第462話 最後の人類

休眠状態に入る前、クロードはエナ・キドゥと二人で≪神産みの儀≫を行い、七柱の神を産みだした。


≪神産みの儀≫は互いの≪神力≫の一部を取り出し、それらを用いて新たな≪神≫を生み出すための秘儀である。


オルタたちが元にいた並行世界では、彼らの他に七柱の兄弟神がいたらしく、その再現を図った形だ。


これはオルタたちの強い希望だった。


兄弟神同士の絆はとても強かったそうで、この先の世界線の分岐が、他の兄弟神のいない並列世界ばかりになることを寂しく思ったとのことだった。


まったく同様の神々を産み出せるかは保証の限りではなかったが、オルタとヴェーレスから教えてもらった特徴と彼らの記憶の中のイメージを参考に≪神核≫を創世し、≪神≫としての命を吹き込んだ。


それぞれ、ケトス、マイラ、キュラス、エト、ルゴン、ラドゥンという≪神名かむな≫を与え、それぞれ≪大神界≫において生き残り、クロードの眷属神となった九十九柱の神々をその属性に合うと思われる十一柱ずつを分担して指揮させることとした。


この新たに産み出された兄弟神たちは、バル・タザルに師事したオルタたちと同様に≪魔力≫及び≪ゲヘナの火≫の扱いを習得しており、その部分が別の並行世界における彼らとの大きな差であろう。



オルタたち九兄弟神、エナ・キドゥ、そして九十九柱の眷属神たちからなる神々の軍勢も覚醒したクロードの周りに集まってきた。


エナ・キドゥやオルタたち兄弟神と再会を喜びあうやり取りをしたが、休眠状態であったクロードからしてみれば、それほど時が経った実感は無い。


ほどなくして総司令オルフェウスから、外世界への侵攻開始の準備が整っている旨の通信が入り、一同に緊張感が戻る。



宇宙戦艦群の外殻に向けた一斉射撃の後、外世界への進入路を確認し、クロードが憑代にしている魔導機械神ディフォンを先頭に神々の軍勢は突入を開始することになっている。


彼らは直接モレク神族には立ち向かわず、≪大神界≫と同様の形で閉じ込められているという話の≪ウォルトゥムヌスの果実≫の外殻破壊及び他のホウライ神族の解放を目指す段取りになっている。


これはクロード達の目論見が失敗した場合に、外殻の耐用年数の残り一億年ほどを頼りに、≪大神界≫の延命を図る狙いがあった。


無論、モレク神族の報復がある可能性も考慮され、実際の思惑通りに行くかはわからなかったが、やれることは全部やろうというクロードの考えに従った形であった。


『当代のアウラディア宇宙軍総司令のオルフェウスと申します。統一神ディフォン様、それとも≪救済者≫クロード様とお呼びすべきでしょうか』


旗艦ローグシアと通信が繋がった。


「いや、ただのクロードで構わないよ。MEMORANDUMメモランダムから聞いていると思うが、『覚醒後は神ではなく、ヒューマンの同列の同志として扱ってほしい』という俺の残したメッセージの通りだ。それにしても、君の声の波長からは、どこか、今は遠い友人の懐かしい名残のようなものが感じられる。はじめて話したような気がしないな」


『光栄の極みです。では、クロード様、MEMORANDUMメモランダムが算出した最適時刻に合わせて、作戦開始してもよろしいでしょうか』


「ああ、予定通り始めてくれ。こっちもS‐SYSTEMエス・システムが用意した仮想状況のシミュレーションを終えた」


『了解しました。貴方と会話した最後の人類が私だった幸運を感謝します。それではご武運を!』


「君も突入後の出入口の閉鎖及び外殻の復旧の任務をよろしく頼む。最後と言わず、作戦成功後、最初に言葉を交わす人類が君になるように互いに持てる力のすべてを尽くそう」


クロードはそう言うと通信を遮断し、突入のための準備を開始した。


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