不器用なアラフォーの恋

紗久間 馨

十一月、雅貴の朝

 十一月の終わり、寒さが強まった朝。カーテンの向こうはうっすらと明るい。スマホで時間を確認して、もう少し寝ていられたと思う。ロック画面に設定した写真には嬉しそうに微笑ほほえ幸子さちこがいる。

「一緒に写真撮ろうよ」と誘ったのは雅貴まさたかだ。幸子は恥ずかしそうに「うん」とうなずいて顔を寄せた。

 最後に見たのは泣き顔だった。どこで間違えてしまったのだろう。


 ベッドサイドのテーブルには二枚のハンカチがある。それらは幸子にもらったものだ。プレゼントではなく「返さなくていい」と言って渡された。少し前にもらった一枚をつかんで鼻にあて、思い切り息を吸う。幸子の気配を少しでも感じたい。

 幸子のことを思わない日はない。声や触感を思い出しながら、想像の世界で幸子を抱く。髪型や雰囲気が似ている女優が出演する成人向けの動画を見ることもある。

 しかし、欲望を放ったあとに残るのはむなしさだけ。隣に幸子はいない。幸子が欲しい。


 幸子は雅貴が久しぶりに恋愛感情を抱いた女性だ。好みのタイプではなかったはずなのに、どうしようもなく好きになっていた。雅貴自身が理解できないほど急激に恋に落ちた。幸子が雅貴を笑わせるし、雅貴も幸子を笑わせたいと思う。幸子とならずっと幸せでいられると強く感じていた。

 つい先月、告白をして振られた。だが、幸子は本当は雅貴のことが好きなのだ、と紹介してくれた人に言われた。幸子には時間が必要らしい。

 

 一か月以上が過ぎた。待っていれば良い返事がもらえるのだろうか。期待と不安が入り混じる。幸子は「友達」と言ったが、もう友達としてなど見られない。もっと親密な関係を雅貴は望んでいる。幸子も好きだというのなら、どうして?

 幸子に会いたい。幸子が友達だと言ったのだから、友達として会えばいい。しかし、会えばきっと抱きしめて離したくなくなる。そんなことをすれば二度と会ってもらえないかもしれない。恋しくて、愛しくて、胸が苦しい。

 幸子から連絡が来るのを待つ日々に、もう耐えられそうにない。明日、十二月になったら幸子にメッセージを送ろう。内容はなんだっていい。一言でも返事がほしい。〈寒いね〉と送って〈そうだね〉と返ってくるだけでもいい。

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