第30話 妊娠ですか?
豪華で広い客間には高貴なオーラが漂い、僕の精神をグイグイ削っていく。
僕の隣には葉月ちゃんがいるけれど、葉月ちゃんは高貴なオーラに耐性があるのか、まったくいつも通りです。やっぱり葉月ちゃんも上級階級なのか……。
僕の対面には玲子さんのお姉さんと言っても過言では無い、すごい美人さんがいる。背は玲子さんと同じくらい、金に輝く髪は背中まで届き、ゆるふわパーマで可愛く仕上がっている。この人一体何歳なんだろう? どう見ても玲子さんのお姉さんにしか見えないよ?
葉月ちゃんの対面は玲子さんが座っています。ちょっと葉月ちゃん、場所交換しませんか?
これが兄貴の経験した圧迫面接というやつだろうか……。まだ会話すら始まってないけど、もう帰りたいです。見てるだけで圧倒される人って居るんだね……。
「薫さん、お飲み物は珈琲で良かったかしら? 葉月ちゃんは紅茶かしら?」
玲子さんからお茶の質問が来たけど、僕は首を縦に振る事しか出来ませんでした。葉月ちゃんはニッコリと笑い、紅茶をお願いしていました。
いつもの50倍くらい高貴なオーラを発する玲子さんは、僕の敵に見えた。だって、玲子さんと喋るのも畏れ多く感じてしまうのです。葉月ちゃんは余裕そうだし、すごいなぁ。
しばらく目をキョロキョロさせていると、入口からカートを押したメイドさんが2名やってきた。一人は知らない人だけど、もう一人は先日会った恵子さんと呼ばれていた人だ。
恵子さんが葉月ちゃんに紅茶とイチゴのショートケーキを、僕には珈琲とチョコレートケーキが来ました。残念ながら、こんな状況でケーキとか食べられません! 珈琲の入ったカップなんて見るからに高級品で、僕なんかが使っちゃいけない代物ですよ。
恵子さんだけが入口に待機して、もう一人のメイドさんは帰って行きました。
「お二人とも、遠いところありがとうございます。どうぞ召し上がって下さいね」
「い、いただきます……」
「わぁ美味しそうです! 頂きます~」
玲子ママさんからの言葉に返事するのが精一杯でした。葉月ちゃんはケーキに目を輝かせ、早速頂いています。良かったら僕のケーキも食べますか?
とりあえず珈琲を一口頂きます。苦みが少なくちょっと酸味のある、香りの強い珈琲でした。すごく美味しい……。
珈琲を飲んで落ち着いたからか、少し余裕が出来たような気がする。
「まずは自己紹介を、私は
「えっと、僕は中野薫です。……その、玲子さんにはいつもお世話になっております」
「黒川葉月です! 薫先輩の彼女です。宜しくお願いしますシオンちゃん!」
ああ、やっぱり葉月ちゃんは大物だ。普通こんな大人の女性に『シオンちゃん』なんて呼べないよね。紫苑さんは余程嬉しいのか、葉月ちゃんを見てニコニコしています。
そういえば楓さんは居ないのだろうか? 楓さんの説明するなら本人が居た方が良さそうだけど……。
「玲子お姉さま、楓さんは居ないのですか?」
そんな事を考えていたら、葉月ちゃんが聞いてくれた。今日は葉月ちゃんが居なかったら大変な事になっていたかもしれない。
「……はぁ。楓は今日、埼玉に行っていますわ。朝起きたら既に出発していたようで、日向さんに会いに行くって連絡がありましたの……」
今朝から兄貴に会いに行ったのか! 楓さん、積極的過ぎない? やっぱり楓さんって思い込んだら突っ走るタイプの人なのかもしれない。
というか、部屋の空気が重くなっちゃったよ。兄貴の家族として、僕は謝るしかないな……。
「え、えっと、うちの兄貴がご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……」
僕に出来る事は、ただ頭を下げる事だけでした。
「まぁ薫さん、頭を上げてくださいな。うちの娘がちょっと暴走しているだけですよ。後でお仕置きしておきます」
顔を上げて紫苑さんを見るが、手で口を隠して笑っているが、目が笑ってない。やばいぞ、最悪兄貴が殺されてしまうかもしれない。というか楓さんも昨日の今日で会いに行くのやめてよ!
でもお仕置きって何だろう。ちょっとドキドキする!
「そうでしたわ薫さん、まず最初に御礼を言うのを忘れていました。うちの娘を助けて頂き、本当にありがとうございました」
紫苑さんと玲子さんが二人揃って頭を下げています。これはまずいぞ! こんな高貴なオーラを持つ二人が僕に頭を下げるなんて有ってはならない事だ!!
「ぼ、僕なんかに頭を下げてはいけません! 頭を上げてください! たまたま運が良かっただけですから!」
「うふふ、薫さんは謙虚なお方なのですね」
はぁ、二人とも顔を上げてくれた。心臓に悪いからもうこんな事やめて欲しいです。紫苑さんはさっきと違い、満面の笑みを浮かべている。
「そう言えば薫さん、まだ今日の運勢を占って貰ってなかったですわね。お願いしても良いかしら?」
「え? あ、はい。すぐにでも……」
「まあ! 後で私もお願いしようかしら」
「全然大丈夫です!」
二人を鑑定するとちょうど5回目になるのかな? まあどんな結果が出るか分からないけど、二人を占ってみよう。
どうか神様、平和な結果が出ますように……。
【
T大学2年生
めっちゃ綺麗です! でもヤンデレです。
ウェーブのかかった金髪、スタイル抜群でモデルさんみたい~! でもヤンデレです。
実家がめっちゃお金持ちな社長令嬢様で~す。でもヤンデレです。
千葉修二とは恋人同士でラブラブです♡
ヤンデレ度11%(+1)
※今日の運勢※
夕飯はステーキが食べたいニャン!!
これが今日の玲子さんの運勢です。ステーキが食べたいって運勢なのか? 確かに平和な結果を期待したけど、こんな結果を見せて信用して貰えるのだろうか……。僕に出来ることはありのままを伝えるだけだ。紫苑さんが居るので、自己紹介文の方もそのまま書き写します。
書き終わったメモをテーブルの真ん中に置いた。
「薫さん、ステーキが食べたいんですの?」
「ふふ、今晩はステーキを用意しましょう。恵子さん、宜しくね」
「玲子お姉さまもヤンデレです!」
「ぼ、僕が食べたい訳じゃないからね!? ありのままを書きました!」
僕がステーキを食べたいみたいになってる。しかも夕飯をご馳走になる感じですか?
まずいぞこれは。こうなったら紫苑さんの結果に期待するしかない!!
「え、えっと、紫苑さんも占って宜しいでしょうか?」
「うふふ、お願いしますね」
紫苑さんがワクワクと期待している。下手な結果が出たら大変だけど、占いの信憑性が増す感じの結果をお願いします!!
【
天王寺グループを支配する女帝で44歳の美魔女さん。美しい!
実は旦那さんは婿養子です。知ってた?
葉月ちゃんのお父さんとはお仕事で繋がりがあるらしいよ。知ってた?
※所有スキル※
※今日の運勢※
ワイン保管庫にあるNo.56の赤ワインが飲み頃ですニャン!!
これはどうしたら良いのだろうか。紫苑さんにもスキルがある。このスキルは一体なんなのだろうか……。
とりあえずスキルは良く分からないから隠して伝えようかな!
自己紹介文と今日の運勢を書いてテーブルに置いてみた。ドキドキ。
「玲子ちゃん、私の年齢バラしたのね? お仕置きが必要かしら」
「え!? お母さま待って下さい。そんな事してません!」
「うちのお父さんと繋がりがあったんだ……」
「……」
僕は黙ってます。何も言いません。よし、この隙にチョコレートケーキを食べよう。
チョコレートケーキを口に入れると、上品な甘さとカカオの良い香りがします。これはお高いやつだ!
ふと視線を感じるて横を見ると、葉月ちゃんがこっちを見ていました。はは~ん、さてはチョコレートケーキが食べたいんだね?
もう、しょうがないなぁ葉月ちゃんは。フォークでチョコレートケーキを掬い、葉月ちゃんの小さなお口に運びます。
葉月ちゃんが満面の笑みで微笑んでくれました!! よし、もう一口あげようかな?
「ちょっとお二人とも、急にラブラブになるのやめて下さらないかしら!?」
「ご、ごめんなさい……」
玲子さんに怒られてしまいました。でも許して欲しい、だって女性の年齢の話に入るとか地雷でしかないよね。
「内容に間違いは無さそうね。葉月ちゃんのお父さんのお名前は何て言うの?」
「
「あら!? あの黒川さんのお子さんだったのね。世界は狭いわね~」
僕の知らない情報がいっぱい流れてきます。とりあえず僕には関係無さそうだからケーキでも食べてようかな。珈琲とチョコレートケーキってすごく合うよね!!
あ、もう珈琲無くなっちゃった。そう思ったら、メイドの恵子さんが新しい珈琲を入れてくれました。メイドさんすごい!!
恵子さんと呼ばれる方は、20代後半と思える女性で、可愛い感じのお姉さんです。お胸が大きいのがすごく魅力的です!
あんまり見てると葉月ちゃんに怒られそうなのでもう見ません!
「恵子さんも占いとか好きでしょう? ちょっと占って貰ったらどうかしら……」
「宜しいのでしょうか、奥様」
「薫さん、お願い出来ます?」
「は、はい! よろこんで!!」
あれ、今日って6回目だよね。さすがに6回目にもなると頭痛が酷くなるから断りたかったんだけど、何故か断れなかった。
口から勝手に言葉が出て来たような感じである。今までこんな事なかったのに……。
もしかしてこれが紫苑さんのスキル『
もうこうなったらやるしかない! もうどうにでもな~れ♪
【
天王寺家を支える陰の立役者である港家のご令嬢30歳人妻です!
小さい頃からメイド道を極めるため、たゆまぬ努力をしてきた頑張り屋さん。
あと妊娠3週目ですね。元気な女の子が生まれますよ♪
おめでとうございます!!
※今日の運勢※
黒いレースの下着を履くと運気がUPします! 旦那さんの好きなスケスケで穴が空いててエッチなやつね!!
「……妊娠3週目?」
見た瞬間、口からこぼれてしまった。
「どういうことですの薫さん!?」
「あ、ごめん。すぐ書きます」
まさかこんな情報が出てくるなんて思ってもみなかった。というか妊娠って3週目で分かるの?
とりあえず僕はありのままを書いて伝えよう。でも今日の運勢は書きたくない……けど、玲子さんも紫苑さんも書いてしまったので書くしかないな。
「えっと、これになります……」
みんなが食い入るようにメモ用紙を見ています。今まで自己紹介文にこんな詳しい事が書かれるなんて無かった。
もしかしたら、鑑定のレベルが上がっているのか? よく考えたら今の鑑定で6回目なのに頭痛も眩暈も無い。至って正常だ。
レベルアップの可能性が高まったけど、いつどのタイミングでレベルアップが起こったのかが分からない。神様の気分なのかもしれないな……。
「恵子さん、体調はどうなの?」
「いつも通りの体調のような気がします……」
「もし妊娠3週目として、心当たりは?」
「あります……」
紫苑さんと恵子さんがすごく生々しい会話をしていて、聞いてるこっちがドキドキしちゃいます。つまりこの美人メイドのお姉さまは旦那さんと……。
「……先輩、変な事考えちゃダメですよ?」
「は、はい……」
葉月ちゃんからジト目で見られてしまいました。童貞には刺激の強い話です。ちょっと席外そうかな?
僕は恥ずかしくなり、トイレに逃げることに決めた!
どうか戻ってくる頃には話がまとまってますように……。
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