第1話 勇者は平凡な“ラブコメ”を求める。①
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階段に
上り始めてすでに半日以上が過ぎた。
ボクは仲の良い地元の幼馴染と一緒にゴールを知らない道をただ、ひたすら上っていた。
「世界のへそ」とも言われる、ニュース島に何万年も昔からそびえ立つその樹木は、多くの人が上る観光地のようなものであった。
そう、ここは世界樹———。
大きな枝は一部が空洞になっていて、通路代わりにもなっている。
世界樹は成長を続けており、緑の葉を生い茂っている。
この世界樹の頂上に生えると言われる「老緑葉」は、人々の蘇生させる力を宿しているという。
また、これらの葉から煮出した液体を特殊な薬液と調合してつくったものを、ポーションと呼んでおり、人々がケガをした際に回復魔法を使用できないものが、治癒に使用したりする。
そんな世界樹の葉の狭間から陽光が差し込んでくる。
「見て! もうすぐでゴールよ!」
女の子はボクの手を引き、そして残された力を使って走り出した。
目的を達成できるというその喜びを味わうために———。
ボクは引かれるまま駆け出す。
そして、視界が開けた。
そこには、海を越えた世界を見渡せる眺望が待っていた。
「うわ~、すごいや!」
「本当ね! 本当に凄いわ!」
ボクらはその景色に見とれてしまう。
時間としては昼過ぎといったところだろう。
まだ、見渡す海は晴天の下で真っ青であった。
「……ね、ねえ、カグラ、知ってる?」
「うん? 何を?」
「6歳までに世界樹の頂上に上り切って、世界樹の神様にお祈りを捧げると、その二人は将来、結ばれるんですって」
「結ばれるって結婚するってこと?」
「うん! そうだよ! 私、将来、カグラのお嫁さんになりたいの! カグラは私じゃ嫌かな……?」
女の子は少し照れ臭そうに、目を逸らす。
ボクは引っ張られていた手を握り返し、
「ボクも君と結ばれたい!」
「本当に! 嬉しい! じゃあ、お祈りしに行こう!」
頂上広場の奥にそびえ立つ、世界樹の女神像の前で、ボクらは手を握り、胸の前に添え、一緒に言葉を紡ぐ。
「「私(ボク)たち二人が将来、何があろうとも結ばれますように———」」
お祈りを終えると同時に、女神像の周囲が白くまばゆい光に覆われる。
「きゃぁああああっ!?」
「うわぁぁぁああっ!?」
ボクらは祭壇から少し退く。
そこには白の法衣をまとった女性が立っていた。
「あ、あなたは……!?」
「私は
「ねえ? どうする?」
「ぜひ、やってもらおうよ! 私たち、幸せになれるなら嬉しいもの!」
彼女は微笑んで、俺の手を握り、
「では、おまじないをしてあげるね」
そういうと、
言葉は空間に文字となり、そのままボクらの手に描かれた文様に吸い込まれていく。
「はい、これでおしまい。二人とも仲良くするのよ」
「うん!」
「ありがとう!」
ボクらは
そもそも『そんな「おまじない」など存在しない』ということを知らないまま———。
1
「ふあぁぁぁぁ……眠いな……」
スマートフォンが6時半きっかりにアラームで起こしてくれる。
俺は眠気眼を擦りながら、ベッドから身を起こす。
俺・
俺がこの度、入学した「聖天坂学園」は、明治11年に創設された伝統ある学校で、名家からの入学をするものも多く、所謂、「名門校」として名前を馳せていたりする。ちなみに現在は初等部・中等部・高等部の3つが併設されている。
え? そんな学校は聞いたことがないだって?
もちろん、学力面でもしっかりと行き届いた教育がなされているけれど、この学園に入学している生徒の多くは日本の大学への進学をするものは少ない。むしろ、海外の有名な大学へ進学する生徒の方が多く、海外の大学で見識を広げてから、日本の国家のために財閥や企業を率いていくといった「井の中の蛙」で終わらせないための教育方針を取っていたりする。
そのため、入学する者については、全寮制となっており、「自分で考え、多くの仲間と共に答えを導き出す」というオックスフォードなどの名門大学では当たり前となっている考え方をすでに高校生から学べるというのがこの学校の良さでもある。
俺は、そんな学校に猛勉強の末、入学が許された。
そして、何よりも俺は色々な意味で目立ってもいたりする。
立地の関係で、朝日がバッチリ差し込んでくるあたり、なかなか遅刻をさせないようになっていると感心してしまう。
「祐二くーん!」
窓の外から元気のよい女子生徒の声が聞こえてくる。
ロックを外し、ドアを開けると、声の主は下の方にいた。
「寝坊してないね! 偉い偉い!」
クリッとした翡翠のような瞳の
少し茶色がかった髪を後ろでポニーテールにしてピンク色のシュシュで束ねている。
おっとりとした優しい系美少女で、俺とは小学校以来の幼馴染だ。
俺が手を振ると、江奈も大きく手を振って、
「食堂で待ってるから、早く下りて来てね! 首席入学者が遅刻じゃ、締まらないよ!」
と、叫ぶ始末だ。
いや、他の生徒たちから見られていて、普通に恥ずかしいのだが、本人はそうは思っていないようだ。
毎朝、江奈は俺を起こすためか、生存確認のつもりか知らないが、窓の外から声を掛けて来てくれる。これによって、他の寮生からも目をつけられていたりするわけだ。
実は、聖天坂学園の寮は、男子と女子で別々の寮となっていて、お互いの敷地に入り込めないようになっている。寮の2階に全生徒が使用可能な大食堂があり、そこでは男女が入り混じることができる。が、当然ながら各々の寮に入り込むことは許されることではない。
とはいえ、この大食堂と学舎内では自由に交流できるのだから、男女別々の寮にしているのは単に不純異性交遊を防ぐためと言ったところだろうか。
それと、さっきの江奈の言葉にもあったが、俺はこの学校に首席入学を果たした。
もちろん、血の滲むような努力をしたからの結果なのだが、これにも深いわけがあったりする。
それは、優秀な人材である俺がしっかりと目立って、趣味で読んでいる糖分甘めのラブコメのようなことをリアルな世界で実現したいからだ!!
え? ちょっと頭がおかしいって……?
失礼な! そりゃ、これほどの名門校にいながら、ラブコメ的展開を求めるのは間違っているかもしれないけれど、これだけの生徒(高校だけでも生徒が600人ほど)がいるのだから、そんな展開があってもいいではないか!
ということで、一応、俺の狙い通り……か、どうかは分からないが、注目を集めることだけは事欠かない状況となっている。
ただ、俺の横には常に、幼馴染の江奈がいるのだけれど……。
2
俺は身なりを整えて、食堂に向かう。
食堂の方からは朝食のいい匂いが鼻孔をくすぐってくれる。
今朝の朝食メニューは和食。
男子寮の専用の食堂の入り口を通ると、そこにはすでに江奈が待ってくれていた。
「もう、レディーを待たせるなんて失礼だぞ!」
「いつから江奈はレディーと呼べるほど大人になったんだよ」
「あ! 酷い! あたしの身長のことを言っているのか!?」
確かに江奈は少し小さめだ。
俺は身長が170センチほどあるが江奈は155センチほどで、俺から見るといつも見下ろしているような感じになってしまう。
「まあ、あながち外れてはない……」
「いや、言い方が優しいだけで、それって『チビ』って言ってるじゃないか! あたしだって、これからもっと大きくなって、そ、その……祐二の……、て、祐二!? 何であたしのことスルーしちゃうかな!?」
「あ、悪ぃ悪ぃ……。列が進んだから……」
「うあ。あたしのこと眼中にもないってこと!? このままじゃ達成できないわよ! 高校生活ラブコ……ぬぐっ!?」
俺は慌てて江奈の口を片手でふさぐ。
「こら! 人の多いところでそんな発言をするんじゃねぇ……。仮にも俺は首席入学者なんだから、その威厳というものも持っていないといけないだろ?」
「そ、そうなのか? 別に祐二はこれまで通り祐二で良いんだぞ……。あたしにとっては……」
「これまで通りの俺って何だよ?」
「……あたしに優しいお兄さん的な存在だった祐二……」
うあ。ちょっと待って!? それ、メチャクチャ懐かしいやつだし……。
幼稚園とか小学生のころじゃないか!?
確かにあの頃は、俺は江奈を守ってやるということがたくさんあった。
どうしても身体が弱かった江奈を支えてやりたいという気持ちが子どものころから自然と出ていたからだと思う。
とはいえ、そのころのことを今更持ち出さなくてもいいと思うのだが……。
それにどうして顔を真っ赤にしてるんだよ……。
そんな表情されたらこっちだって恥ずかしくなってしまう。
「……ま、まあ、別にそのころの俺と今も基本的な考え方は変わってないから安心しろよ……。身体の弱い江奈を護るのは俺だってことは……」
「……う、うん。ありがとう……祐二」
て、あれ? どうして幼馴染の江奈と勝手にラブコメのような展開になっているんだ!?
違う。決して違う。
江奈に対して俺が持っているのは、助け合いの心であって、恋愛というものではない。
それに幼馴染キャラって、ラブコメ界隈では本物の彼女と修羅場になる設定が多いじゃないか!
ただ、江奈の反応は急にしおらしくなってしまっているような気がする。
いや、気のせいかな……。
何て言うか、急に乙女っぽくなってしまっているような気がしてならないんだけれど……。
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