第7話

 その何日かあとだったと思います。父は珍しく上機嫌でした。遺跡発掘で出土した貝殻が街で売れたとかで。街で魚の干物を買って来てくれた父に、わたしは「貝殻ってなに?」と尋ねました。

「海にいる生き物の抜け殻だよ。昔はこの辺も海だったらしい。珍し物が好きな変わった人が欲しがって買ってくれたよ。今、大きな骨をみんなで掘ってるところだから、それもまとめて街へ持って行って売るんだ。山分けしてもかなりの額になるだろうってさ。そしたら、もっといろいろ買って来てやるからな」

 そう言って頭をなでてくれた父は、以前の父となにも変わりませんでした。でも、治ったわけではないと、わたしは知っていました。

 それからわずか数日後、父は、遺跡発掘作業から外され、近くの河川整備の工事作業に回されることになりました。村長がほかの村と情報を共有して、近頃は雨量が増えているから氾濫の危険があると判断したといいます。村長から給料が払われることとなり、安定した収入を望む人はむしろ喜んでそちらの作業へ加わったそうなんですが、一獲千金を望んでいた父は、希望を断たれて落ち込んでしまいました。それなら村長を説得して遺跡発掘のほうへ残れるようにすればよかったのにと、今では思うんですが、父には話し合うとか、目上の人に対して自分の意見を主張するとかいう能力がなかったんです。

 母は、ろくに食事も摂ろうとしない父の背をなでて、「そんなに落ち込むことないよ。自分がすべきことをやって、やりくりすればいいだけなんだから」と慰めましたが、それまで消沈していた父は、突然なにかが切り替わったように立ち上がり、「うるさい」と静かに言って母を殴りました。

 わたしはいつものように心を閉ざし、自分の部屋へ逃げ込みました。そして、いつか自分が大きくなって父を見下すことを空想し、ただ時が過ぎることだけを待ちました。

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