17 襲われる街とギルドの傭兵
街へと飛び出し中央通りへ駆けつけたノールとミュレットが遭遇したのは、複数の魔狼とそれに追われる街の人々であった。
狼の咆哮と逃げる人々の悲鳴が飛び交い、夜の街は騒然としている。
「魔狼がこんなに沢山!? どっかから潜り込んだとかそんな数じゃなくない!?」
点々と漏れる建物の明かりが、夜の闇に紛れる狼を照らす。
四方を見渡し視界に入るだけで、十数匹はいる。
「ミュレット、街の人を建物の中へ!」
「わかってるわよ! ノール、あんまり一人で突っ込まないでよ!」
「・・・・・・わかってるさ」
そう言い合って、ノールとミュレットはそれぞれ駆け出した。
全身を覆う甲冑の重さをものともせず、ノールは素早く走り出すと近くにいた一匹の魔狼を追いかけた。
魔狼は追いかけてくるノールを気にすることもなく、目の前で逃げ惑う獲物──街の住人へ猛進していた。
「だ、だれかっ、助けてくれぇ!!」
酒場で安い酒をがぶ飲みし、有り金使い果たしたところで外に出てみれば巨大な体躯の狼と目が合った。
街の住人の腰ぐらいの高さに狼の顔、デケェなと酔った頭で眺めていたら、吠えられて追いかけられた。
酒場の横、店の影では悲鳴をあげることもままならず喰われていく誰かがいて、その血が地面をうす黒く濡らしていた。
「アンタ、家どこ?」
必死に走って中央通りへ逃れた先で、住人の男の前に見知らぬ少女が立っていた。
「何言ってんだ!? お前も逃げねぇと──」
「家に向かって走りなさい。デトハーの住居は魔物避けに、扉に魔素のコーティングがされてるのは知ってるでしょ?」
見知らぬ少女──ミュレットにそう言われ大混乱の中必死に走る住人の男の頭に、家を借りる際に
闇雲に逃げてた住人の男が、向かう方向に修正を加えたのを見て、ミュレットは手に持つ杖の先にある水晶の上に火球を作り上げる。
「足止めなら、この程度でいいでしょ!」
避難誘導の数を考えるに力配分は大事だ。
魔狼を倒すのは自分の役割では無い、ミュレットはそう考えて火球を拳サイズで作り上げると走ってくる魔狼の前に放った。
魔狼は火球を軽々と避ける。
怯む事無く、避ける。
足は止めぬと、一歩斜め前へと跳ねて避けた。
しかしその斜めへの移動で十分だった。
ズサァァッ、と大剣が地を擦り、半月を描くように斬りあげた。
魔狼に追いついたノールの振り上げた大剣が、その体躯を真っ二つに切断した。
鳴くことも叶わず、魔狼は魔素となり宙へと還っていく。
「──次!」
間髪入れず、次に近い魔狼へと駆け出すノール。
ミュレットも合わせて、別の住人を助けに向かった。
ノールとミュレットが避難補助を開始し始めた近くで、魔狼と戦う者たちの姿があった。
縫い合わせた獣の皮を鎧とし、各々剣や斧を武器として振りかざす。
ギルド──アルベッツステーレに専属契約している傭兵たちであった。
「あの甲冑のヤツ、やるなぁ。どっかの国から流れてきた騎士サマか?
身の丈程ある大きな斧を振り回す大男は、細身の剣で魔狼と戦っている緑髪の小柄な少年に問いかけた。
「ちょ、オレには、見覚えも、余裕も、無い、ッス」
スバードと呼ばれた緑髪の少年は、間一髪で魔狼が振りかざす爪を躱すと、その細身の剣を魔狼の眼に突き刺した。
痛みにもがきながら反撃へと暴れる魔狼の頭に、棘のついた太い棍棒が叩きつけられた。
「スバード、魔狼ぐらい一人でやっつけてよ。やたら数多いんだから、人手足んないよ、そんなんじゃ」
スバードより一回り身長の高い赤髪の女性が、魔狼の頭を破壊した棍棒についた血を振って払った。
「うわ、飛び散るからやめるッス、クルバ」
飛び散る血を避けながらスバードは赤髪の女性──クルバと呼ばれた女性に口を尖らせた。
「あの甲冑、確か南の魔素に飲み込まれちまったあの村の浄化仕事受けたヤツだよ。連れに僧侶だって名乗る爺さんもいたはず」
スバードの抗議を気にもとめず、クルバは大斧を振り回す大男の質問に代わりに答える。
「ああ、あの仕事か。リザードマンが発生してたからドラゴン注意だと、俺様も準備が出来てからと後回しにしちまってたヤツだな。へッ、ってことは相当やり手だな。勧誘っすかぁ!!」
大男はそう言うと、その大斧の柄の部分を地面に叩きつけた。
どぉん、と大きく音が鳴り周囲に振動が起こる。
大地の振動に逃げ惑う住人は転けてしまい、追いかける魔狼は身構え足を止めた。
「その前に、とっとと街救うとするかぁ!!」
大男はそう吠えると上半身を大きく反らし、手に持つ大斧を豪快に振りかぶり投げた。
投げられた大斧は身構える魔狼の体躯を軽々と切断すると、まるでブーメランのように大男の手元へと戻ってきた。
「さすが、ブッレヤクサさんのトマホークはいつ見てもすげぇッス」
拳を突き上げ、大男──ブッレヤクサを褒め称えるスバード。
「褒めてくれても、悪いが報酬は出ねぇぞ!」
ブッレヤクサはそう言うと、次の投擲の為に振りかぶっていた。
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