第12話 本音を聞きたい
頼の答えを知りたかった。
実は、さっき家に帰った時、璃々佳は真尋へ声をかけようと思っていた。しかし、頼の靴を玄関で見かけた途端、急に二人をびっくりさせようと決めた。なるべく音を立てずにダイニングへ近づいた時、二人の会話に自分の名前が聞こえてきた。その時、真尋は丁度頼に自分のことをどう思っているかという質問をしていたところだった。
頼が自分に対する気持ちはいったいどうなのかずっと知りたかった。でも、直接にを聞く勇気はなく、せいぜい軽く探り合っていたぐらいだった。それに、頼は質問の真意に気づいてないのか、それともわざと聞き流したのか、確かめようがなかった。
もし違う人が質問していたら、頼の本音を聞き出せるかもしれないという期待があった。残念ながら、頼はいつものようにこういう系の質問に答える気がなく、いとも簡単にすぐ話題を変えた。
同じ高校に入った時、璃々佳は二人の関係が少しでも変わるかもと密かに期待していた。しかし、頼はいつも遼と一緒に行動していて、同じクラスにいても頼と二人きりになれる時間を増やすこともできなかった。ただ唯一幸いなのが、頼は学校で特定の女子と仲良くしていたこともなさそうだった。その反面、好きな人がいるかどうかすら確認できなかった。
このままだと、二人の間に何も変わらない。そして高校を卒業後に違う道へ進んでいたら、接点もなくなるでしょう。
溜息をついた璃々佳は一旦気を取り直し笑顔に切り替えてから、真尋の方へ戻った。
*
真尋は頼が持ってきた食べ物の容器をキッチンの料理台へ移し、ダイニングテーブルの片付けをしていた。
「マロ、お待たせ!ああ、それいいのよ、片付けは私がやるから」
「別にいいし、手が空いているよ」
「ごめんね、あなたを家に一人残して、そしていきなり入って来た頼にも驚かされたでしょう。片付けまでさせてはいけないよ」
「友達なんだから、気にしないで。でも確かに驚いたね、重岡くんの急登場。でも、彼は予想より話しやすい相手だと初めて知って、なんか意外」
「頼と今まであまり話したことないんだっけ?でも、小中高一緒でしょう?」
「小学生からの顔見知りだけど、二人で話すのは滅多にないね。それより、さっき私たちの会話を盗み聞きしたでしょう?」
「ええ?何の話?」
「あなたの影が見えたから、ほら、壁のところに。で、いつから私たちの会話を聞いていたの?」
「バレたか?盗み聞きのつもりはないけど、ただ二人を驚かせようと思って隠れていた。そしたら、自分の名前を聞いてしまって、好奇心でつい出てこないというか…」
必死に説明しようとした璃々佳を見て、真尋は意地悪そうな笑顔を見せた。
「やっぱり、重岡くんの気持ちが知りたい?」
「知りたいけど、単なる好奇心で」
「そうは見えないね、リリは重岡くんのことが好きかな…」
「そうじゃないって!たださあ、親しい友人なのに、いつもこんな恋愛話になると、頼は何も教えてくれないの。なんか訳ありそうで…」
「そうかな?でも、ああいう感じだと、好きな子いるかもしれないね」
「そうなの?どうして?どこからそれを…」
「リリって分かりやすいね」
「…時々こう思うけど、マロって結構意地悪いことをよくするね」
「まあ、これは見れば分かるよ。だってリリは重岡くんのことずっと見ていたから、眼差しやら表情がすごく柔らかくて」
「あら、さっきの誰かさんは自分が恋愛に関して詳しくないと言ったっけ?」
「ハハ、それはこれと違うのよ。ただリリを観察しているうちに気づいただけ。だって、増田くんを見てる時はそうならないから!」
「遼みたいの人を好きになれる人はかなりの物好きだと思うけど。ていうか、マロみたいに意地悪そうなだから」
「それはひどいね!でもさあ、直接聞いても教えてくれないと思うよ」
「何が?」
「重岡くんの本心」
「まあ、教えなくても結構ですけど」
「ええ、本当に?」
「この話はこれでおしまい」
そうは言っても、璃々佳はまだ諦めていない。だけど、真尋の協力を得て頼の本心を探る選択肢があるかもしれないが、璃々佳はなぜかそれに抵抗感があった。
自分の恋のために、自分で頑張らなきゃ意味がない。
*
一方の頼は、初めて真尋と話が出来たことで興奮状態になっていた。
長年遠くから見ていた人が目の前にいて、しかも楽しく会話ができたって、これ以上の幸せはないはず。会話の内容はそこまで深い話ではなかったが、それはどうでもよかった。
好きな人がいるかって聞かれた時、どう答えるべきかに戸惑っていた。その場の勢いで真尋に告白したらさすがにまずいと判断した。だが、匂わせるような発言をしたら、逆に誤解されたらもっと困る。だから、はっきりした答えをしないまま話題を変えた。
せっかく話をするようになったから、違うタイミングで真尋の気持ちを聞かせてもいいと思った。
でも、頼はいいタイミングって中々見つからないものということをまだ知らなかった。
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