第4話 ラッキースケベで命が救われる勇者。③
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駅前の商業施設に着いたのは、あたしの方が先だった。
駅前にある噴水広場の時計は、まだ9時30分―――。
同じ学園の領地内で寮生活を送ってはいるけれど、さすがに入り口で一緒に会って、どこかに出かけるなんてことは、同性ではあったとしても異性同士ではありえない。
そこは一応、紳士淑女たるもの分を弁えたうえで生活を送ること、という校則のひとつが物語っている。
だから、学園から離れた場所で落ち合うというのが当たり前になっている。
とはいえ、それを学園側も別に騒ぎ立てるつもりもないらしい。
だから、友だちもみんなやってるから問題なく、あたしたちもこうやって初デートができるのである。
あたしはショルダーポシェットからコンパクトを取り出すと、その鏡で前髪を整える。
今日は一段とおめかしをしてきた。
寮で同室でクラスの委員長をしている優紀ちゃんが女性としての身だしなみということで朝から整えてくれたのだ。
優紀ちゃんは私と祐二の関係に関しても、それ相応に理解してくれているようで―――。
興奮した甘い吐息を漏らしつつも、心身ともにすっきりした私は、汗と愛液を流したくてシャワーを浴びるためにシャワールームに行った。
シャワーを浴びつつ、自分が部屋でしでかしたことに、羞恥心に身悶えながらも、熱いシャワーで汗を流し落とす。
シャワーを終えると、気持ちもスッキリして、気分良く自室をドアを開けると、そこに優紀ちゃんが仁王立ちで立っていた。
「ゆ、優紀ちゃん!? ど、どうしたの!? そんな怖い顔して……」
「ねえねえ、江奈? どうしてこの部屋っていつからこんな淫靡な香りを漂わせる部屋になっちゃったんだろうね?」
淫靡な香り?
あたしは一瞬、真顔で「何を言っているのだろう?」という表情になる。
その瞬間に悟った。
一人エッチがバレている、と―――。
あたしは折角流したはずの汗が再度噴き出してくる。
「臭いのもとを辿ると、江奈のベッドのシーツにこんなに大きな染みが出来ちゃっているの? ねえ、何してたの? 下着はどうしたの? 洗って上げようか?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? ご、ごめんなさい! そ、その、
「―――――え。」
いや、お願いだから、そんな汚物を見るような視線を送らないで欲しい。
すでに優紀ちゃんに一人エッチのことを告白しただけで、HPはゼロなんで……。
そんなあたしの首根っこをひっつかみ、
「で? やっぱり神楽くんのことを思ってしちゃったのかなぁ?」
「……………!?」
ピクリと身体を震わせてしまう。
あぁ、素直な自分を今は嫌いだ。
「ち、ちが――――」
「思ってたよね?」
と、優紀ちゃんはあたしのシャツの上から胸の突起をソフトタッチして来る。
「ひぅんっ♡」
「んふふ。あの男っぽい江奈がいつのまにか、こんな乙女に成長しちゃっているなんてね? で、好きなの?」
あたしは抵抗しても無駄と悟り、コクリと頷いた。
その後根掘り葉掘り喋らされ、週末のデートのことまで喋らされたのであった。
だが、その後はいつもの優紀ちゃんで、「一生懸命、乙女として仕上げてあげる!」と息巻いていたのであった。
おかげで今日のおめかしは完璧なくらいできている。
ちゃんと祐二は気づいてくれるのかなぁ……。
あたしは腕時計を見る。ピンクのバンドで盤上が可愛いアナログ時計。これも優紀ちゃんが貸してくれた。
「ちょっと、早く着きすぎちゃったかな……」
「まあ、俺もだからいいんじゃないか?」
聞きなれた声が横からした。
あたしは振り返ると、そこには祐二が少し照れながら座っていた。
「あれ? 祐二!? 早くない!?」
「いや、お前に言われたくないって……。30分も前に来て、その辺キョロキョロと挙動不審で見てただろ……」
「……えーっ!? ずっと見てたの!?」
「いや、すぐに声掛けようかと思ったんだけど、その……いつも以上に可愛かったから、間違ってたら恥ずかしいと思ってよ……」
え? 今、「可愛い」って言ってくれた……?
あたしは驚きで目を見開いていたが、ふっと笑みがこぼれてしまう。
祐二はその私の反応に対して、
「お、おい! 何か、今、悪い考え持っただろう?」
「ううん! そんなことないよ!」
あたしでも可愛いって思ってもらえることがあるんだ!
何だか、自信ついちゃうじゃん!
そ、それに誰にも渡したくなくなっちゃうよ……。
ふっと、その瞬間、あの女の顔が浮かぶ。
「今日は独り占めしちゃうからね! 祐二!」
「お、おう!」
あたしは祐二の腕を引っ張って、商業施設の中に飛び込んでいった。
初デート、というのは何をすればいいのか分からない。
水族館や映画などの
でも、いいんだ。
こうやって手を握り合って、一緒にウィンドウショッピングをしたり、取り留めもない会話で笑えることが幸せだから。
だって、こういう時間がそもそも学園では味わうことができない。周囲の目があるからね。
「こうやって祐二と時間を共有できるだけで本当に楽しい!」
「何だか、昔に戻った感じだな」
「そうだね。小学生や中学生のときなんかは、何も気にしないで一緒に遊びに行ってたもんね!」
「ああ、そうだったな。江奈の身体が本当に強くなって良かったよ」
……キュン……。
そうだ。祐二がいてくれたから、あたしはこうやって病を克服して、走り回ったり、長時間歩いたりすることが出来るようになった。
それは一朝一夕で成し遂げることが出来たことではなくて、祐二と一緒に努力してきたから出来たこと。
「そうだね! 祐二、あたし本当に嬉しいよ! こうやって一緒にデート出来るようになれたこと!」
爽やかな笑顔を返してくる祐二の顔を見ると、やっぱり心がドキドキとしてしまう。
胸が熱くなって、キュンとしてしまう。
思わず顔が赤くなってしまう。さっと、視線を逸らすと、そこには今日の目的地であったソフトクリーム専門店が目に飛び込んでくる。
「あ、あそこのお店!」
「お、あれが言ってたやつか?」
「うん! そうなんだ! 色々な味とフレーバーがあって美味しいんだって!」
あたしは祐二の腕を引っ張って、お店に飛び込んだ。
祐二はバニラ、あたしはストロベリーを注文して、商品を受け取り店内の席を探す。
「お、あそこ空いてるじゃん」
祐二が見つけたのは店の奥まった二人掛けの席だった。
雰囲気はそれほどって感じでもあったが、店内は混雑していてその席しかなかったこともあり、座ることにした。
スプーンで一掬いして、口に運ぶ。
程好い甘さとひんやりとした感じ。そして何より牛乳の搾りたてのような味が魅力的でもあった。
「美味しい!」
「俺のも凄いな。牛乳を食べているみたいだ!」
「え? 本当に? ちょっともらってもいい?」
「ああ、いいよ」
あたしは口を開けて少し待ってみる。
なかなか大胆なことをしたかもしれない。「あーん」とおねだりをしてみたのだ。
祐二は察してくれるだろうか。
「ほら、食ってみろよ」
祐二は自分のスプーンにソフトクリームを一掬いすると、あたしの方に差し出してくる。
あたしはそれをパクッと口に運ぶ。
祐二が少し頬を赤らめているのは、お相子だよ。あたしも恥ずかしかったんだからさ。
「うん! 美味しいね」
「だろ? 良かったよ」
あれ? ちょっと会話が止まっちゃった。
やっぱり大胆なことをしすぎちゃったかな。
いっそのこと、訊きたかったことを口に出していることにした。
「あ、あのさ……。この間、放課後に摩耶さんと一緒だったじゃない?」
「え? あ、うん」
ちょっとばかり気まずい表情をする祐二。
「あの時、どんな話してたの?」
「知りたいのか?」
「うん。隠し事はしないで欲しい……かな。だって、摩耶さんは魔王だったはずだもの」
「もう、知ってるんだな……」
あたしはコクリと頷く。
そして、意を決した表情で祐二の方を向き、
「あたしたち、もともと一緒のパーティーだったんだから、隠し事なしでいけないかな?」
「いいよ。それに俺たちは幼馴染でもあるしな」
「うん!」
祐二からはその時の話を聞くことが出来た。
あたしたちには呪いが掛けられていて、祐二と「近しい存在」である者ならば、濃厚なキスをすると、祐二のことを思うだけで卑猥な気持ちになるという。
あー、すでに経験したあれだなぁ……と、あたしは納得してしまう。
そして、もう一つが祐二本人に掛けられたもので、「死の宣刻」というもので、一週間に一度、「近しい存在」と行動している場合に起こる強制魂魄剥離現象のことを指すらしい。
これは知っている。
少し会話で漏れ聞いていたやつだ。
「近しい存在」の唾液を交えることで、リセットされるというもの。
「まあ、困ったよな……。だから、江奈もその『近しい存在』だから、もしも、俺が苦しんでいたら、助けてくれよ。て、お願いしにくいことだけどな……」
「え? ううん! 大丈夫だよ! 今まであたしを守って来てくれたんだもの。今度はあたしが助けてあげなきゃね!」
「ま、そんなに簡単に起こるわけないんだけどな……」
メッチャフラグ立てたような気がするけど……。
「ちょっとあたし、お手洗いに行ってくるね」
「ああ……」
あたしはお手洗いに行き、ソフトクリームの所為で崩れた化粧を整える。
こういうのが大事って優紀ちゃんが口うるさかったんだもの。
あたしは化粧具のポーチを片付けると、席に戻る。
すると、壁の方にもたれている祐二が――――。
苦しそうな表情をしているけれど、息をしていない……。
「これって――――!?」
この席が壁際かつ奥の席で本当に良かった。
あたしは祐二の傍により、みんなから見えないように身体で隠し、
「クリーム付いてるよ………」
そっと、バニラ味のする彼の唇に甘酸っぱい自身の唇を重ねた。
そのまま舌を絡めて、んちゅぬちゃ……といやらしいキスをする。
目の部分がピクリと動くのを確認して、そっと離れる。
「……もしかして……」
祐二は寝起きのような表情をしながら、あたしに確認して来る。
あたしは意地悪く微笑み、人差し指であたしの唇に振れ、
「うん! ご馳走様♡」
「……………!?」
「これで摩耶さんのキスを上書きできたかな?」
「そう言う恥ずかしいことをさらっと言うの止めろって……」
「いやだった? 美人御令嬢のキスを上書きされちゃうのは?」
「だから、揶揄うなって! どっちにしても、俺の記憶はないんだから……」
「じゃあ――――」
………ちゅ………
あたしは戸惑う祐二を気にせずに唇を重ねてキスをした。
「ほら、これで味わえたんじゃない? 乙女とのキッスをね!」
「………こいつ」
んふふふ! 今日のデートは最高だな!
好きな人に対して、ちゃんと記憶に残るキスしちゃえたんだもの!
優紀ちゃんの言うとおりね。ちゃんとメイクを直すのってすごく大事なことだわ。
あたしは満足そうに席に座り、反応に困る祐二をニコニコ笑顔で見つめていたのであった。
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