第9話 お別れと、一方その頃

「今日はありがとうございました。勉強になりました、シャルロットさん」

「いえいえ、コチラこそ。とても助かったわ」

「いや、僕なんか、そんな大したことなかったんだって実感しました」


 シャルロット達と出会った頃から感じていた実力の格差。改めて今日、パーティーを組んで一緒にダンジョンに潜って痛感したジョゼフ。


 年上で女性なのに、戦う技術は張り合う気すらなくなるぐらい完全に負けているし戦闘の経験値が違いすぎる。筋力ですら敵わないし。


 同年代ぐらいのベリルにも魔法技術で圧倒される。実は、近接戦闘もこなせるから勝ち目がないし。悔しい思いをしていた。


 年下で幼い女の子でもあるミラベールにも負けるとなると、今まで自分が過ごしてきた冒険者としての人生が何だったのか考え、落ち込んでしまうジョゼフ。


「まぁ、その、な。俺たちが強すぎるだけで、お前もなかなかの実力者だぞ」

「そうだよ、ジョゼにぃは凄いんだよ。落ち込まないで大丈夫だよ」

「ありがとう、2人とも」


 流石に落ち込んで暗い表情を浮かべるジョゼフの顔を見て、煽りすぎてしまったかと反省したベリルが慰める。ミラベールも一緒に、励ましの言葉をかけた。しかし、優しい2人の言葉を聞くと逆に、情けなさが胸にきてしまうジョゼフ。そして彼は、もっと強くなりたいと密かに願った。


「それで今日の報酬金なんだけれど、はい。これはジョゼフくんの分ね」

「いえ、受け取れないですよ」


 シャルロットはアイテムボックスの中から金の入った袋を取り出して、ダンジョン攻略に同行してくれた報酬金としてジョゼフに渡そうとした。だが彼は、受け取りを拒否する。モンスターをより多く倒していたのは3人の方だし、回収した素材を地上まで持ち帰ってきたのはシャルロットとベリルの力であり、自分はそんなに役立っていないと感じていたから、受け取れなかった。


「いいの、いいの。これは君が働いた分のちゃんとした報酬だから受け取ってね」

「いや、でも」


 拒否を続けるジョゼフの手に、金袋を押し付けて受け取るように言うシャルロットだった。


「なんだ、ジョゼ。お前が要らない、って言うなら俺が貰おうか」

「駄目よ、ベリル。貴方には、ちゃんとお小遣い上げるから今は我慢なさい。ほら、彼に奪われる前にジョゼフくんが、ちゃんと受け取って」

「えっと……、じゃあ、あ、ありがとうございます」


 横から奪い取ろうと伸ばしてきたベリルの手をはたき落として、シャルロットは尚も受け取るように言うので、ジョゼフは観念して報酬金を頂くことにした。


「それじゃあ、ジョゼフくん。私達は家に帰るから、貴方も気を付けて帰りなさい」

「あ、はい。ありがとうこざいます」


 仕事が終わって別れる直前まで、気を遣ってくれるシャルロットにジョゼフはお礼の言葉を伝える。


「じゃあな、ジョゼ。また遊ぼうぜ」

「うん、また遊ぼうか」


 煽ったりするけれど、何だかんだ言いつつ仲がいいジョゼフとベリルの2人。仲よさげに別れた。


「バイバイ、ジョゼにぃ」

「またね、ミラちゃん」


 可愛らしく手を振って別れを告げるミラベールに、ジョゼフも手を振り返して別れを告げた。


 シャルロット達、家族3人は仕事を終えて皆で一緒に家に帰宅した。



***


 シャルロット達がダンジョンに潜っている頃、家族の大黒柱であるバハドゥートは何をしていたのかというと、カイと一緒に会議室へと向かっていた。


 今朝。カイがバハドゥールの住む家まで呼びに来て、家から出た2人は並んで歩き親しげに会話していた。


「すみません、こんな朝早く。家族の時間も邪魔しちゃって、バルさんを引っ張ってきちゃって」

「なに、気にする必要はないよ。ジェラルドさんが待っているのだろう?」

「はい。今、ウィシュトシュタが順調なんで会長は張り切っちゃって。早く皆で働き復興しないと、って気持ちが強いみたいで」

「なるほどな」


 予定では会議が行われる時間は、もう少し後だった。しかし、商会の代表者であるジェラルドという人物が既に会議室で待機していたので、バハドゥートを呼びに来たという訳だった。


「でも、羨ましいですバルさん」

「なにがだ?」


「あんなに美人な奥さんを持てて」

「あぁ、シャルの事か」


 話題は変わり、バハドゥートの妻であるシャルロットのことについて。

 本気で、バハドゥートの事を羨ましがるカイ。先ほど家を訪ねた時を思い出して、美人な彼女を見て、優しく気遣いもしてくれるし、出かける直前までバハドゥートとシャルロット2人が仲よさげに会話している光景を目の当たりにして、自分もこんな幸せな家庭を築きたいと渇望する。


「カイくん、君にはそういう女性は居ないのかい?」

「えっと、その。気になっている人は居ます」


 顔を赤らめて恥ずかしながら、カイはバハドゥートに打ち明けた。


「なるほど、いいじゃないか! その人との関係は、上手く行っているのかな?」

「よく話したりします。だから、仲は良い方だと思いますね。ただ、恋愛感情にまで発展はしていないかな、って感じです」


「その人と恋人になったり、結婚したいと思うかい?」

「冒険者ギルドで受付嬢をしている娘なんですが働き者で、とっても可愛いですし、話をしていて楽しいので恋人になれたら嬉しいと思います」

「なるほど」

「その、け、結婚はまだ想像できないんですが、出来たら最高かもしれないです」


 恋愛相談を受けるバハドゥートはカイの言葉を聞いて、少しだけ彼の背中を押してみた。


「その娘に告白は?」

「いや、無理ですよ僕なんか。バルさんみたいにカッコよくないですし、あまり強くもないので」


 告白してみたらどうか、という助言に対して尻込みしてしまうカイ。自分に、魅力なんて無いからと自信喪失していた。


「カッコよさや力強さは、本気で好きだと思っているなら関係ないさ。人間は必死で生きている時が、一番素敵に見えると聞いたことがある。君もそんな生き方をすればその娘もきっと受け入れてくれるよ」

「はい。努力してみます!」


 人生の先輩であるバハドゥートのアドバイスをしっかり聞いて、力の限り頑張ってみようと気合を入れるカイだった。そんな会話をしながら、2人はジェラルド商会の保有する建物の中にある会議室に到着した。

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