本当にそれ、鑑定ですか?
ポリエステル100%
第1話 【吹き出し】が見えますか?
大学構内にあるカフェテリア、周りにはお昼ご飯を食べる学生で溢れていた。そんなカフェテリアの隅っこで、イケメンの友人である
「ねえ修二、物や人物を見ると色々な情報が見える【吹き出し】が表示されたらどうする?」
僕の突拍子もない問いかけに、修二が心配そうに見つめてくる。修二とは大学からの付き合いだが、今までこういう話題を出したことは無かった。
「突然どうしたんだ? 吹き出しって漫画のセリフとか表示するやつだろ? 漫画とかラノベであるような鑑定能力か?」
「いや、そんな都合の良いものじゃないんだ。ラノベだったらHPとかMP、スキルとか表示されるけど、表示されるのは名前とちょっとした個人情報みたいな感じだね」
「めっちゃ微妙じゃね? 街中で気になる子の情報見て楽しむくらいしか使えないな」
確かに微妙だ。どうせだったらスリーサイズとか好みとか、恥ずかしい情報が分かればいいのに。
「使用制限は1日5回くらい。それ以上使うと頭痛、眩暈の状態異常になります」
「更に微妙になったな。5回なんてすぐ使っちゃうだろ。他に何か無いのか? レベルアップするとかさ」
レベルアップは今のところ無さそうだ。
あとは……。
「1個忘れてた。人物を鑑定すると、今日の運勢が分かります」
「今日の運勢って……当たるのか? 占いだろ?」
「今のところ的中率100%だね。抽象的な内容の時もあるけどね」
「100%当たる占いとかすごいじゃん! それってほぼ予知能力ってことだろ?」
そっか、100%当たる占いって予知能力なのか。
「どう? 欲しくなった?」
「予知能力なら欲しいな。っていうかどんな能力だろうと貰えるもんなら欲しいぜ」
確かにそうかもしれない。漫画とかラノベに出てくる能力が貰えるのなら、日常生活が楽しくなるに違いない。
「修二は鑑定能力持ってる? 【吹き出し】が見えたりする?」
「あるわけないだろ? ……そもそも今までこういう話題無かったのに、いったいどういう風の吹き回しだ?」
修二がジト目で見つめて来る。男に見つめられても嬉しくありません!
「えっと……一昨日まで入院してたでしょ? それで色々あったんだよね」
「まあ……妄想するのは自由だしな。本になったら買ってやるよ」
修二が可哀想な子を見るような目を向けてくる。やばい、完全に誤解されてる。でも本当の事を言ったところで、残念な子を見るような目を向けられるだけだしな……。
先週、僕はバイト先で具合が悪くなり自宅アパートで倒れた。入院先の病院で不思議な夢を見て、気が付いたら【吹き出し】が見えるようになっていた。今の会話で修二に話した内容だ。
やはり修二には【吹き出し】など表示されることはないらしい。そりゃそうか、ゲームじゃあるまいし。
修二を視界に収め、修二の情報が知りたいと意識する。すると、修二から【吹き出し】が飛び出てきた。
【
T大学2年生
めっちゃ頭いいね! 主席狙えちゃうかも? あとイケメン。
茶髪のサラサラヘアーにスラっとした長身の爽やか王子様です。あとイケメン。
※今日の運勢※
合コンに行っちゃいけません! 死んじゃいま~す♪
めっちゃイケメンが協調されてる。確かにイケメンだけどさ……。あと、なんか最後に不吉な運勢が表示されている。
「もしかして今晩、合コンあったりする?」
「……どっから聞いたんだ? テニサーの合コンに誘われてんだよ」
知られたくなかったのだろうか、修二はちょっと顔を顰めた。
でも言っている事は【吹き出し】の内容と一緒だ。死んじゃいま~す♪ のところ以外だけど。
もしこの内容が本当だった場合、事件か事故に巻き込まれて最悪の場合死ぬのだろうか……?
修二と玲子さんは幼馴染らしく、大学に入る前から付き合っているカップルですごく仲が良い。でも玲子さんはちょっと独占欲が強めな女子だ。修二がイケメンなのもあり、いつも気にしている。
もしかして、合コン現場を玲子さんに目撃され……。
「合コン行くのやめよう。死んじゃうから」
「ははは、合コン行っただけで死ぬわけないだろ!? まじうける!」
笑いのツボにはまったらしく、爆笑している。そりゃ普通に考えて合コンに行っただけで死ぬわけがない。でも昨日まで【吹き出し】を確認した結果、少なくとも内容に間違いは無かった。このまま合コンに行かせて良いのだろうか?
修二は大学からの友人であるが、一緒に居て楽しいやつだ。今日までボッチにならず、楽しい大学生活が送れたのも修二のおかげだ。
何としてでも合コンを回避しなければ……。
スマホを取り出し、通話ボタンを押す。
すまん修二、彼女お借りします。
「……もしもし玲子さん? 今晩空いてる? 修二と三人で飲みに行かない?」
『ええ空いてます。修二さんも行くなら絶対に行きますわ』
「ありがとー。詳細決まったらまた連絡するね~」
『わかりました。ではまた』
最終兵器彼女を召喚、これで安心だ。
「おーい
「あんな可愛い彼女がいるのに合コンなんて行く必要ありません。彼女いない僕に喧嘩売ってるのかな?」
「そこはほら、俺がテニサーの可愛い子探して紹介したりとかさ」
「無理無理。みんな修二を狙ってんのに僕のとこ来るわけないじゃん」
修二は可愛い彼女がいるくせに合コンとか大好きなのである。合コンに参加するのも、女性との出会いを求めているわけではなく、将来の人脈作りで活用しているらしい。
修二が参加した合コンは悲惨である。女子たちは、必死にアピールする男子には目を向けず、イケメンな修二を狙ってくる。
彼女持ちの修二からしたら、合コン女子と仲良くなるが、決して男女の仲にはならない、身持ちの硬いイケメンなのであった。但し頻繫に合コンや飲み会に参加しているため、玲子さんの束縛が日に日に強くなっている。
そのうち刺されなければいいけど。
「じゃあ大将のお店に7時集合ね。店は予約しとくから!」
「りょーかい。今日は薫の退院祝いに変更だな。テニサーはまた今度でいいや」
そう言ってカフェテリアを後にして、午後の講義を必死に受けるのであった。
◇
自宅アパートから居酒屋までは、歩いて15分くらいの場所にある。住宅街を抜け、駅に面した繁華街へ足を踏み入れる。
平日の中日というのに、繁華街にはたくさんの人で賑わっていた。
もう夏が終わるとは言え、ビールがおいしい季節である。仕事終わりに一杯飲みたくなるサラリーマンの気持ちが良く分かる。
客引きしてるお兄ちゃんを躱し、大通りを進む。
銀行横の細い脇道に入り路地裏を抜けると、目的地のこぢんまりとした『居酒屋よっちゃん』が見えてくる。
基本的に大将が一人で切り盛りしているため、席数は少ないが料理のおいしい、静かな隠れ家的な居酒屋である。
このお店は修二に紹介され、去年から僕らの集まりはここでやる事が普通になっていた。料理がおいしいし、お酒も種類がたくさんある。しかもリーズナブル!
店内に入り、辺りを見るがお客は誰もいなかった。修二と玲子さんもまだ来ていないようだ。
「こんばんは大将。今日も宜しくお願いします」
「おう薫、よく来たな。好きなところ使ってくれ」
「今日は
「ああ、銀次は野暮用だ」
たまに大将のお手伝いをしている銀次さんは、20代後半の渋いお兄さんである。野暮用ってなんだろう?
坊主頭にねじり鉢巻きをした巨漢が厨房から顔を出している。初めて見たときはちょっと悲鳴を上げそうになった。暗い夜道で会ったらあぶなかったね。
みんなから大将と呼ばれているため、本名とかは知らない。
今なら鑑定して【吹き出し】を見れば個人情報とか分かりそうだけど、大将の過去とかやばい情報が出てきても怖いからやらない。だってあの人、見るからに何人か……。
「……薫、おかしな事は考えない方が身のためだぜ?」
「何の事かな? 今日はいっぱい飲むぞ~!」
大将は考えてることが読めるのだろうか……謎だ。
入口を入って右奥の、4人掛けのテーブルに座る。二人は並んで座るだろうし、適当に奥に座って待つか。
しばらくスマホをいじくって、情報まとめサイトを見る。猫の記事があると欠かさず見てしまう。子猫も好きだが、おっきいデブ猫が寝ている姿も好きだ。猫さいこう!
ニヤニヤとスマホを見ていると店の入り口が開いた。
「大将ちーっす」
「こんばんは大将さん。薫さんおまたせしましたわ」
美男美女カップルの登場である。独り身には眩しすぎる。玲子さんは同学年なのに敬語を使いたくなる美人さん。修二よりは背が低いけど、僕と同じくらいの身長だから170cmくらいだろうか。
スタイルも良く、背中まで届く金髪は見る者を魅了し、モデルをやっていても不思議じゃない。正直なところ、修二の彼女じゃなかったら、僕が接する機会は一生無かったと思います。
二人が隣同士に並んだところで、飲み会のスタートだ。ふと、イケメンと美女のデートに居座る、空気読めないやつのようなポジションだなって思ってしまった。
「生でいい?」
「とりあえず生で! 大将生3つ!!」
「あいよー!」
すぐに大将が、キンキンに冷えたジョッキを持って来てくれた。
『かんぱーい!』
冷えたビールが喉を刺激し、ほろ苦いオレンジの風味が鼻を抜ける。大将の店で出すビールはオレンジピールを使ったものらしく、他の店とは違ったおいしさがたまらない。
しばらく近況報告をしながら、料理を楽しむ。
特に目新しい事は無いが、気を遣わず会話する事が非常に楽しい。
「それにしても薫さんから飲み会に誘ってくるなんて珍しいですわね」
「そうなんだよ。他に予定あったのにキャンセルしたんだぜ」
「……他の予定ですの? まさか合コンかしら?」
「ち、違う違う。お友達から飲み会のお誘いあったんだよ。でも、薫の退院祝いの方が大事だろ?」
修二が墓穴を掘っている。まあ今回は僕が強制的に合コンを回避させてしまったし、助けてあげよう。
「実は二人に相談したい事があるんだ」
「相談ですの?」
「やっとバイト先のちっこい後輩に告白するのか?」
「いや
ビールで喉を潤し、姿勢を正す。
修二も玲子も察してくれたのか茶々を入れてくることも無く、真剣な表情をしている。
「……実は先週から【吹き出し】が見えるようになったんだ」
「……」
「……」
沈黙が痛い。
店内には大将の調理する音だけが響いている。
そりゃそうだ。急に【吹き出し】が見えるなどと言われても、リアクションが取れないのだろう。
しょうがない。仕切り直しだ。
「実は先週から【吹き出し】が見えるようになったんだ!」
「おい玲子、こいつ頭イかれちまったよ」
「やっぱり先週の高熱が原因でしょうね。お父様に良い病院を聞いてみますわ」
「そういえば昼間も鑑定能力だの【吹き出し】がどうのこうの言ってたな。ステータスとか占いとか、ラノベの設定考えてたぜ」
「妄想と現実の区別がつかなくなってるのね。やっぱり病院紹介してあげますわね」
「ほんとなんだよーーー!」
やっぱり信じて貰えなかった。
こうなったら先週起こった事を全部説明するしかないか。ビールを一気飲みして気合を入れる。
「聞いてくれ、事の始まりは1週間前……」
そうして僕は、自分に起こった奇妙な体験を説明するのだった。
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