ずっと前から。愛していた

椎名さくら

第1話 余命九時間

は?どういうこと?わけわかんない。嘘だよね?修君が人殺し?意味がわかんないんですけど。

「心当たりはありませんか?末田修斗の行きそうな場所に。あなたの恋人と伺っていますが。」

警察が聞いてくる。確か山田とか名乗っていたっけ。いや、そんなこと今はどうでもいい。

「ほ、本当に修君なんですか?何かの間違いじゃないんですか?修君があの殺人鬼なわけがありません。」

「家から証拠品がでているので、連続少女誘拐殺人の犯人で間違いないでしょう。今は行方をくらましていますが。居場所になにか心当たりはありませんか?些細なことで構いません。」

「い、いえ、とくに思い当たる場所はないです。」

「そうですか。では、何か思いだしたら警察にご連絡ください。」

そういって警察官は去っていった。

体の力が抜ける。壁にもたれかかて、ずるずると座り込む。いまだに理解が追いつかない。

修君があの殺人犯?ありえない。彼女の私が言うのだから間違いない。いつも一緒にいた。修君のことならなんだって知っている。

末田修斗とは小学校のころからの幼馴染だ。小さいころから仲良しで、別々の大学に入る前に告白され、すでに一年付き合っている。人殺しだなんて信じられない。それに、例の殺人犯なわけがない。そもそも、私は少女なんて年齢じゃない。殺人犯は性的暴行をしているとテレビで言っていた。私は対象外だ。

「そうよ。何かの間違いよ。修君が殺人犯なら告白なんてされるわけがない。」

声に出して否定すると自信が持ててきた。

「きっと何かの間違いなんだ。修君も困っているはず。力にならないと。」

そうと決まればやることは一つ。修君に連絡を取ろう。

やることが決まれば、体に力が戻ってくる。立ち上がってスマホを取りに行き、電話をかける。十五秒ほどでつながった。

「修君?私だけど。大丈夫?今どこにいるの?さっき警察がきて、修君を殺人犯って言ってきて。やってないよね?今どこにいるの?」

「お、落ち着いて。僕は大丈夫だよ、りさ。僕は人殺しなんてしてないよ。何かの間違いだって。」

いつものきれいな修君の声が返ってくる。不思議だ。修君の声を聴くと、なぜだかすごく安心する。

「そうだよね、よかったぁ。でも心配だよ。どこにいるの?警察が家にいないって」

「今は友達の家に泊めてもらっているよ。警察が誤解していることに気づくまで家にかくまってもらってる。」

「でも、大丈夫かな。」

不安は尽きない。

「大丈夫だよ。心配しないで。ただ、食料を買ってきてほしいんだ。友達は今旅行中でいないんだけど、僕は外出られないし。」

そうだ。今修君が頼れるのは私だけなんだ。私が力にならないと。

「わかった。持っていく。場所だけ後で送って。」

「わかった。じゃあまた後で。愛しているよ。」

「うん。私も」

少し体が軽くなった気がする。電話してよかった。

すぐに修君からメッセージが届く。現在時刻は午後三時。少し遠いが、六時頃にはつくだろう。

荷物を急いでまとめる。緊急事態とは言え、会えると思うと顔がにやける。鼻歌を歌いながら私は準備を始めた。


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