷き、メモ帳に書いて玲子さんに渡した。今日の運勢を見る限り、アフターピルを飲まないと妊娠してしまうと言う事だろう。しかも『危険です』という文言から言って、祝福されていない。


 以前、千葉の玲子さんの実家にいるお手伝いさんの恵子さんを鑑定した時、今回と同じように妊娠を知らせてくれたけど、あの時は神様がおめでとうと祝福していた。つまり、神様はこの妊娠は祝福出来ないという事なのだろう。きっとみんなが不幸になる、そんな気がした。


 玲子さんはメモを読んで、大きく頷いてくれた。きっと玲子さんも女性として、思うところがあるのだろう。そして玲子さんは一人、壁際にいる女性に話しかけに行った。結果はどうあれ、やれる事はやったのであとは運任せだ。


「ごめんね修二、いつも見せてあげられなくて……」


「いや気にすんな、どうせ聞いたら玲子が反応するようなやつなんだろ?」


「まぁ……たぶん」


 今までの経験上、アレな内容のやつは玲子さんだけにしておいた方が安全なのである。


 冷めきったカレーライスを食べ終わった頃、玲子さんが帰って来た。


「占いの事は伝えていませんが、肌艶の状態とか適当に理由を付けて話しておきましたわ。もしそうなっていた場合のリスクも含めて。どういう結果になるか分かりませんが、もう忘れましょう」


「ありがとう、玲子さん……」


 やはり鑑定をすると、知りたくない事まで知ってしまうのだ。これが身内だったら何が何でも助けるのだが、赤の他人だと困ってしまう。


 きっとこの先、知らなければ良かったと思う事があるのだろう。そんな気持ちを察してか、玲子さんは忘れようと言ってくれた。


 玲子さん優しいなって思ったけど、さっきの写真の件は忘れてませんからね! いつか復讐してやる……。


 そんな事を考えていたら、スマホにアプリ通知の音が聞こえた。震える手で画面を見たら、葉月ちゃんだった。


『今日の夕飯はお鍋ですよ♪ お母さんと一緒に作るので、食べに来て下さいね♡』


 あれ? 葉月ちゃん怒ってないのかもしれない。もしかして助かったのか!?


 さすがに手ぶらで行くのもマズいと思うので、ケーキでも買って行こうかな!


 すぐに返事を出しておきます。きっと大丈夫だ。だって、今日の運勢を見ても平和な一日って書いてあったもん! ふふ……玲子さん残念でした~!


「何をヘラヘラと笑ってますの? 通報しますわよ」


「ふふふ……葉月ちゃんから連絡来たけど怒ってなかったよ。夕飯のお誘いでした!」


「あら、良かったですわね~」


「哀れ薫……」


 なんだろう、玲子さんが全然悔しがってない。しかも修二は憐れんだ目を向けて来る。葉月ちゃんから来た文面を見直してもご機嫌な感じだよね。しかもハートマークまで付いてるし。


 そうか、玲子さんの負け惜しみか! よし、美味しそうなケーキのお店を調べてから行こう。




   ◇




 午後の講義が終わり、一度家に帰って荷物の整理をする。まだ葉月ちゃんのお家に行くには時間が早いので、大学の課題を片付ける。今日はバイトがお休みなのである。


 夕方になったのでそろそろ出かけようと思う。美味しいケーキ屋さんを探してみたが、僕には難易度が高すぎました。なので駅の中にあるオシャレなケーキ屋さんで仕入れる事にします。


 ケーキ屋さんに着いたけど、今度はどのケーキを買えば良いのか分からない。葉月ちゃんはショートケーキとかチョコレートケーキを良く頼んでいた気がしたけど、お義父さんとお義母さんはどんなケーキが好きなんだろうか。


 とりあえず4人分のケーキを選んで行く。ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、モンブランの4種類にしておいた。最悪、僕が余りものを食べればOKだ。きっとどれか当たりがあるだろう。


 葉月ちゃんのお家へ向かう途中、街を彩るイルミネーションを設置している現場に出くわした。つまり、もうすぐクリスマスだ。


 まだクリスマスプレゼントも買えてないし、そもそも当日のクリスマスデートも計画出来ていない。そろそろ本気で考えないとマズい。兄貴にお金借りようかな……。


 そんな事を考えていたら、葉月ちゃんのお家に着いてしまった。やはり立派なお家だ。もし葉月ちゃんと二人で暮らすことになった場合、葉月ちゃんはこのお家と比較して過ごすことになるんだよね。……無理な気がしてきた。


 マンションの入り口で葉月ちゃんに連絡をして、迎えに来てもらう。やはりこのマンションも修二のところと同じくらい厳しいセキュリティなのだった。こんなすごいお家に住んでるお姫様を満足させる家か……。


「先輩お待たせです。さぁ行きましょう」


 僕は葉月ちゃんに腕をギュッと捕まれ、強引にエレベーターに連れて来られてしまった。あれ、昨日も同じような感じじゃなかったっけ?


 エレベーターが上昇し、僕の心拍数も上昇してきた。やっぱり謝るのが正解だよね!


「は、葉月ちゃん、昼間の玲子さんのは誤解なんだ、許して下さい!」


「ふふ……何を焦っているんですか? おかしな先輩ですね」


 やっぱり怒っていないのだろうか。ニコニコの笑顔で僕にしな垂れかかってきた。葉月ちゃんの甘い匂いに頭がクラクラする。


 葉月ちゃんからフェロモンが出ているのだろうか。甘い香りを嗅いでいると、足がフワフワになってしまう。


 エレベーターが目的地に止まり、僕は葉月ちゃんにリードされながら玄関ドアをくぐり、リビングに案内された。


「お、お邪魔します……これケーキです。良かったらどうぞ」


「あら~薫くんお帰りなさい。ケーキありがとね。先に手洗いうがいしてきてね~」


 僕はケーキをお義母さんに手渡し、葉月ちゃんに連れられて洗面台に来ていた。うちのボロアパートと違う、立派な洗面台だ。鏡も照明もピカピカでした。


 リビングに戻って来ると、テーブルの中央にはガスコンロに置かれたお鍋があった。まだ火には掛けられておらず、これから煮て食べるのだろう。ワクワクする!


「それじゃあお鍋が出来るまでお酒でも飲みましょうか。今日はパパ出張でいないのよ、ごめんなさいね。とりあえずビールでいいかしら?」


「は、はい! いただきます……」


 葉月ちゃんはお酒が飲めないのでリンゴジュースです。やっぱりお金持ちのお家にはジュースが常備されているのだろうか……?


 お義父さんは出張中だそうです。やはり企業の代表ともなると、家に居る事が少ないようです。


 軽く挨拶をして雑談をしながら鍋が煮えるのを待っていた時、お義母さんが突然言い出した。





「じゃあそろそろ始めたいとおもいま~す! 第1回薫くんの浮気裁判で~す♪」


 僕はどうなってしまうのだろうか……?

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