第464話 異種の神力

散開し、≪ウォルトゥムヌスの果実≫が整然と並ぶ天版に向かおうとするオルタたちの姿を見て、モレク神族が焦るようなそぶりを見せた。


ねじくれた二本の角を振り回し、クロードが掴んでいる両手首の拘束を逃れるとすぐさまオルタたちを追おうとした。


どうやら目の前の敵よりも、よほど≪ウォルトゥムヌスの果実≫のほうが大事であるらしい。


両肩に組み込まれているバル・タザルとエルヴィーラのデバイスに働きかけ詠唱を開始する。


『……天雷よ!光条となり、彼の者を縛れ』

『……凍てつく万斛ばんこくの氷槍よ、貫け!』


もはや≪魔力≫とも≪神力≫ともつかない状態の入り混じった何かが両デバイスによりクロードから引き出され、具象化し、左右の肩から放出された。


バル・タザルが組み込まれた右肩からは複数の放射状の雷撃が、反対のエルヴィーラの側には無数の氷槍が空中に出現し、それらが一斉にモレク神族に向かう。


モレク神族は雷により全身を焼かれ、氷槍群に串刺しにされた。


身の毛もよだつような絶叫を上げ、そのまま地上に墜落していく。


どうやらこの世界の法則により、その性状を変化させられたクロードを構成するエネルギーは、魔道の魔力操作と同様のやり方でその力を行使できるようだった。


そして、むしろ、≪大神界≫内よりも具象化にかかる時間が速く、スムーズだった。



魔道士であった頃の二人とは比較にならないほどの膨大なエネルギー量からなる魔道の術技はモレク神族にも十分効力を発揮することが分かり、クロードは少し安心した。


「二人とも、ありがとう。まずは第一関門突破だ」


そう左右の肩に組み込まれた二人に声をかけるが、当然、応えは無い。


この外世界に来る前はS‐SYSTEMエス・システムを介して、魔道の術を発動させる機械的存在であったのだが、もはやS‐SYSTEMエス・システム同様、自分の一部になってしまったようだ。


少し、自分の身に起きた変化がどのようなものであったのかわかってきた気がする。


先ほど組み合ったモレク神族を観察していて気が付いたのだが、この外世界はクロード達がいた≪大神界≫と比べて、物質優位な世界であるようだった。


万物が物質と結びつかなければその存在を誇示できない。


≪神力≫ですら、何らかの物性を持つ希薄な何かに変換されてしまう。


事実、組み合ったモレク神族からは≪神力≫に酷似したエネルギーを感じたのだが、その全てがあの肉体を構成する物質と密実に一体化していて、分かち難い状態にあったのだ。


おそらく、この世界では何らかの物質と結びついていなければその存在の確実さを確保することができないのではないだろうか。


≪神鋼≫や外殻を形成している新金属は、クロードの≪神力≫を帯びた特殊金属である。

S‐SYSTEMエス・システムも人格を有さないクロード由来の≪神≫であるという側面を有しているし、それにより繋がっている他のデバイスたちも、この外世界に適用されている法則的何かの判断基準で、一個の個体の各部であると判断されたのではないだろうか。


つまりあの≪ウォルトゥムヌスの果実≫の中から外に出る際には、何者か、あるいはこの外世界自体の意志のようなものにより、判断され、この世界においてそうあるべきとみなされた存在に変換されてしまうのである。


魔導機械神ディフォンや各種のデバイス類は即ち肉体であり、クロードはそれらに宿る意志だと判断された。


そうして変換された今の存在は、≪魔力≫と≪神力≫が統合された≪ゲヘナの火≫に近いエネルギーを活力源とする金属生命体のようなもので、既知の生物とは異なる新たなる生命の態様かもしれない。


この推理が真実であるかは今は確かめようもないが、もう一つ新たな発見があった。


地上に落下していったモレク神族の肉体から漏れ出てきたエネルギーがクロードのもとに集まり、取り込まれ始めたのだ。


これまでに得たことが無い異種の≪神力しんりき≫だった。


そう、≪唯一無二の主≫が考案し授けてくれた≪神喰≫のスキルは、モレク神族にも適用されるようだった。







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