第3話 本当にそれ、チートですか?

 翌日、朝からバイタルチェックを行い、簡単な問診を行っただけでそのまま退院可能と判断された。


 先生の話では、疲労か何かで倒れたのだろうという診断をされた。脱水症状が見られた以外、特に問題なかったようだ。熱中症だったのかな?


 受付で退院手続きを行ったが、支払いは後日で良いらしい。手持ちのお金もあまり無かったから助かった。心配していた費用だけど、一般的な大部屋と同じ金額と言われた。玲子さんありがとう!


 病院を出ると、桜並木が目に飛び込んできた。でも残念ながら季節が春じゃないため、緑の葉っぱも少なくなっている。きっと春になったら、桜が咲いてキレイなんだろう。  


 病院から最寄り駅に歩き、電車に乗ること1駅、やっとアパートへ帰ってくることができた。


 駅から少し歩いたところにある、ワンルームのアパートだ。1階の角部屋、本当は2階以上が良かったけど、家賃に負けてしまったのだ。


 5日ぶりに帰宅した我が家は、あまり変わっていなかった。でも、玄関に転がったスポーツドリンクも、レンジで温めるおかゆも、見当たらなかった。どうやら部屋の中に移動してくれたらしく、机の上に置いてあった。きっと玲子さんが運んでくれたんだな、ありがとうございます。


 良く見るとスポーツドリンクは半分以上減っていた。記憶に無いが、水分補給をしていたのだろうか。


 着替えなどの荷物を整理し、洗濯をする。大学の方は修二がうまいことやってくれたらしい。あとでノートを写させて貰って勉強しよう。


 手早くレンジでおかゆを温め、お昼ご飯にする。ちょっと物足りないが、買い物も行ってないため冷蔵庫が空っぽだ。後で買い物に行こう。


 おかゆを食べ、少しの間ぼーっとしていたが、そろそろ現実逃避を終わろうと思う。


 目の前にある飲みかけのスポーツドリンクを凝視し、神に祈った。




【スポーツドリンク(1L)】

 有名なメーカーのやつ。アクエリの方だね。

 ポカの方はちょっと甘いからこっちの方が好きなんだよね。よくわかってんじゃん!

 開封から5日経っています。保管状況も悪かったし、飲まない方がいいよ?




 夢じゃなかった。スポーツドリンクから【吹き出し】が表示されている。漫画やラノベにあるような、鑑定能力なのだろうか? ちょっとワクワクしてきた。




【デジタルテレビ(43型)】

 昔と比べると薄くなったよね!

 ソヌーのテレビが一番画質が良い気がするよ~。




 テレビを鑑定してみたところ、また【吹き出し】が表示された。すごくワクワクする!


 そうだ、せっかくだから昔拾った古い硬貨を鑑定してみよう。子供の頃に道端で拾って、保管していたのだ。もしかしたらすごいお宝かもしれない!


 棚に仕舞っていた小さな宝箱から、古い硬貨を取り出した。ちょっと汚れているけど、もしかしたらお宝かもしれない。


 期待を胸に、神に祈った。


 

 

【古い硬貨?】

 うわ、めっちゃばっちぃ!

 ポイしなさい、ポイ。




「………ひどい」


 本当に鑑定能力なのだろうか? ラノベとかで良くあるような、昔の硬貨を発見して質屋で高く売れて大儲けとかさ、そういう夢みたいな感じの事を期待してもいいよね?


 確かにちょっとばっちぃ古い硬貨だけどさ、鑑定結果がばっちぃだけって酷すぎる。せめて何の硬貨なのか情報開示してほしい。うう……頭が痛くなってきた。


 こうなったら片っ端から鑑定だ!




【右手】

 右手です!

 自分を鑑定しようとしたのかな? 残念でした!

 鏡に映った自分に対して、鑑定する感じでやりましょう。やり直し!





【スマートフォン(あぽー)】

 リンゴのマークがカッコイイ!

 もうちょっとバッテリー容量が増えてくれるとうれしいな~。

 あと、友達少なくない?





【あべこべ世界に迷い込んだショタが、年上のお姉さんに甘やかされてドロドロに溶かされるまで(ラノベ)】

 これは……まあ、エッチなやつだね。

 正直ひくわー。

 見られないように本棚の隅っこに隠しておこうね。





「……心が折れる」


 これは何なのだろうか。もうちょっとチートっぽい感じを期待していただけに、落差が激しい。


 とりあえず、吹き出しが消えるように神に祈ると、【吹き出し】がスッと消えた。


 実際のところ、神様なのか分からないし祈る必要もないけど……。


 分かった事は、見たい物に視線を合わせて心の中で願えば勝手に表示される。【吹き出し】を消すのも同じだ。


 ただ、回数を重ね、3回目からちょっと頭痛がしてきた。今日は今のところ6回鑑定しているけど、頭痛が酷くなり目の奥が熱くなってきたのだ。これは回数制限がありそうな予感がするぞ……。


 何度もやって良いやつじゃないのかもしれない。でも最後に、自分を鑑定してみよう。そもそも、鏡に映った自分を鑑定しないといけないとかすごい不親切だ。

 

 風呂場の鏡に自分を映し、自分の事を知りたいと神に祈った。





中野薫なかのかおる

 T大学の2年生。

 彼女いませーん。あと童貞です!

 年上の優しいお姉さんに甘やかして貰いたいとか言ってま~す。だから童貞です!

 そろそろ現実見よう? 童貞くん!



※今日の運勢※

 夕方にバイト先の喫茶店に行けば、気になるあの子に急接近!

 幸せを感じられるかも♪





「……はい。すみませんでした……」


 鏡に映った自分に対して、【吹き出し】を表示させて見た。鏡越しに【吹き出し】が見えるが、文字は反転していない謎仕様だった。


 人物鑑定したのはこれが初めてで、成功したのは嬉しかった。でもさ、漫画とかラノベみたいにステータスが出たりスキルが表示されたり、秘密な情報を期待しちゃうじゃん?


 確かに童貞だし、年上のお姉さん好きだけど、ここまでバッサリ言われるとショックだ。


 この鑑定能力で、一体どうすれば良いのだろうか……。


 でも物の鑑定と違って、人物鑑定には今日の運勢という項目があった。これが正しいとすれば、僕は夕方にバイト先の喫茶店に行けば良いっぽいぞ。


 とりあえず葉月ちゃんとマスターに御礼と謝罪をしに行かないとダメだし、ちょうど良いから夕方に訪問しよう。


 鑑定だけど、今ので7回目になる。さっきよりも頭痛が酷く、目の奥が焼けるように熱くなってきた。これ以上の確認は危険だからやめよう。


 この能力がいつまで使えるのか分からないけど、頻繁に使って良いものじゃないのは確かだ。もし一日における使用制限があると仮定した場合、今日の感じだと一日5回が良いところだと決めよう。


 冷凍庫から氷を取り出し、ビニール袋に入れる。ソファーに寝転がり、上を向いてビニール袋を目に当てると、次第に頭痛が軽くなって来た。


 もうしばらく休んだら、バイト先に行こう。


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