第16話 テント
罠によって転移させられ、転移した先でドラゴンと遭遇することになった僕たちは精神と体力を消耗して、非常に疲れていた。
今の状態でダンジョン探索を続けても、疲れから集中力が失われているので見つけられるものも見つけられない可能性が高い。
モンスターと遭遇して、戦闘に入っても苦戦する可能性もある。そう考えたので、腰を下ろして休むことにした。
幸い、僕は魔法使いだった。魔空間という、重量などが関係なく多数のアイテムを持ち運べるという便利な魔法が使える。
その魔空間の中に、食料や野営道具などをずっと昔から入れてあった。僕も忘れていたような古い道具を引っ張り出してきて、今回活用することが出来た。
「しかし、エリオット君が居て助かったわ」
「本当にそうだな。私達2人だけじゃ、多分ドラゴンにやられて死んでいただろう。上手く逃げ切ったとしても、外に出ること無く飢えて死んでいただろうしな」
2人は、僕の渡した緊急用に用意しておいたバランス栄養食を食べながらしみじみと語る。
「まだ、安心するのは早いですよ。それに、今日ダンジョンに潜るキッカケになったのは僕が原因です。だから、もしも僕が居なかったらダンジョンに入ることもなく、罠に引っかかることも有りませんでしたよ」
この事に思い至って、少し心苦しく思っていた。もしも、僕がダンジョンに行こうと思わなかったら、今頃どうなっていたのだろうか。彼女たちは何事もなく、一日を終えていたはず。
「まぁ、そんな想像で物事を言い合っても仕方ない。それよりも、これからどうするのか話しましょう」
「わかりました」
気を遣って話題を変えてくれたシモーネさんに感謝しながら、同意をする。今後、どうするのか。過去のことよりも未来のことを考えるべきだ。食事を素早く終えて、誰から休むのかを話し合う。
「とりあえず、誰か1人モンスターが近づいて来ないか見張っておいて。その間に、残りの2人が先に寝れば良いだろうな」
「それじゃあ、私が先に見張り役を請け負うわ。エリオット君と姉さんに比べて私はまだ体力に余裕があるから、先に2人が休んでちょうだい」
フレデリカさんとシモーネさんの2人でスムーズに話が進んでいく。この辺りは、さすが普段冒険者として活動している彼女たちだった。気持ちを切り替えがシッカリ出来て、落ち着いている。とても頼もしい人達だった。
「そうか、じゃあ私とエリオットが先に休ませてもらおうか」
フレデリカさんが瞬時に判断して、誰から寝るのか決まった。僕も、先に休ませてもらえるようだ。だけど、ちょっと問題がある。
「それで頼りっぱなしで申し訳ないが、地面に敷く何か、寝具とかあれば貸してくれないか?」
「えぇ、もちろん良いですよ。テントと寝袋があるんでソレを使いましょう」
僕達が今居る場所は気温が低く少し肌寒くなっていて、そのまま寝っ転がっているだけででも、地表に体温がじわじわと奪われてしまう。
そうなっては、体力回復もままならない。なので、魔空間から睡眠のための道具を取り出してくる。取り出したのは僕が昔旅していた時に使っていたテントと寝袋だ。保温してくれるテントと地表の冷たさを回避できる寝袋は、非常に有用だった。
「ただ、このテントは一人用なので僕も見張りしますよ。先にフレデリカさんがこのテントで休んで下さい」
僕はテントを取り出して2人に見せる。基本的にソロでしか活動しない僕の持っているテントは、一人用の物しかなかった。
この一人用のテント、僕が1人だけで使う分には余裕だった。だが、2人で入るとなると窮屈になってしまう。ましてや、身長が僕よりも大きい2人が入ってしまうと余裕がなくなる。
「うーん、それなら私よりもエリオットが先に休めよ。私よりも疲れているだろうし、元々お前の物だから先に使う権利があるだろう」
フレデリカさんは、僕に遠慮して先に使わしてくれるように言ってきた。しかし、今日ずっとダンジョン内で前衛を務めてくれて、体力を一番に使って頑張ってくれたフレデリカさんよりも先に休むのは心苦しい。
そこから、しばらくの間に譲り合いになってしまった。
どちらかテントの外で寝袋だけ使って寝ると言ったり、いっそのことテントは使わないで、みんな外と言った意見も出た。だが、あるものを使わないのはもったいないという事になり、どうやってテントと寝袋を振り分けるか話し合いが続いた。
「それじゃあ、狭いですけど一緒に入ってみます?」
「「それで!」」
「あ、うん」
僕が冗談で言ってみるとフレデリカさん達は、それは非常に良い提案だと同意してしまった。僕の考えでは断ってくると思っていたのに。
冗談が本気で取られたため今更冗談だったとは言えなくなって、本当に一緒に寝ることになった。
今日初めて出会った女性と、一緒のテントで寝る。どうなんだろうかと思ったが、緊急事態だし少しでも早く多くの体力を回復するために、という配慮してくれているのだろう。
「やはり少し狭いな」
直ぐにテントを立てて、先にフレデリカさんが中に入っていく。そして僕の貸した寝袋に入り込む。寝袋は予備にもう一つ持っていたが、テントの中で2人で寝る事になった今は窮屈になってしまうため、一つの寝袋を共有することになった。
「お邪魔します」
「コレは君のだろう、遠慮はいらない」
フレデリカさんが入っている寝袋に、僕も一緒に入ることに。こんなに女性と密接するのは初めだった。妙に暖かいフレデリカさんの体温を感じるほどに、ピッタリと密着する。
僕が寝袋に入りきった時に、フレデリカさんと顔が向かい合う形になった。改めてフレデリカさんの顔を至近距離でじっくりと見て、非常に整っている事に気が付く。
途端にこんなに綺麗な女性と一緒に寝ることになって恥ずかしさと、少しの疚しい気持ちが湧き出て胸が高鳴ってしまい、気づかれないように背中を向ける。
テントは非常に狭くて、一つの寝袋を共有することで肌と肌の接触は当然だった。
僕はローブを脱いでいて、薄着の状態で寝袋の中に入った。フレデリカさんは露出が多くて締め付けの強い防御着を脱いでリラックスしていた。
そして、今はほとんど裸に見えてしまう下着状態になっている。彼女の肌の感触がより直接的に感じれてしまう。
背を向けた僕の身体を、後ろから抱きしめるフレデリカさん。この姿勢が収まりが良いということで、後ろから抱きしめられるままにおとなしくする僕。
後頭部に丁度彼女の大きくて柔らかな胸が当たる感触を意識しないように考えるが、どんどんと頭がポーッと暑くなってくる。多分、僕の顔は今真っ赤になっているだろう。ソレぐらいに恥ずかしかった。
そんな状態だったから、しばらくの間は興奮してしまって眠れないと思っていた。けれど想像以上に疲れていたみたいで、僕は気づけばグッスリと眠りに入っていた。
次に目覚めた時、既にフレデリカさんが見張り役をしていた。いつの間にか僕は、シモーネさんに抱きしめられていた。全然、気が付かなかったな。
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