第466話 クロードの落胆
≪ウォルトゥムヌスの果実≫から解放され、出てきたのはやはり≪唯一無二の主≫と同じような≪神力≫からなる存在、すなわちホウライ神族たちであった。
だが、彼らと≪念波≫でその意志を交わしたクロードは二重の意味で失望してしまった。
ホウライ神族たちは、自分たちの置かれていた状況を知り、その上でなぜ自分たちをそのままにしておいてくれなかったのかと、クロード達を非難してきたのだ。
このような絶望的な現実など知りたくは無かったし、無謀な戦いに巻き込まれるのは迷惑だと憤る者たちも多かった。
どうやら、自分たちがいた≪大神界≫の創造主たる≪唯一無二の主≫は、ホウライ神族の中でも異端的な考えの持ち主だったようだ。
自ら外の世界に興味を持ち、その過酷な運命を知りながらも、それをどうにか変えることができないかと考えていた彼と、目のまえに群れ為すこのホウライ神族たちはあまりに違った。
彼らは待ち受ける運命を享受し、与えられた時間の全てをただまやかしの幸福に
自分たちが何者であるのかということに少なからぬ疑問を持っていながらも、≪ウォルトゥムヌスの果実≫の中で、まるで空想に耽るかのように自らが創造した≪世界≫の主として、その生を終えたかったと、あるホウライ神族は言っていた。
そして、クロードをさらに落胆させたのは、ざっと数えただけでも千は越えるであろうホウライ神族の中で、ただの一人も戦力となり得る者がいなかったことである。
彼らは外の世界に何の関心も抱いてはいなかったし、≪唯一無二の主≫のように数多の神を生み出すことも、それらを競わせ力の高みを目指させることもさせていなかった。
現状を変えてくれるような創意工夫もなく、≪唯一無二の主≫のような力を持つに至った者は誰一人としていなかったのである。
よくよく考えてみれば、自らのいた世界の創造主であった≪唯一無二の主≫が特殊だっただけで、本来彼らはモレク神族たちの食料としてここで養育されているに過ぎない存在であったわけだし、共闘を期待するのは酷な話であったのかもしれない。
ホウライ神族を解放することで、力強い援軍を得られるかもしれないという淡い期待が打ち砕かれた形となったわけだが、ここでいつまでも彼らの相手をして時間を無為に使うわけにはいかない。
「お父様、これからどうされるおつもりですか?」
ヴェーレスの問いに、しばし悩んだ。
オルタたちから聞いていた話では、彼らが存在していた並行世界の俺は、この一帯を制圧したところで力尽きたという話であった。
ここから先は、誰も知らない未来。
本来到達することが無かった状況なのである。
とりあえずクロードは、オルタたちに自分が至ったこの世界に関する推論を話して聞かせることにした。
この物質においては、何らかの物質によって受肉しなければ、その存在が不確かなものになってしまうこと、そしてその憑代とした物質の強さがおそらく敵対する相手との優劣を左右するのではないかというものである。
だが、無機物を生物の肉体のように扱うのは、オルタや引き連れてきた眷属神たちにかなり至難であるようだった。
初めからそういう目的で製作した
眷属神たちもクロードのような状態になるように試行錯誤してみたがすぐには不可能であったようだ。
辛うじてできたのは、≪大神界≫内の人族や動物のような有機物の身体を生み出し、
有機物の肉体を持つと≪神≫としての能力を大きく制限されてしまうようだ。
一旦得た肉体と魂魄は分かち難く、深く結びついてしまうようなので、取り返しがつかない上に、その肉体の能力に大きく依存してしまう。
例えば、人族の肉体を創り、それに宿ってしまった場合、通常の人族よりは≪御業≫などの超越した力の数々を有した個体にはなる。
しかし、肉体の寿命が終わってしまった場合、その後どうなってしまうかなどの懸念も多く、みだりに試すことはできないという結論になった。
最初に有機物の肉体ではどうかと試した勇気ある眷属神は、自らが生み出した原始的な鳥類の始祖のような憑代と同化してしまったわけだが、しだいにこの世界の法則を己が身で実感したためであろうか、深く後悔していた。
その者によれば、老化や負傷、病気などは、自らの≪神力≫が尽きない限りはその細胞組織を再生、治癒するなどすれば生き永らえることは可能だとは思うという話だった。
だが、
クロードは、オルタたちにこの場で待つように伝えた。
≪神力≫のみからなる
連れて行っても、おそらくモレク神族たちの餌になるだけで、無駄に命を落とすことになってしまうであろうと考えたのだ。
クロードは、この一帯を拠点化しつつ、≪大神界≫や解放されたホウライ族たちがいた元の世界を守っていてほしいと自分の考えをその場にいる皆に伝えた。
「しかし、それでは父上が一人でモレク神族たちと戦うことになってしまいます。これまでの戦いもそうでしたが、父上はいつもお一人で物事を解決しようとする。少しは周りの者を頼ってください!」
「そうです。有機物の肉体であっても、魔物や龍など、考えうる限り強力なものであれば、何かしらの力にはなれるはずです。ご一緒させてください」
双子たちが、何とか連れて行ってほしいと懸命に食い下がってきたが、それをエナ・キドゥが
その存在の実母たるエナ・キドゥの言葉には流石に双子たちも観念するしかなかったようだ。
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