13 豚肉と野菜の炒め物

 武志達が囲む木製の丸テーブルに料理が運ばれる。

 テーブルの真ん中にドカッと置かれた大皿の上に、肉と野菜の炒め物。

 豚肉とキャベツとをとろみのあるソースで炒めた物に見えるが、武志はこのファンタジーな何処ともわからない土地で目覚めてから豚も畑も両方見ていないので、何かわからない肉と何かわからない緑の葉っぱ、というクエスチョンを僅かに抱いていた。

 街を歩いてきた際に、食材を売ってる店に遭遇しなかった。

 デトハーは広いと聞くので別の通りにあったりするのだろう。


「遠慮せず食えよ、じゃないとすぐ無くなるぞタケシ君」


 大皿からそれぞれの小皿にそれぞれのスプーンで取り分けるスタイルのようで、アースカは視線を動かして示すのは我先にとがっつくノールとミュレットの二人だった。


「ミュレット、そんなに、慌てて、食べると、消化に、悪いぞっ!」


「魔法を使うのって消耗が激しいんだって、いつも言ってるでしょ。あんだけ、大きな、火球を、練ったんだから、優先して、食べさせ、なさいよっ!」


 早食いと大食いを一緒くたに争ってるかのように、小皿に乗せては口に運びを凄い速さで繰り返すノールとミュレット。

 な?、と付け加え、武志に早く食べることをアースカは勧めている。

 ヴィンドは老齢として食が細いのか、自分の取り分を僅かに小皿に乗せるとゆっくりと食事を進めていた。


「いや、あのさ、俺、今持ち合わせが無くて・・・・・・」


 席に座る直前、履いてるジーンズのポケットを探ってみて財布を持っていないことに気づいた。

 そもそも日本円がこの場所で使えるとは思えないのだけれど、何か物々交換的な紙幣交換などが出来ないものかと武志は考えたのだが、財布やら携帯電話やらは今手元に無い叔父オヤっさんから貰ったライダージャケットのポケットの中に入っていたはずだ。

 目覚めてからすぐ、戦闘になって変身──魔素を纏うことが続いた為に、自分が無地の白Tシャツとジーパンのやたら軽装であることに今さら驚いたりもした。


「ああ、それも合わせて遠慮しなくていい。これは奢りだ。何だかんだで仕事の手伝いをしてもらった形だからな。だろ、ノール?」


 アースカがそう問うと、口に大量の物を含んだノールは声を出さずに大きく首を縦に振った。


 街の中では、王子、とは付けて呼ばないようにしてるらしい。

 武志はヴィンドに街中を歩いてる際にそう告げられていた。

 素性を隠す必要があるならどうして武志には簡単に説明があったのか、と聞いてみたが、完全に隠匿するまででもないのだと言う。

 王子とは詐欺を働く者に騙られることも多いらしく、誤解を招くとややこしくなるからだそうだ。


「手伝いだなんて、あれも草原で助けてくれた礼なんだ。奢ってもらう程じゃないよ」


「何言ってんのよ、ドラゴン倒したのにご飯にありつけないなんて、それは遠慮じゃなくてバカの考えよ。いいから、とっとと食べなさいって」


 人に食事を勧めてくるのに食べる速度は一向に緩めないミュレットの姿が可笑しくて、武志はこれ以上の遠慮の方が失礼だと思い直した。

 せっかくの厚意、正直腹も減っている。

 異国、あるいは異世界の、味は分からないが見る分には豚肉と野菜の炒め物。

 小皿に取り分ける際の匂いも大変美味そうに感じる。


 武志が料理を口に運ぼうとしていると、何だか周りの席がヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。

 所々聞こえる言葉からしてこのテーブルの五人の話、とりわけ先程ミュレットが口にしたドラゴンについての話だった。


「仕事といえば、ノール達はいつもあんなドラゴンなんてのを相手にしてるのか?・・・・・・あ、これ美味い!!」


「まさか、いつもなんてことは無いさ。今日で三回目ってところかな」


 アースカも食事を始めたので、武志の質問に答える役がノールに移る。

 とはいえ、ノールも未だにガツガツと口に食事を運んでいる。


「へぇー、何か慣れてるみたいな感じだったから、三回目なのか・・・・・・ていうか、あんなドラゴンが他にも二体もいたってことか。えらく物騒なんだな、この辺りは」


「ドラゴン、と呼んではいますが、あくまで魔素から生まれた姿が神話のそれに似てるからそう呼称してるだけでして。国を滅ぼすとまで言われる本物とはワケが違いますからな。言うなれば、我々が対峙したアレは、恐ろしく巨大なトカゲ、ですな」


 答える役のノールが食事を口に含みすぎて答えるのが遅れた為、代わりにとヴィンドが解説を入れる。


「それでも討伐は困難であると避けられる部類である為、仕事完了の話は騒がれたり疑われたりしますな。ギルドの仕事は魔素で遣われた特別な伝書フクロウがその成否を確認する為、虚偽の申告や話を盛るなど無駄なのですが、まぁ周りの反応も仕方の無いことでしょう」


 なるほどな、と武志はどうやら今日の酒のつまみレベルで店内の客から注目を浴びてしまってることに納得した。

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