第9話 勇者たちは白之魔女に翻弄される?②

     3


 朝食を取り終えた後、俺と摩耶は学園内の校庭に移動する。

 移動の道中にも色んな人に声を掛けられていることから、さすが摩耶は有名人なんだなと実感する。

 開いているベンチに腰を掛けて、食堂で購入してきたホットコーヒーをすする。

 食後のコーヒーって本当に美味しい。て、おっさん臭いって!?  放っとけ!


「でもな……。その、俺の恋人問題とかいう話なんだけど……」

「何よ?」


 摩耶はカフェラテをちょぴっと飲むと、俺の方を見て問うてくる。


「いや、摩耶は俺とお試しで付き合うって言ってるけど、他の……例えば、江奈とかとも付き合う形になるのかな……」

「うーん。まあ、あなたの気持ち次第ってところじゃないかしら」

「どういうことだよ」

「私たち4人は、あなたにとって『近しい存在』なわけよ。だから、あなたの身に起こる『死の宣刻』を止めることができる。とどのつまり、あなたにとって、みんなが前世で好意を抱いていたということになるわね……」

「ふーん。好意ねぇ……。てことは、魔王だった摩耶も俺に対して好意を!?」

「何よ! 私が好意を抱いちゃ悪いって言うの?」

「いや、別に悪くはないかもしれないけれど……、何だかちょっと変わってないか……。それは?」

「まあ、確かにそう言われるとそうかもしれないわね……。でもね、私は最初から魔王として生まれたわけじゃないの……。最初は普通に人間の父と母に育てられた人だったはずなの……」

「両親から生まれたわけではないのか?」

「分かんない。そもそも前世の記憶もそんなにバッチリと蘇っているわけじゃないのよね。だから、時々、有耶無耶になってしまう場所もあるの……」


 摩耶は物思いに耽るようにカフェラテをすする。

 その瞳はどこか遠くを見ているようだった。


「私ね。両親を目の前で殺されて、絶望したところに奴隷商人たちに取り引きされそうになったのよ。そこで、何かによって力が付与されて奴隷マーケットそのものを崩壊させたのよ。奴隷として売られる予定だった娘たちも全員をね……」

「それはさすがに……」

「やっぱ引くよね? それが普通の反応だと思うよ。そのあと、力を認められて、『闇之魔王ダークネス』として、君臨するようになったんだけど、自我が崩壊していくのも時間の問題でね……。与えられた力に振り回されて、最終的に乗っ取られていた。再び自我が戻されたのは、あなたに最後の一撃を喰らわされる直前だった。その瞬間、自分の身体が朽ち果てていくのを見て、『あ、私、これで終わるんだ』って感じたの」

「………………」

「何だか、悲しくなっちゃうよね」


 そういうと吹っ切れたかのようにカフェラテを飲み込み、


「でも、まさかこうやって転生できたんだもの。前世で幸せになれなかった分、絶対に幸せになってやるって思って生活してきたの!」

「な、なあ……」

「どうしたの?」

「摩耶って、前世で俺と一緒に……いや、何でもない」

「何よ……。何だか煮え切らないわね!」

「いや、たぶん俺の思い過ごしだと思う」

「でも、私とアンタとの接点って魔王と勇者ってだけなのよね?」

「ああ、そうだよな。さっきも言ったけど、今回、転生しているのは『あなたに好意を抱いている人』なのよ。でも、私は魔王として乗っ取られていたんだから、好意も何もなかったと言っても過言じゃないのに……。何だか変な感じよね!」

「そうだな……。究極のツンデレだな」

「何それ! 私のどこがツンデレキャラだって言うのよ!?」

「いや、そこだろ……。そのまんま、そういうところがツンデレだろ!?」

「ツンはしてるけど、デレはしてないけれど!?」

「本当か? 俺が意識を失っているときに純粋にキスだけしてるか?」

「……う゛っ!?」

「部屋で一人、慰めているときに甘えてないか?」

「……ううっ!?」

「ホラな……。そういうところだと思うぞ。ま、前世で奴隷だの魔王だのと辛い思いをしてきたのはよく分かったよ……」


 そういうと、俺は摩耶の頭を撫でる。

 急に撫でたからか、摩耶は少しビクッと身体を震わせた。


「何よ……、そうやって優しくして……」

「他意はねぇよ。俺は誰にでも優しいの」

「そうね。江奈ちゃんにも優しいものね……」

「まあな、江奈は小さいころから病弱とかもあって、ずっと面倒見て来たから、ある意味では特別なヤツだな」

「………特別……か………」

「ん? 何か言ったか?」


 俺が問い返すと、摩耶は耳まで顔を真っ赤にした状態だった。

 視線を合わせることなく、


「今は私にとっての特別になってよ……。慰めてほしいんだから……」

「それ……、完全にデレだろ……」

「いいわよ、別に。素直にそういう気持ちなんだから……!」


 そう言うと、摩耶はそのまま俺の太ももを枕かわりにして寝てくる。


「お、おいっ!? さすがにこれは校庭ではマズくないか!?」

「そう? じゃあ、こうやって顔を出さなければいいのかしら?」


 そういって、俺の腹の方に摩耶は顔面を向ける。

 いや、ちょっと待て。

 それはそれでおかしくないか?

 変な気を起こさないように俺は落ち着きながら、摩耶の頭を撫でている。

 撫でられている摩耶は、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしてでもいそうだ。

 周囲の視線は少ないとは言えども、こちらのほうにチラリチラリと向けられている。

 今のところ、摩耶であることを悟られているような感じではないが……。


「ちょっと恥ずかしいんだが!?」

「別にいいじゃない。仮でも付き合うって私は認めてるんだから」

「いや、そういう問題じゃなくて……」


 校庭は北学舎と南学舎の間にあるため、心地よい風が吹き抜ける。

 吹き抜ける風はふわりと摩耶の髪の匂いを運んでくる。

 やばい……。可愛いし、いい匂いとか……。

 たぶん、俺は休みの日ということもあって、少しばかり気が緩んでいたのかもしれない。

 ほわほわとした気持ちになり始めてしまった。

 そして、今、それどころではない問題が摩耶の方にも起こっていたのである。



     4


 ああ、神楽の太ももは温かいな……。

 頭を撫でてくれると何だか嬉しい。そして、落ち着ける。

 神楽も別に私と付き合ってることがみんなにバレてもいいのに……。何だかんだでシャイなのかしら……。

 て、前世の記憶も話しちゃったし、どうしてこうも神楽の前だと話をしちゃうんだろう。

 まあ、周囲の視線があるところでは、どうしても、すぐに素直になれない自分がいたりするんだけれど……。まあ、これが神楽が言う「ツンデレ」なんだろうな……。

 でも、どうしてもあの「光の杭」が打ち込まれてから、そういう感情で突き放したくなる時が何度もある。

 発動条件がどういうものなのか分からないけれど、今は素直でいられるみたい……。

 でも、本当に私ってどうして神楽と「近しい存在」になれたのかしら……。

 幼少期の記憶があまり定かじゃないのよねぇ……。


「ああ、こうやっていると本当に恋人みた………い!?」


 私は「い!?」だけ大きな声になってしまう。

 そう。私の目の前には何かが膨らんでいる。

 しかも、目鼻の先にあることから、その大きさ、そして匂いが直接伝わってくる。

 ちょ、ちょっと!? もしかして、神楽ったら私は膝枕させてもらっているだけで、どこにそんなことになる要素があったというの!?

 視線を少し上にすると、神楽は視線を合わせられないといった様子で周囲を気にし始めているのが分かる。

 きゅぅん♡

 え、私、どこに期待が高まることがあるっているの!?


「……ね、ねえ、神楽ぁ……♡」

「ま、摩耶!? ど、どうしたの?」

「ヤバいかも……。スイッチ入っちゃったかもぉ……♡」

「いや、まだ午前中だし……、それにここみんなの目線もあるよ!?」

「……で、でも、本気でヤバいかも……。もう、あそこが……」

「わ、分かったから、ちょっと保健室行こう!」


 俺はそう言うと、彼女に肩を貸して、そのまま保健室へと向かうことにした。

 幸いなことに道中、誰かに見られることもなく、そのまま保健室に入ることができた。

 て、何で、休日に普通に保健室が開いているんだよ……。

 と、そんなことを言っている余裕はない。

 ベッドは誰も使っていないらしく、カーテンは全開になっている。

 俺はすぐさま摩耶をベッドに寝かせつける。

 そして、隣にも使われるとまずいので、そちらのカーテンも締める。

 改めて摩耶に目を向けると、可愛い顔がピンク色に染まり、甘い吐息を漏らしている。

 普通に男としてこんなの起たないわけがない……。

 が、さすがにここで何かあれば不純異性交遊として罰されるのは目に見えている。

 俺はパイプ椅子に腰を下ろすと彼女を見つめる。

 彼女はベッドの中で何かをしているのか、もぞもぞと身体を動かし、時々ビクビクッ! と身体を震わせている。

 も、もしかして、これが「自慰行為オナニー」なのか!?

 俺は思わず見てはいけないものを見てしまったような気がしたので、退散しようとする。

 が、それは摩耶のベッドから伸びてきた腕に妨げられる。


「ど、どうしたの? 摩耶……?」

「ねえ、お願い……。この気持ち、収まらないの……♡」


 てか、言い方がいやらしい! シチュエーションもいやらしい! そして、見つめてくる摩耶そのものがいやらしい!

 コイツ、夜中に自室でこんな顔して、俺のこと考えながらシてるのかよ!


「大丈夫。誰も来ないし……。それに私もシたかったし……」

「うわっ!?」


 摩耶が無理やり、俺をベッドの中に引き込む。

 いつの間にか、ベッドの中では摩耶は服を脱いでいた。

 本人に言うと間違いなく怒るであろうが、可愛い胸がチラリと見えてくる。


「舐める? おっぱい? それとも、ここ?」


 と、普段の凛々しい摩耶はどこかへ吹き飛んだような性欲の塊と化した彼女は俺の右手を下着の中に導く。

 そこは濡れすぎていて、ローションもいらないくらいだ。

 指は繊細な場所に偶然にも触れてしまい、


「……ふあぁんっ♡」


 その声を耳元で聞いてしまい、俺の下半身も燃え滾ってしまう。

 こ、これはさすがにマズいのでは!?

 彼女は俺を迎え入れるように両手を広げ、


「……お願い、シて……」


 さすがに耐えて来たけれど、俺ももうダメだった。

 俺は彼女の喘ぎ声が聞きたくて攻め続けた。

 そして、摩耶が受け入れる準備が整う。

 俺はそのまま摩耶に―――――――――。





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作品をお読みいただきありがとうございます!

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