第8話 さあ、そろそろ起きようか。

僕は、息を呑んでいた。それは、人の形をしていたけど、いや。。ミイラ男の様に、包帯が全身を覆っており、臭気が漂っていた。覆った包帯は、赤や黒い色をしており、あちこちに浸出液が、こびりついていた。顔を覆う包帯の間から、二つの瞼のない目が、僕を見ていた。

「こ。。。こんにちは」

とりあえず、僕は、声を出していた。なんて事だ。市神め。わかっていて、僕をおくりこんだのか?

包帯の下で、何かが蠢いていた。膨れ上がり、赤黒い血が、吹き出す。あぁ。。これは。僕は、目を見開いた。

「よく見て、くださいよ。」

奥から、あの妻が顔を覗かせていた。

「あなたが、来るのを待っていたのだから」

肩の包帯が、ずるっと落ちていった。本人は、ハッとして、包帯を引き上げようとしたが、僕には、見えてしまった。包帯が、うず高くなっているそこには、人の顔があった。いくつも、いくつも、包帯で、隠されているけど、その下には、たくさんの顔が隠れていた。その顔は、目がなく、鼻と口だけが、空いており、そこから、たくさんの血を流し、呟いていた。

「おい!何とかしろよ」

妻は、言った。僕は、目が離せなくなっていた。実物を見るのは、初めてだった。見えないものを見てきたけど、これは、現実にあるものだった。千顔孔。誰が、彼を追い込み、縛り付けたのか、恐ろしい呪縛が、ここにはあった。

「あの。。。これは、傷なんですか?治療は、どうしたんですか?」

僕は、すっとぼけた。

「今まで、何人も、来たんだよ、あなたみたいな人が、でもさ。。。」

長男が、冷たい声で、話していた。

「誰も、無事に帰った人は、いないんだよね。おかげで、僕も、ここに縛られていてさ」

長男は、着ていたシャツの前を開き、僕に、何があるのかを見せた。

「おかしいだろう?こんな姿で、いるなんて」

はだけた胸には、真っ過ぎに、何かが刺さって見えた。木の棒?違う。その木の棒の当たった周りは、赤黒い血に染まっていた。一本の包丁が、根元まで刺さったままになっていた。

「あり得ないだろう?」

長男は、笑った。

「あなたには、どう見える?」

「いえ。。。」

僕は、目を凝らした。包丁が刺さったらしい箇所には、何も見えなくなっていた。根元まで、刺さっているように見えた胸の辺りは、何もなかった。

「何も、」

余計な事は言わなかった。長男は、疑わしい顔で、僕の顔を覗き込んだ。

「何も?」

血の気のない、恐ろしい顔だった。

「そうかね」

長男と妻は、顔を見合わせていた。その時だった、突然、包帯男が、苦しみ出した。嘔吐したいのか、胸を掻きむしり始めた。僕は、恐ろしいのも、忘れて、駆け寄っていた。

「だ。。大丈夫ですか?」

僕が、駆け寄るのを待っていたかのように、包帯男は、僕の方に齧り付いてきた。

「うわ。。」

僕は、ひるんだ。こんな攻撃をされるなんて、初めてで、頭の中は、混乱していた。市神は、わかって、僕を差し向けたのか?

「やめて、ください」

僕は、もがいたが、すごい顎の力で、僕の肩の骨を噛み砕こうとしていた。

「はなせ!」

手で、抵抗するが、敵わない。僕の細腕では、敵わないのか、このまま、噛み裂かれてしまうのか?

「うぅ!」

僕の頭の中で、何かが、叫んでいて。額が、割れるように痛い。離せ!離さない?離さないと?何なんだ?僕は、何を言おうとしてる?と思った瞬間だった。

「やめなさい」

市神?僕の肩が自由になった。包帯男が、誰かに弾かれ、あの妻が、驚嘆し、長男が、後ずさった。誰?そう思った僕の前に、一人の女性が立ちはだかっていた。

「紗羅?」

あの悪意の天使が、僕の前に現れていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る