第23話 時期はずれのバレンタイン
いいことがない……そう思ってたハルミにも、ちょっといいことがあった。
未咲「春泉ちゃん、はいこれ!」
春泉「ミサキ……これ何?」
未咲「チョコレートだよ。バレンタインまだ間に合うかな?」
春泉「そういえばそんな日あったっけ……」
そのこともすっかり忘れる毎日。ミサキも早くくれたらよかったのに……。
未咲「春泉ちゃんどうしてるかなーって思うとなかなか作れなくて……ごめんね、いまになっちゃった」
春泉「ありがとう……ハルミ、おいしくいただくね……」
白い息がふたりの間に生まれてすぐ消えていく。甘い時間だった。
未咲「いろんなことがあって大変だったって聞いたけど……大丈夫だった?」
春泉「うん、ハルミなら大丈夫だから……」
未咲「困ったときはわたしに連絡してね? 春泉ちゃんの妹にもよろしく伝えて」
春泉「ほんとに大丈夫だから……」
心配されたくないって気持ちがひしと伝わってくる。なんとかなおそうって思うのはいいけど、それで無理はしてほしくない。
未咲「ゆっくりでいいからね? しっかり休んでいこ?」
春泉「そうする……」
未咲のコトバはうれしいけど、いまのハルミにはなんだかうまくのみこめない。
春泉「あのね、ミサキ……」
未咲「何、春泉ちゃん?」
春泉「ハルミ、きょうも眠れなかった……」
未咲「……そっか、ぐっすり眠れる日がくるといいね」
それだけ言って爽やかに去っていく未咲。やっぱりハルミにはわからない。
春泉「ハルミにはミサキみたいに愛する人もいない……なんで……」
ひとり暗い影に落とされたみたいで、動くことができなかった。
♦
うみ「そういや瑞穂はことしのバレンタインなんかした?」
瑞穂「ひとりバレンタインを楽しみました。百貨店で販売していたチョコを味見できるだけ買いましたよ、それはもう」
うみ「よかったな。余ってたらあたしにもいっこくれないか?」
瑞穂「あいにくですけど全部食べちゃいました。どれもおいしかったので」
うみ「おいおいそこはちょっとくらい残すってのがいいってもんだろ……まぁ瑞穂が楽しかったっていうんならそれでいいけどさ」
瑞穂「てへっ」
こいつはこいつでちゃんと楽しいこと見つけてるんだなってわかって、それがなんかよかった。
♦
玲香「なかなかうまく弾けないわね……わたしこんなに下手だったかしら……」
十分部屋も暖かいはずなのに、手がしっかり動いてくれない。
玲香「あの子がいないとわたし、ここまで落ちてしまうなんて……」
ここは自分の力でなんとか乗り越えたい。そう考えてる。
玲香「そういえばこの前あの子からバレンタインチョコもらったわね……時期はかなり外れてたけど……」
溶けかけてたのを見ると、あの子の詰めの甘さと熱量が伝わってくる。
玲香「……食べるのはもうちょっとあとにしましょう」
常温(といってもここではかなり低い)でも保存できたけど、念のため冷蔵庫に入れておく。
玲香「さて、いつ食べられるのかしらね……」
自分にむちうって、そのご褒美をあとまわしに練習を続けた。
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