27.やっと、見つける事が出来た。後編
『――姉さんに会いたい』
小さく呟く声に、月の女神であるルナは驚いた顔をしながら僕の姿を見つめていた。
驚いた顔をした後、その願いはきっと当たり前なのだろうと思ってしまったのかもしれない。彼女は静かに息を吐きながら、僕に再度視線を向ける。
『それは、難しい事ですね』
『……やっぱり、そうだよなぁ』
死んでしまった人間に対して会いたいと言う願いなんて、ある意味邪道でもあるだろうと僕は考えた。だって、死んだ人間を生き返らせてほしいなんて、絶対に無理な話なのだ。
漫画や小説で、生き返らせてほしいと願うシーンがあるが、普通だったら死んでしまった人間に対し、そんな事を願うのは理に反している。僕もきっと、そんな願いは言わないと思っていたはずなのに、依存していた姉に会いたいなど――。
頭を抑えるようにしながら、渇き笑いをしてしまった僕の姿を見たルナは、再度声をかけてくれた。
『生き返らせる事は無理です。現にあなたの姉である明菜さんは、既に転生しております』
『てん、せい?』
『はい、転生です。別に人間として暮らしております……この地球と言う世界ではなく、私が守護している世界で』
『……』
ルナが言うには、姉さんはどうやら異世界と言うところに転生し、別の人間として生まれてしまったと言う事であって、既にもう生き返らせることは不可能だと言う話だ。まぁ、生き返らせる事は出来ないのだがと付け加えて。
もう、姉さんとは別の存在になってしまったのかと思った僕は、その場で力が抜けてしまい、地面に座り込んでしまった。
『明典。あなたは既に死んでおります……しかし、あなたは罪を犯しました』
『……人を殺したから?』
『ええ。相手はどうしようもないクズだと思います。あなたの姉である明菜を殺したのですから……死んで当然かもしれないですが、あなたは人を殺し、罪を償わなければいけなくなります。それと同時に、あなたは転生させる事は出来ません』
『……』
クズでどうしようもない義理の兄。わかっていたけれど、どうやら僕は姉が居る異世界に転生出来ないらしく、それは仕方がない事だろうとすぐさま理解する事が出来た。
だって僕は人殺しだ。一人だけだけど、それでも姉さんが大事に思っていた人を殺してしまったのだから。
僕の手は両手に、真っ赤に染まっている――罪を償わなければならない。
『……しかし、願いはありますかと言ってしまったのは、私です。だから、願いは叶えましょう。明典、今からあなたを私の仮の眷属として体を作り変えます』
『は、何それ……』
『そしてあなた、小さい頃にお店を出したいと言っておりましたね。そして料理も得意と』
『ちょ、お、おい何勝手に決めてんだよッ!』
『――会いたくないですか?明菜に?』
――もう、姉ではない別の人間として生まれ変わっておりますが。
月を守護する存在の女性に、僕は素直に頷いた。
例え、姿形が違っていたとしても、魂は『姉』なのだ。僕はどんな理由であれ、会いたかった。
そして、出会ってしまったら――。
――物語は、ここで終わる。
「――店主さん?」
いつの間にか意識がなくなってしまったのか、僕は反応して声をかけてくれた人物に視線を向けると、そこに居たのは姉と同じ姿をしており、姉の魂を持つ女性、ミリーアだった。
不思議そうな顔をして僕を見ていたので、急いで僕は意識を集中し、笑顔で対応する。
「あ、す、すみません、ちょっと別の事を考えておりまして……食事、どうでしたか?」
「とても美味しかったです!他の所で食べる所よりも一番……あんなに美味しい料理なんてあったんですねぇ……」
「お腹いっぱいになっちゃったけど、また食べたいし!」
「……ただ、『死の森』を潜り抜けないといけないんだよなぁ……」
「「「……」」」
シンシアさんが笑顔で言った瞬間、背後でため息を吐きながら答えるリュークの言葉を聞き、三人はその場で黙ってしまった。
わかっているのであろう――例え、美味しい場所だとしても、この周りは『死の森』と呼ばれ、夜なんて特に魔物が多く襲ってくる時間である。
シンシアさん、リュークさん、そしてミリーアさんの三人は青ざめた顔をしながら、そのままシオンさんの方に視線を向けると、彼は相変わらずいつもの笑顔を見せており、その笑顔が気に入らないのか、三人の背後から黒いオーラがみえたのは、気のせいだと思いたい。
「あああ、また食べたいよー!店主さん、このお店っていつやってるの?」
「え、あ……ああ、満月の夜になればやっております」
「なんで満月の夜に?」
「この店はちょっと特殊なんですよ……僕が唯一この店を作れるのが、満月の夜なんです」
「え、じゃあこの店全部魔術なんですか?」
「はい。この空間自体は僕の魔術です。僕に力を貸してくださる方が、月にまつわるお方なので……」
満月の夜は、魔力が一番高まり、同時に、ここでなければ完成しない魔法。
申し訳なさそうに答える僕の姿を見た三人は、ため息を吐きつつ、もう一度この場所に来ることを願うようにガッツポーズを見せていた。
「じゃ、そろそろ行きますか、三人とも」
全てを感触し終えたシオンさんは満足そうに立ち上がり、三人に声をかけると小名上に頷き、店の入り口に向かっていく。
「お邪魔しました、店主さん。美味しかったっス」
「また、次も来るね店主さん!」
「ってことなんで、また連れてきてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。お客さんは大歓迎ですし……ただ――」
「ただ?」
ミリーアさんは首をかしげながら、僕の最後の言葉を気にするかのように視線を向け、少しだけ言いづらそうにしながら、僕は答える。
「――この店が出来るのは、あと数回ぐらいだけなんです」
笑顔でそのように答える僕の姿を見たシオンさんは目を見開いて、僕の姿を見ていたなんて気づかないまま、僕はミリーアさんに目を向けていた。
目的は達成された。
頭の中でクロさんの姿を思い出しながら、不安な気持ちになりつつ――僕はミリーアさんに笑いかけたのだった。
僕の最後の言葉を聞いていたクロさんが近くに居たなんて、気づかないまま、僕はクロさんより、ミリーアさんを優先していた。
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