なぜ覚醒剤をやってはいけないのか〜体験者だからこそここまで書ける生き地獄〜

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第1話緊急投稿

《緊急投稿》


僕は医者では無い。


況してや学者なんかである筈もなく、したがって医学的にどうとか、科学的にどうかなんて事は一切分からない。


道徳的な教えなんて事なら尚の事、誰かに何かを伝える事は出来ないだろう…。


ただ…なぜ覚醒剤をやってはいけないのかって事なら、40年近い年月…覚醒剤を中心に生きて来た僕には誰よりも、この薬の恐ろしさを伝えられるのでは無いだろうか?



先ずは聞いて欲しい…。


覚醒剤はそんなに気持ち良いのか…?


答えは「はい」だ。


初めて覚醒剤をやった時、身体中の生毛が逆立ち、その先端に触れた全てのものが、僕の脳みそに例えようも無い快感の信号を送り続けた。


眠気は覚め、疲れは消え去り、悩んでいたあらゆる事が頭の中から追い出された。


迫り来る強烈な性的欲求と多幸感が僕を支配した。


「こんなに素晴らしいものが世の中に有ったのか…」


たった一度の経験で、僕は覚醒剤の虜になってしまった。


それから40年…僕は7度の逮捕と6度の刑務所への入退所を繰り返し、実に20年2月の刑務所生活を送った。


そして今、僕は覚醒剤を止められたのかと言えば…答えは「否」だ。


丁度一年前、最後の受刑生活を終え社会に復帰してからは確かに覚醒剤を身体に入れていない。


それは単に覚醒剤を未だ見ていないと言うだけで、もし目の前に覚醒剤が有ったなら…迷う事なく僕は覚醒剤を使用するだろう。


依存症と言う病気は、つまりはそう言う事なのだ。


警察に捕まる度、金も家も着るものさえも失い、家族からは「またか…」と呆れられ、最愛の人は僕を見捨てて離れて行った。


気が付けば56歳にもなって独り身の孤独に押し潰されそうな毎日だ。


そんな思いをしてまで、まだ覚醒剤をやりたいのか…そんなにお前は意思が弱いのか…と人は言うだろう。


自分でさえそう思うのだから、世間の人なら尚更だ。


しかし…意志の力ではどうする事も出来ない…それが依存症なのだ。


何から書けば良いのかも分からないけれど、先ずは依存症と言うものから説明したい。


人は覚醒剤のみならず、どんな事にも依存しやすい。


酒タバコはもとより、スマホやゲーム、果ては異性にも強く依存してしまう。


それが悪い事かと言えば必ずしもそうとは言えない。


悪いのは「依存」が「依存症」に変わった時…。


「依存」とは、例えば毎日酒を飲む。


今日こそは飲まずにいよう…と決めているのに、仕事が終わるとついつい足が赤提灯に向かい、酒を飲んでしまう。


それは「依存」だ。


学校から帰った途端、部屋に引きこもりゲームやパソコンに明け暮れる。


それも「依存」だ。


その「依存」を引き起こす原因によって日常の生活が送れなくなった時「依存」は「依存症」に変わる。


朝6時に起きて会社に行く準備をしなくてはいけない。


だと言うのに…夜中の3時4時まで酒を飲み、当然のように朝の6時には起きる事ができず、仮病を使って会社を休む。


どうせ休んだのだから気の済むまで酒を飲もうと…そしてまた夜中まで酒を飲み、また翌日も起きる事が出来なくなる。


そうなれば完全に「依存症」だ。


そうやって日常の生活が当たり前に送れなくなる病気を「依存症」と言う。


この依存症と言う病気を発症した時、人は自分の意思では治す事が出来なくなる。


と言うより「なおらない」と言った方が正しいかも知れない。


覚醒剤は…たった一度の使用で殆どの人を「依存症」へと導く。


経験した事もない壮絶な快感を一度でも体験した脳みそは、その記憶を忘れさせてはくれない。


悪い事に、この薬は眠りたいと言う欲求を消し去る。


生まれて初めて覚醒剤を使用したなら、先ずは3日は眠る事が出来ないだろう。


食欲も消える。


そして集中力ばかりがたかまり、何かをやり続ける。


覚醒剤の効能が切れた時、そこに残るのは例えようも無い虚脱感と絶望的な体調不良だ。


そこを抜け出す為に一番効果的な事は、もう一度覚醒剤を使う事…。


それが経験の浅い初心者であれば初心者である程、その効果は絶大だ。


そして、そこでもう一度覚醒剤を使った者の殆どは、破滅の道に深く関わって行く。


運良くそこで薬を断ち切れたとしても、一度味わった快感を脳は絶対に忘れない。


そして…一度薬の切れ目から立ち直ったと言う自信も残る。


「一発有るぞ…」


誰かに誘われる。


迷わず覚醒剤を使うだろう。


そこで有る違和感が訪れる。


初めて覚醒剤を使った時と何かが違うのだ。


「ガツン」と来る快感が足りないのだ。


何の経験値もない時に体験する快感と「来るぞ来るぞ」と思いながら感じる快感では、自ずとその感激にも差が生じる。


そこに物足りなさを覚え、今よりもう少し多い量を身体に入れてみようと再び覚醒剤を手に取る。


悪循環が段々と身に付き一人前のジャンキーとなって行くのだ。

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