28 速度と威力
武志が魔狼の胴へ拳を振り下ろし、殴り貫く。
巨躯に大きな穴を開けた魔狼は、その穴から散り散りと身体を魔素へと化していき宙に溶けていった。
巨躯をぶつけあって怯んでいた残り二匹の魔狼は体勢を立て直すと、すぐ様武志に向かって吠え駆け出す。
強引な姿勢で飛び跳ねて打ち下ろしをした武志は、その二匹の魔狼への反応が遅れてしまう。
魔素の外装の強固さがあっての予想していたことではあった。
反応が遅れて、魔狼の爪や牙を突き立てられようとまだ無傷で済むという算段だ。
しかしそれは、武志が独りで戦ってきていたからこその算段であった。
前足を一歩、踏み込んだ距離で飛びかかれば獲物を仕留められる。
武志へと吠え駆ける魔狼二匹が一撃を構えようとしたその瞬間──ドスッという音ともにその頭部に矢が突き刺さる。
矢が突き刺さった魔狼二匹は足をもつれさせ、飛びかかろうとした巨躯を上下に揺らし、地面に倒れた。
武志のいる位置からは少し離れた場所から、アースカが弓矢を放っていた。
魔素で作り出した矢は、魔狼に突き刺さり動きを止めると役目を果たしたように溶け消えた。
武志が魔狼の速度に苦戦しているが、アースカは苦戦することなくその的を的確に捉えられていた。
アースカの放つ魔素矢は、通常の弓矢のように直線的に放たれたり、放物線を描き放たれるだけではなく、軌道をある程度コントロールすることが出来る。
操作時間自体は短なものだが、速度で対応するもの相手でも逃すことは少ない。
それ故にアースカは、魔狼の
しかしながら──。
グルルッ。
低く唸る音が、倒れた魔狼二匹から聞こえる。
少し離れた距離でアースカは、弱々しくも巨躯を起こそうとする魔狼二匹を見て、やはりか、と呟いた。
動きを捉え狙い撃てるものの、仕留めきれない。
コントロールを重視する為に、一撃の威力が損なわれている。
それはアースカが抱えている課題点であった。
リザードマンにドラゴン、そういった皮膚となる鱗が硬い相手に対してだけではなく、比較的に柔らかい魔狼を仕留めきれないのはささやかな課題という話ではなかった。
単純に野生の狼だったなら、頭部に矢をつき立てればその命を奪い取ることは可能だったのだろうが、相手は魔素から生み出されたモノ。
仕留め損ないの傷はすぐ様修復され、結果として無傷であることと変わらなくなる。
現状、アースカの射撃では一瞬動きを止めることぐらいしか出来なかった。
止めた一瞬、倒れ起き上がるまでの時間を作れれば武志ならその拳を振りかざすことは可能だともアースカはわかっていたが、あくまでも援護レベルであり、自身が魔狼に囲まれた際の不利は否めない。
近接戦闘用に腰に鉄製のナイフを携えているが、武志やヴィンドほどの近接戦闘能力は無いので魔狼相手は手一杯だともアースカは自覚していた。
一二匹であれば対処は出来るが、十数匹となると危機的な状況であると言わざるを得なかった。
「──タケシ君っ!」
「わかってる!!」
起き上がる一匹に武志が、もう一匹にアースカが各々の攻撃を繰り出す。
動き出す前に止める為に繰り出される前蹴り、リプレイされたように正確に同じ場所を突き刺す矢。
双方の攻撃は、魔素から生み出された魔獣を仕留めるには足りなかった。
武志に蹴られた魔狼は、ぶつかった衝撃に巨躯を仰け反らせるものの後転し着地すると、体勢を立て直しながら吠えた。
アースカの矢が突き刺さった魔狼は、一瞬だけ怯むものの、もうふらつく素振りすら見せずにもう一匹と対峙している武志の背中に飛びかかった。
一撃で仕留められないことは、アースカにとっての課題だ。
それは今初めて立ちはだかった壁ではなく、ここまで戦ってきた経験によるモノである。
なので、アースカが放ったのは一矢だけではなく──
ドドドッ。
遅れて放たれた魔素の矢が三本、武志に飛びかかろうとしていた魔狼の巨躯に突き刺さる。
連続の衝撃に魔狼は跳ねた身体を仰け反らせ、矢が身に突き刺さる鈍い音に武志が反応して振り返り──腰を回転させた上段回し蹴りが魔狼の頭を捉え、弾け飛ばした。
音もなく地に落ちて溶けていく魔狼。
代わりにと吠えるもう一匹の魔狼──へと更に放たれるアースカの矢が突き刺さった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます