第16話 神を乗せし者達
紗羅が倒れる事、数時間前。急に、出番になった沙羅は、事業所からの電話を渋々受けていた。何となく、嫌な予感がする。大体紗羅の勘は当たる。この間の、包帯男(もはや、あだなになりつつある)の件も、紗羅の勘が働いていた。それだけではなく、高野蓮という青年も気にはなっていた。自分と近い匂いがする。あの日、ブリキ缶を抱えて逃げていた男の子も、成長すれば、高野と同じ位の年齢になっていた。会った所で、何かが始まるとか、そんな事がある訳がなく、何かが、終わる事だけは、はっきりしていた。
「何かが、あるのよね」
人であって人ではない。紗羅も蓮も、お互い気にはなるが、踏み切れずにいた。疑いが確信に変わったのは、包帯男の件だった。今まで、何度も、ニアミスがあり、確かめたくて、遠からぬ位置にいた。包帯男に、襲われていた最中、蓮の中で、何かが起こっていた。沙羅は、変化を嗅ぎ取っていた。
「きっと。。そう。」
高野蓮は、あの時の少年。思いを巡らせながら、沙羅は、訪問の準備を始めた。これから、訪問するのは、光の証人の信者の家。1人暮らしだが、何もサービスを望んではいない。生きる事を諦めた老婆を、姪が心配して、訪問の依頼をしてきた。
「何の因果か」
尽きようとする魂の送りを、紗羅が行う事になるのか、相手が、信徒と聞いて、嫌な予感がしていた。
「このケースは、穏便にね」
指示は、あの市神医師になっている。信徒と市神組み合わせは、沙羅にとって、やりにくい相手になっている。
「1人で、大丈夫?」
所長が聞いてきた。
「大丈夫よ。今までも、これからも」
送る魂の数だけ、紗羅の能力も上がってきている。
「市神。嫌なやつ」
つんと、すました市神の嫌な顔が頭に浮かんだ。
「あいつの事も、狩ってやりたい」
「紗羅。関係のない人は、罰せられるわ」
「はいはい。。冗談よ」
沙羅は、カバンをひょいと肩にかけた。
「すぐ帰ってくるわ」
沙羅は、事業所の車に、飛び乗っていった。
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