夜狐
「目を合わせろ」
今は学校から出て、住宅地を5人で歩いていた。
外は今だに雨が降り注いでおり、傘をさしている。夜狐は最初拒んだが、最終的に雀から傘を受け取りさしていた。
「あの、これは一体なんですか……。あと、貴方達は? なんで私の足はすごい怪我していたのに、一瞬で治ったのでしょうか……」
「質問は1つしか受け付けてねぇし、そんなに矢継ぎ早に聞かれても答えられん。少し考えればわかんだろ。質問したければ1番気になる物を見つけるんだな」
「…………梨晏先生」
「はいはい。とりあえず、1つずつにして貰えると助かるかなぁ。私はそこまで頭良くないからさぁ」
「先生なのに……」
今は夜狐、美咲輝、綾華、雀、結香の順で歩いていた。
今の夜狐の頭には包帯が巻かれており、血が少しにじみでている。早く病院に行かなければ危険な状態になってしまうかもしれない。
綾華は何度も病院に行くように言ったが意味がなく、次の魔妖を斬ることしか頭にないようだった。
「ひとまず、その女への説明は雀に任せた。俺達は次の魔妖退治について考えんぞ」
「わかったよ」
その後、雀は噛み砕いて結香へと説明をし、夜狐と美咲輝、綾華は次の魔妖について話し合い始めた。
「俺が感じてんのは、さっきと同等の気配だ。だいぶ膨らんでいるらしいな。早く行かねぇと、あの女の時より厄介なことになりかねん」
「東雲先輩がそう言うなら、そうなんでしょうね。次は僕も刀を使いますか?」
「俺の邪魔をしないんなら別にいいぜ。だが、鈍い動きを少しでもすれば、てめぇごとたたっきるからな」
「先輩について行ける人なんてそんなに居ませんよ」
「なら、今回も援護射撃よろ」
美咲輝はオールバックを直しながら夜狐と会話を交わしている。そんな2人の後ろで、綾華は心配そうに彼に視線を向けていた。
その瞳は揺れており、胸元に置いてある手には少し力が入っていた。
「おい、何後ろを歩いてんだよ。てめぇが案内しろよ」
「え、で、でも、なんか、道あってるし……」
「気配を辿ってんだよ」
「なら、案内する必要ないんじゃ……」
「おめぇが案内するだけで、俺は無駄な労力を使わなくて済む。その分、戦闘に力を入れることが出来んだよ。さっさと案内再開しろ」
「…………はい」
何となく納得いかないような表情を浮かべているが、それでも少しは役に立ちたいという気持ちが勝ったらしく、夜狐と美咲輝の前へと出て案内を再開した。
※※
学校から綾華の家まで数十分で辿り着くことができた。
気配は目の前に建てられている二階建ての中から感じるらしく、夜狐はゴミ屋敷と呼ばれそうな建物を見上げ舌打ちをする。
「やばいな。また、切り離す作業から入らんといけねぇらしい」
「またですか。今回、雀さんはどうしますか」
夜狐は美咲輝の言葉を聞き、ずっと後ろにいた雀に目を向けた。
その視線を受け、彼は「どっちでもいいよ」と口にし、手をヒラヒラと振っている。
「…………雀、今回お前は──」
彼が口を開き伝えようとした時、隣から足音が聞こえたため、そちらに目を向ける。
そこには、ラフな格好を身にまとった女性が1人立っており、綾華と結香を交互に見ている。その表情は、少し驚いているようにも見え、彼女達はすぐに顔を逸らし、視線を地面へと移してしまった。
「何をしているの。結香、早く帰ってきなさい。そんな子と一緒にいるんじゃありません!!」
顔を青くし、甲高い声で結香の名前を呼ぶ。その女性は、結香の母親らしい。
「お、かぁさん……」
「早く、そんな子にもう近づく必要はありません! その子は貴方の人生を狂わせた人物よ。近づくんじゃない!!」
女性の甲高い声が室内にも聞こえたのか、二階建ての建物の扉が開かれ、一人の女性が姿を現した。
「なに、人の家の前で……。うっさいんだけど」
こちらも露出の高いラフな格好をしており、頭をかきながら周りを見回している。そんな時、結香とその親を目にし、したり顔を浮かべ口を開いた。
「これはこれは、負け犬親子じゃない。こんなところで何しているの? 私の娘に勝てなかった負け犬がこんなところで時間を使っている余裕があるわけ?」
「お、お母さん、そんな事言わないで……」
「貴方も貴方よ。こんな負け犬の近くにいたら、せっかくの頭脳が落ちぶれてしまうわ。早くこっちに来なさい」
自分の娘に手を伸ばすが、その手を掴む人はいない。
冷たい風がその場にいる全員を冷やし、玄関に落ちているビールの缶やトレイが転がる。
暗雲が太陽を隠してしまっているため、辺りは薄暗く、重苦しい空気が漂い息がしにくい。
そんな中、ため息とともに口を開いたのは夜狐だった。
「これは予想通り、厄介なことになってんな。さっさと斬って終わらせんぞ。雀、あっちの女は任せた。こっちは俺が眠らせる」
「わかったよぉ。気をつけてね」
「俺だぞ、なめんな」
そう言葉を交わしたあと、夜狐は綾華の母親の元へ、雀は結香の母親の元へと歩き近づいていく。
なんのことか分からない2人は、その場から動こうとはせず、ギャンギャンと文句を口にしている。だが、そんな様子など気にせず、2人は女性の目の前に立ち肩を支えた。
「それじゃ、やろうか」
「「俺と/私と──目を合わせろ」」
2人の真紅色に染った瞳が女性を捉え、眠らせた。
力を失った女性達は、それぞれ倒れ込んでしまう。その背中からは、結香の時と同じような黒いモヤが現れ、女性と一体化しようとしている。
「雀!!」
「今すぐ移すから待ってねぇ」
いつも通りシルバーリングを弾き、この場にいる全員を異空間へと飛ばす。
「な、なにこれ?!」
「ここが、あの人達の戦闘場所……なんだと思う」
周りは赤黒く染まり、時が止まったかのように、さっきまで風で動いていたビールの缶などは、空中でぴたっと動きを止めている。
何が起きたのか分からない結香は、近くに立っている綾華の腕を掴み、小刻みに体を震えさせている。だが、怖いのは綾華も同じことなため、励ましの言葉などは思いつかず、ただお互い体を寄せ合うことしか出来ない。
「今回も雀は、その女2人の面倒を見ろ」
「わかったよ。今回も連れてきてしまったねぇ。怖い思いをさせてしまって申し訳ない」
雀は相変わらずマイペースに、彼女達の前へと立ち、これから戦闘が始まる4人をじっと見つめる。
「そこから動くんじゃないよ。死にたくなけれね」
後ろをちらっと見た雀の瞳は、先程同様、真紅色に染めらている。
「今回はこれで終わりだと思うし、頑張るんだよ、夜狐」
少し心配そうな声を出している雀だったが、すぐに煙草を口にくわえ、火をつけ気持ちを落ち着かせた。
夜狐は刀を手にし、美咲輝は弓を握り構える。
女性2人の背中から離れようとしない魔妖は、体の中へと完全に入り込んでしまい、切り離すことが出来なくなってしまった。
「ちっ、まずそこからかよ」
「今回も頑張るしかないみたいですね。僕、援護射撃に集中しますので、信じて走ってください」
「当たり前だろうが。てめぇ、しくじったらタダじゃ置かねぇからな」
「肝に銘じておきます」
その言葉を最後に、夜狐は息を整え鞘から刃を抜き取り、いつもの構えをとる。
「────行くぞ」
その言葉を合図に、戦闘が始まった。
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