第7話 馴染みの仲間①
村の近くにある湖を渡ってきた爽やか風に吹かれると、家に入ってきた風と同じ匂いがした。
オレは自家を出て、ユウとして8年間、お世話になっている村を歩いていた。
集合場所へは、何度も行っているため、足取りに迷いはない。足が勝手に進んでくれる。
自分が住んでいるこのクーツ村は、ロワード王国に属している。
ロワード王国は、地球で最も大きなノルギフ大陸(中央大陸)を二分した西側大陸、その中央東に位置する大国であり、人間国の主要五大国の一つである。
ロワード王国の寛大な王は、魔王軍の侵攻から逃げてきた避難民であるオレ達、ユーフテス王国の民を快く受け入れている。
王国貴族達は王の命に応じて、オレ達を領民として向かいれ、領地に住まわせてくれている。
そして、そのうちのアクス領にあるクーツ村は、国の端っこも端っこ。魔族連邦と面した守護結界があるギリギリ東に位置し、大都市がある中心部からは離れた小さな村だ。
大きな湖(緑海)に沿って、地方独特な石造りの家が多く建ち並び、周りには雄大な自然が広がっている緑豊かな村である。
村や周辺の光景は、今まで何年も見てきたはずであるが、何だか感慨深いものを感じる。
オレは生物の漲る(みなぎる)生命力に圧倒されながら、村外れの道をゆっくりと歩いていると、後ろから自分を呼び止める元気な声が聞こえた。
「ちょっと待ってよ、ユウ〜!!」
後ろを振り返ると、今日約束をしている幼馴染の一人であるアミーが息を切らしながら、こちらに走ってきた。
彼女『アミ エマーソン』という人間は、真面目で、そして今の世の中でも自分なりに楽しんで生きようとする楽天家である。その先を見ない行動には、何度も振り回され、ヒヤヒヤさせられてきたことか。
ただ……そのブレない前向きさに幼馴染全員が何度も救われてきたのもまた、事実である。
アミーはひと息つくと……。
「あはよう! もしかして、ユウも寝坊したの?」
「あぁ、さっき起きたところだ」
「やっぱりね。いつものボーっとした顔が、よりボーッとしてるもん」
「悪かったな、気の抜けた顔してて」
そういえば、違和感を感じなかったから気に留めもしなかったが、今のオレの風貌や背格好は、前世界の夢羽とどことなく雰囲気が似ていた。
身長は平均か、それよりほんの少し高いぐらい。どちらの顔も、ぼーっとしていて、髪は黒色で先っぽがうねり、ボサッとした印象を与えるヘアスタイルであるなど、共通点が多いからだろう。
「……それにしては随分、余裕あるね。私もだけど約束の時間、もう過ぎてるのに」
「いや、オレも最初は走ってたんだが。
まぁ、いつもの勉強会なら、いいだろうと思ってな」
「う〜ん、確かにそっかぁ〜。
集中勉強会っていっても、本番一週間前だし。この1ヶ月間で、やれることはもう無いってくらい対策したからね」
「なに言ってんだ。アミーは、まだ応用試験の対策が残ってるだろ」
「はは、そうだったね。ハハハ」
アミーは他人事のように、軽く笑った。
「フッ笑いごとじゃねぇぞ」
しかし、オレに言葉のブーメランが深く突き刺さった。
そうだ、笑っている場合じゃないのは、オレの方だ。
これこそが、すぐに直面する解決しなければならない『問題』の1つである。なんと、前世界で25才の社会人であったオレは、現在15才の受験生なのだ。
しかも、受験先は国立高等魔術学院 上級魔術科。この国の学院で上級魔術を教えている唯一の場所。そのため王国1番の受験難易度なのだ。
アミーの言うとおり、この1ヶ月間の試験対策。
そして、地元の中等魔術学院の授業の記憶はぼんやりとあるのだが、身体への定着が不十分なのか、今だに基本魔術すら使えそうにない。
もう少し脳から魔術に関する情報を遡ろうとしていると。
「ねぇ、ユウも徹夜してて、寝坊したの?」
……あれ? そういえば、ユウは寝る前に何をしてたのだろう。
気になり記憶を探ってみると……。
確か、昨日も……皆との勉強会を終えて、帰って飯食って風呂入って勉強して、そのまま普通に寝たかな、そんな気がする。
昨夜のことは余り思い出せないが、まぁオレは徹夜で勉強するような性格ではないだろう。
「いや……普通に寝過ごしただけだな。
あまりに寝心地が良かったからかもしれん」
「えぇ〜!? そんな理由なの? ユウ、今まで遅刻したことなんかなかったし。むしろ、約束の15分前には着いてたぐらいじゃん」
「そんな驚くことかよ。たまにはいいだろ、べつに」
確かにユウの性格や記憶(経験)上。寝坊で遅刻したことはない。
これは、さっそく間違えたかもしれない。徹夜で勉強していたという答えがユウらしかったのかな。
だが遅刻したことがないユウが寝過ごした。やはり、この現象の影響が肉体に疲労という形で来ていたのだろうか……。
「でも、よかった……。てっきり、ユウのことだから。また騒動に巻きこまれようとしてたのかと思った」
巻き込まれるではなく、巻き込まれようとした、変な言い方だ。
人の事をまるで台風の日に、自ら外に出る命知らずの餓鬼みたいにいってくれるじゃないか……。
「……それって、朝の大きい音のことか?」
「そう! 大きな亀裂音! 私はもちろん起きてなかったから、聞いてないけど。村じゃ『魔族軍の攻撃か?』なんて騒ぎになってたよ」
「あぁ、その話はオレも聴いた。
ただ詳しい情報は何も知らないんだ。
もしかして、何か詳細な情報って公表されたりしてるのか?」
「う〜ん、ある程度は。
え〜と……たしか時刻が8時ぐらいで、場所はこの村と王都の中間ぐらいの地点だって言ってたかな」
「その音の場所では、何か起こっていたのか?」
「どうなんだろうね? 流石にそこまでは、私もわからないけど、軍の調査兵団が今精査してるって聞いたよ。
あぁ〜でも結界がある限り、魔族は入れないし、魔族は関係ないんじゃないかな?」
新参者であるオレ達は話でしか知らないが、ロワード王国全体を覆う『守護結界』が展開されて以来、魔族が不法に侵入した事実はないと聞いている。
それに昔と違い。9年前から、この国は魔族の入国も在留も完全に禁止としている。つまり、魔族は現状国内に居てはならない存在だ。アミーの言うとおり、魔族は関係ないと考えるべきか……。
ならば、その音と場所が自分に起きた現象と関係しているとか?
考え過ぎかもしれないがゼロではない。
その国の調査とやらで、なにか手がかりが消える前に、すぐにでも行った方がいいだろうな。
黙り込んでいたオレが変だったようで、アミーは不思議そうにこちらをジドーと見てきた。
「今日のユウ、なんだかー」
アミーに、これ以上探りを入れるとボロを出しかねないし。追及は辞めて強引にでも別の会話に変えるべきだ。
「なるほどな。
そうだ! 結局、昨日の最後に解こうとしていた魔術式、解けたのか?」
アミーは影で努力する真面目さんだ。勉強の話でもすれば、すぐに興味が移るだろう。
「ん? そうそう。あの式、ほんと難しくて。それで解くのに徹夜しちゃった」
予想通りに話は逸れて、あとは流れに身を任すように適当な雑談をしていると、気づけば約束のアイナの秘密基地(家)に着いていた。
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