14 遠慮と無知
「・・・・・・報酬?」
食事を終えたところで、アースカはジャラジャラと音がする革袋を武志の目の前に置いた。
肉と野菜の炒め物はとろみのあるソースの味付けが濃かったので米が欲しかったなぁ、と食後の余韻に浸っていたところだったので武志はアースカの説明を聞きそびれていた。
「ああ、成り行きとはいえギルドからの仕事を手伝ったんだ。つまりタケシ君にも取り分はあるってことだよ」
「そんな、食事まで奢ってもらって報酬まで別に受け取れなんて、その心遣いを逆に疑いたくレベルだぜ」
差し出された革袋の受け取りを手を振って断る武志。
その様を笑みを浮かべ見ているノールとアースカ。
「何言ってんの、アンタなんて騙したって私たちに何の得も無いでしょ? 貰えるもんは素直に受け取りなさいよ」
「得がないかどうかの判断も出来ないんだよ、こっちは」
弱みをさらけ出すようで不甲斐ないが、親切心の裏側を測れるほどの情報を持ってないのは事実で、弱みにつけ込むなよという釘差しは武志なりに一応の防衛策だった。
「そこなんだよ、タケシ」
ノールに指をさされ身構える武志。
「君は何も知らな過ぎる。初めてこの国を訪れたというレベルじゃないほどの知識の無さだ。生まれて間もない赤子のように物事を知らない」
「それは言い過ぎだぜ、ノール。俺だってスプーンの使い方は知ってるし、肉の食い方も知ってる」
つい反論するも、そういう指摘で無いことは武志もわかっていた。
「でも君は、この国の通貨も、その価値も知らないだろう?」
ノールは武志の前に置かれた革袋を指差した。
ノールの指摘する通り中に入ってるだろう報酬金について武志は情報を持たない。
ジャラジャラという音から金貨とか銀貨のような硬貨が入っていると予想してるが、それがどのくらいの価値なのかもわかっていない。
「だからここは素直に受け取っておいてくれ、それは報酬であり情報だ。今回はたまたま俺達が同行してるけれど、お互いに旅の目的があるならいつまでも一緒にというわけにはいかないだろう」
「・・・・・・ああ、それは確かに。わかった、ありがたく貰っておくとするよ」
武志は頷き、革袋を手に掴む。
報酬だと思えばすぐ様中を覗くのはがめつい行為になってしまうが、情報だと言われれば確認を促されてるようにも思える。
中には武志の予想通り金貨が入っていた。
枚数は十枚。
片面には王冠を被る男の横顔、もう片面には何かしら文字が刻まれている。
大きさは五百円玉より二回りほど大きく、財布に入れるとしたら邪魔くさいサイズだ。
だから革袋なんだろうか?
こういうのは国が違えど似たようなものなんだなと思いながら、武志はテーブルの上で金貨を駒のように回転させた。
「ちなみにこの食事がちょうど金貨一枚ってところだな。宿の宿泊相場が金貨三枚」
金で遊ぶな、とアースカは付け加え回転する金貨を手で押さえつけ武志に渡した。
こういうのは日本円に換算してアレコレ考えた方がいいのか海外旅行歴の無い武志は悩みながら、渡された金貨を革袋に入れ直した。
「ノール達の旅の目的は聞いても?」
「魔素の浄化、ですな」
「今日みたいにギルドの仕事を受けて旅しながら各地の魔素の浄化を行ってるんだ、ヴィンド爺は僧侶だから」
王子とそのお付の一行が各地の魔素を浄化して回ってる。
ヴィンドとノールがそう説明するが、武志はそれだけじゃないような気がしていた。
とはいえ説明役を買って出てくれるヴィンドがそこを口にしないということは、武志には知る必要は無いと判断されたのだろう。
「そっか、大変そうな旅だな。また機会があれば手伝えたらいいんだけど」
「・・・・・・アンタの旅の目的は?」
ミュレットの目に僅かながら疑いの色が混ざる。
「もうお察しなのかもしれないけど、俺は自分の意思とは関係無くこの国に来ちゃったもんでさ、旅の目的ってのがあるとすると自分の国に帰ることになるのかな」
それがどれほどの困難さであるのか武志にはまだ判別つかない。
何か乗り物を見つけたらすぐなのか、国境を超える為の証が必要なのか。
すでに濃厚な線でここは異世界だと思われるので、魔法陣やら次元の穴やらそういうものを探す羽目になるのかもしれなかった。
「そいつもなかなか大変そうな話だな。それならば尚更ここら一帯の情報は必要だろう? ヴィンド爺、今日は勉強会を開いてやったらどうだ?」
ノールがそういうとヴィンドは、仰せのままに、と頷いた。
「何から何までありがたい」
至れり尽くせりな話に武志はまた遠慮しかけたが、その問答は押し切られるだけなので省くことにした。
「それじゃあ、タケシ君も宿泊先は東通りの宿で良いだろう。確か部屋が空いていたはずだ」
アースカはそう言うと、店内を忙しく対応してる店員を呼び止め会計を済ませる。
先程話していた金貨一枚に加え、銀貨らしきものを三枚、店員の女性に握らせていた。
チップ制度もあるらしい。
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