第457話 心の原動力

オルタから≪大神界≫の外の様子、そして並行世界の別の俺が辿った運命を聞けたことは、待ち受けているであろう未来に向かい合うためには有益な情報であるとは思った。


もし、そのモレク神族とかいう連中と相対するならば、その準備のための時間が取れるし、奴らの油断を突くことができるからだ。


モレク神族は俺たちが外の世界の事情を知っているとは思ってもいないだろうし、どうやらこことは異なる並行世界の別の俺は、今よりも悪い条件で雑兵の数体を倒すことができたようだ。


だが希望は少ない。


オルタたちがホウライズシトキノオオカミから聞いた話によると、一時、並行世界の別の俺が制圧したのは広大な外世界にあるホウライ神族収容管理施設のほんの一画に過ぎなかったらしい。


ホウライズシトキノオオカミには何か考えがあるそうだという話だったが、オルタたちは詳しく聞かされていないということだったので、あてにはしない方が良さそうだ。


ホウライズシトキノオオカミが本当に信用するに足る存在であるかも正直わからない。


その特殊な能力で、並行世界から別の並行世界へ移動し続け、モレク神族の魔の手から逃れ続けているということだが、自ら戦うこともなく、逃げ隠れするような者を心から信用しろというのは無理な話だ。


「シルヴィア、俺はどうしたらいい? ……どうすべきなのだろう」


クロードは自らの中から、シルヴィアの魂魄の残したその断片を取り出し、語りかけた。


その断片は、MEMORANDUMメモランダムの解析によると、人の一生により蓄えられた何かの結晶であることはわかっており、生まれたての魂魄には存在しないものなのだという。


魂魄は、死ぬとその根源素は創造主の元に戻り、副産物足るこの断片は≪大神界≫の外殻に吸い込まれていくそうで、これ以上のことは不明だ。


シルヴィアの魂魄の断片をクロードは、≪神力≫の結界内に閉じ込め、常に持ち歩いているが、そうすることで、いつも傍らにシルヴィアの存在を感じられるような気がしていたのだ。



俺は弱い。

何かが俺の心を弱くしてしまった。


おそらくオルタたちのいた並行世界の別の俺には、今の自分にはない、自らを突き動かすような気力のようなもの、例えばそれは人の運命を弄ぶ上位の存在たちに対する憤怒や全てを呪うような破滅的な感情であるかもしれないが、原動力となる何かがあったにちがいない。


そうでなければ、そのような未知の怪物たちに一人立ち向かうことなどできようはずもないのだ。


子供たちを、オルタたちを守りたいという気持ちも当然あっただろう。


俺としても、はるばるこの並行世界まで俺を頼ってきてくれたオルタたちに力を貸してやりたいとは思う。


だが、頭ではそう思っても心が動いてくれないのだ。


立ち上がりたくても、立ち上がれない。


こんな萎えた気持ちの自分を見せたくなくて、愛しい双子たちを遠ざけようとしてしまう。


そして、今もこうして一人、暗い、シルヴィアと過ごしたこの部屋に閉じこもり、うじうじとしている。

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