第13話 牛頭と馬頭

 灰色の空間が広がっている。湿った匂いは、古い土の匂いだった。天井からは、昨日、降った雨が滴り落ちている。

「随分と、やられてしまったわね」

古い棺の上で、横たわる沙羅に、体格に良い女性が声をかけた。

「いくらなんでも、酷いわよ。沙羅は、気を遣って、無理に生魂を盗っている訳ではない。枯れ果てた魂を、あの世に橋渡ししているだけなのに」

細面の女性が興奮していた。

「まぁ。。。所長、そんなに怒らないで」

体格のいい女性がなだめていた。

「所長?ここでは、そんなふうに呼ばないで、いつもの通りに、呼んで頂戴!」

「いいのね?馬頭」

馬頭と呼ばれた女性は、怒りが治らない。

「いい?紗羅。もう、遠慮はいらないの。構わず、仕事を進めるの」

「こんな時に、仕事の話は、やめなさいよ」

牛頭は、紗羅の姿に目をやった。刺された痕が、崩れていくように、少しずつ、内側に向かって、砂が吸い込まれるように、崩れていった。思わぬ形で、香木を打ち込まれ、紗羅の姿は、途切れてしまった映像のように、脆くなっている。

「時間が。。。ないわ」

牛頭は、紗羅の髪に手をやった。

「私達だけでも、これを破らないと」

紗羅の手が、牛頭の頬に触れていた。

「無理よ。持ち主を倒すなんて」

香木を打った相手を、次の月が登るまでに、闇に葬れば、沙羅は、元の姿に戻る事ができる。出来なければ、このまま、闇に帰り、元の黄泉路に戻るまでだ。

「元に戻るまで、、元に戻れば。。」

沙羅は、ハッとした。

「母さん。。。桜子。。」

忘れていた熱いものが、紗羅の目頭を熱くした。

「私達に、任せるべきよ。」

牛頭は、紗羅の手を握っていた。

「まだ、終わりと決まった訳でないでしょ」

沙羅は、目を閉じた。いつの頃か、忘れていた遠い日の思いが、瞼の奥にあった。

「紗羅?」

母親と思われる声が聞こえる。妹の声も聞こえてきた。

「牛頭、馬頭。まだ、やらなきゃいけない事があるみたい。」

砂となって消えていく、胸に沙羅は手を当てて言った。

「どうして、ここにいるのか、わかってきたの。。」

紗羅の目が悲しく光っていた。

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