第14話 自己紹介

「さてと、落ち着いて話せる場所まで移動してきたはいいものの、どうしようか?」


 召喚されたという場所から、遠く離れた場所まで移動してきて森の中に降り立った彼ら4人。背に乗せていたシャルロットを地面に降ろして、バハドゥートは人の姿に変身すると落ち着いた声で皆に問いかけた。


「先ずは、お互いの事を把握するのが先決だと思います」


 シャルロットが意見を出した。4人は召喚されて偶然によって出会い、なんとなく一緒に行動しているが素性は明らかでない。まず、お互いのことについてある程度は知っておきたかった。敵か、味方か。


「なるほど。それじゃあ僕から言おう」


 そう言って、最初に皆を代表してバハドゥートから自己紹介を始めた。他の3人は特に止めることもなく聞く。


「私の名前はバハドゥート。先ほど変身した姿を見て分かると思うが、ドラゴンだ。世界の敵と呼ばれて、何度も勇者に倒されてきた」

「勇者……」


 バハドゥートが自己紹介していると、シャルロットが反応して小さな声で呟いた。3人とも聞こえていたが、誰も触れること無く自己紹介は続く。


「次は私! 天使です。おしごとを休んでたら、呼ばれました!」


 手を上げて、私の番だとアピールして自己紹介を始めた幼い少女。先ほどまで背に出していた6枚の羽は、今は隠して見えなくなっていた。


「名前は?」

「名前は、ミラベールですッ」


 肝心の名前を言わなかったので、バハドゥートが問いかけると元気いっぱい彼女はミラベールという名前を答えた。子供のように、はしゃいでいる。


「シャルロットです。えっと、その勇者をしてました」

「勇者?」


 続いて、質素な服を着て直前まで死にかけていた美女が自己紹介を始める。

 恐る恐る、という風に自分の名前を名乗った。話を聞いていて、勇者という言葉に引っかかりを感じたのはバハドゥート。


「はい。最後は勇者の称号も剥奪されて祖国の裏切り者として処刑される寸前だったので、正確に言うと元勇者ですけれど」

「なるほど」


 あらかた話を聞いて、それ以上は深く事情について聞かずに、バハドゥートは残り1人に視線を向けて聞いた。同じようにシャルロットとミラベールも視線を向ける。だが彼は、話だそうとはしなかった。無関係な風を装って、立っている。


「君は?」

「……どうだっていいよ、俺のことなんて」


 黙ったままずっと、じっと立っていたのでバハドゥートが自己紹介を促すが、彼は面倒だと思ったのか拒否をした。


「何か、話せない事情があるのか?」

「面倒なだけだ、話したって無駄さ……」

「言わないと、またメッってするよ?」


 自分の事については打ち明けようとしない、ここに居る3人に名乗るつもりはないと考えていたようだ。そんな彼を見て、ミラベールが強硬手段に出ようとしていた。メッ、というのは先ほどから何度かダメージを受けることになった彼女の攻撃魔法。言うことを聞かないと、再び魔法を撃つと。


「天使が脅しかよ……ハァ、まったく。まぁいいや。俺の名はベリル、悪魔だ」


 無理やり聞き出そうとしてくるミラベールに呆れたようなため息をつき、観念して自己紹介した。漆黒の翼を広げて、本当に悪魔であるという事をアピールしながら。


 その場に、元勇者、ドラゴン、天使と悪魔という4人のバラエティー豊かなキャラが勢揃いしていた。


「それで皆これから、どうするの?」


 不思議そうな表情を浮かべて3人に尋ねたのは、ミラベールだった。この先、どうするのか疑問に思っていた。しかし、ベリルは何を言っているんだコイツ、というような顔を浮かべて発言した彼女を見た。


「は? どうするって、ここでお別れでしょ。同じ召喚に巻き込まれたみたいだが、それだけだ。後は自由にってことで。サヨナラー」


 さっさと別れて立ち去ろうと、ベリルは軽く手を振ってその場から離れようとしたけれども、再びミラベールに容赦のない攻撃をされたベリル。


「痛えー!? う、腕がぁぁ……、テメェ、な、なにしやがる!?」


 腕に手を当てて、さすりながら思いっきり痛がるベリル。グンッと力強く引っ張られたような感じで、悪魔の強靭な身体でも関節が外れそうな程のパワーがあった。


「駄目だよ。君はさっきので人間に攻撃したでしょ? なにか悪いことをしないように、天使の私がちゃんと監視してあげる」

「はぁ? 嫌だね。何が監視だよ」


「監視は嫌なのね。じゃあ、捕まえてく」

「なにっ!?」


 そう言って、白い輪っかをベリルの周りに出現させる。コレに捕まるとヤバイっと直感した彼は、慌てて避けた。


「逃げちゃ駄目だよー!」

「テメェ、マジかッ!?」


 追いかけてくるミラベールを、避け続けるベリル。その場から離れようとしても、上手く回り込まれて逃げられない。煽ったりふざける余裕もなく、逃げ続けた。


「わ、分かったよ! しばらく、一緒に行ってやるからっ! ソレをヤメロ!」

「約束だよ」

「(チッ、仕方ねぇ。今は奴の言うことに従ってやるが、タイミングを見計らって、絶対に逃げ出してやる)」


 ベリルが降参して、ミラベールは追いかけるのを止めた。そして、逃げ出さないでと約束を取り付けた。


「それじゃあ、シャルとバルも皆で一緒に行こうね」

「私もですか」

「僕もか」


 ミラベールの決定により、4人は一緒に行動することが決まった。これが、異世界に召喚された4人の出会いである。

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