17.抹茶アイスでほっこりしてしまった。



「クロさん、僕実は告白を受けたんですけどクロさんはどう思います?しかも同性です」

「…………は?」

「この世界って、同性でも恋人同士になるんですか?」

「…………誰だその男、名前と見た目と背格好と住んでいる場所を教えろ店主」

「無理ですよ。聞いてないですから」

 僕は大泣きしてクロさんにキスをされた次の満月の夜、僕はクロさんに思い切って告白された事を話してみた。相手はシオン・フローディアと言う男性である。

 クロさんと互角に渡り合えるほどイケメンで、背格好もクロさん同様に綺麗で、ただ瞳の奥に何かを隠し持っているような雰囲気を出されたような気がして、僕はあの時握りしめられた手を振り払ってしまった。

 彼は僕以上に腹黒いのではないだろうかと思ってしまったからである。

 クロさんに簡単にその事を話した瞬間、睨みつけるように僕に向けてそのような発言をした。これはしゃべってはいけないとすぐに理解する。

 すると、カレーライスを食べていた女性、ラティさんが笑いながら話に入ってきた。

「あはははッ!マジかぁ!いやぁ、店主さんモテモテだねー!でも、男性にモテモテって言うのはある意味面白いなー」

「そうですかね?」

「そうだよー」

 笑いながら答えるラティさんだが、僕は内心穏やかではない。隣に立っている男性、クロさんの表情が明らかに穏やかではなく、怒りを露わにしている状態で、持っていたフォークをへし曲げてしまうぐらいの力が入っていた。

 フォークを曲げないでほしいのだがと言いたいのだが、それすら言えないほどクロさんの表情は怖い。明らかに。

 カレーライスを完食したラティさんは興味本位だったのだと思う、僕に告白してきた相手の特徴を聞いてきた。

「興味本位で聞くんだけど、店主さんに告白してきた人ってどんな人?」

「ええ、そうですね……金髪で綺麗な瞳で、ああ、イケメンだなー間違いないって言う感じです。それと……」

「それと?」

「……ニコニコしていたのですが、あの笑顔が何て言うか、めちゃくちゃ怖かったです。腹の奥底に何か隠し持っているかのような、そんな感じでした」

 そんな事を思い出しながら、僕はシオンさんのことを思い出す。そして、この『死の森』を乗り越えてきた人物なのだから、きっと腕っぷしも強いのだろうと思いつつ、ふとコロッケを食べていたシオンさんの姿を思い出した。

 あの時だけ、シオンさんの表情は穏やかで、美味しそうに食べる姿は忘れることはできない。きっと、あれが本心なのであろうと思いながら思い出し笑いをしていると、視線に気づいた。

 視線の先には疑う目をしながら僕を見ているクロさんの姿。

「…………店主、浮気か?」

「浮気というより、僕はクロさんとお付き合いしていません」

「…………その男と付き合うのか?」

「付き合いませんよ。そもそも僕は多分クロさーー」

 無意識に何かを言いかけた僕は急いで口を閉じた。

 これはきっと言ってはいけない言葉だと頭の中で理解し、口を押さえた僕はそのままクロさんから一歩後ろに下がるようにした。

「店主?」

「店主さん?」

 突然黙り込み、口を押さえながらクロさんから離れていく姿が異様に見えたのか、クロさんとラティさんの二人は僕に視線を向けたまま、首を傾げている。

 クロさんは一瞬自分のことを言われそうになったことに気づいたのか、ニヤニヤした表情をし出し始め、笑みをうかばせながら僕の顔に近づいてくる。

「……店主、今何を言おうとしたんだ?」

「い、いや、別に……た、大した事じゃなくて……ああ、もう!クロさんいつものやつですよね!」

「ああ、いつものやつだ」

 僕は用意しておいたパンケーキを机の上に置き、顔を真っ赤にしながら視線を逸らし、厨房の方に戻ってしまった。

 そんな後ろ姿を見ていたのか、僕が消えた後ラティさんはクロさんに視線を向けて話していたことなんて、知らない。

「……あんた、何したのよゴミの分際で」

「ゴミとは心外だな……まぁ、手をすこぉし出しただけで」

「ちょ、ついに手を出したのアンタ!私の癒しの店主さんを!!」

 拳を握り締めながら叫ぶラティさんの声すら耳に入ってきていない僕は、厨房に逃げた後顔を真っ赤にした状態で、両手で顔を隠す。

 自分が発言した言葉、明らかに僕はクロさんの方が良いと言ってしまう所だった。考えれば考える程、僕の顔が真っ赤に染まる。

 これはいけないと思った僕は冷蔵庫から取り出した小さなアイスを手にし、アイスの蓋を開ける。

 スプーンを用意し、一口、口の中に入れる。

「…………美味しいなぁ、抹茶アイス」

 口の中に広がる抹茶の味。僕は抹茶が好きだ。

 少しだけ感じる苦みと広がる甘さに虜になりながら、もう一度食べようと口の中に入れようとした時、視線を感じる。

 思わずアイスを食べる動きを止めて振り向いてみると、そこには猫の目をしているラティさんとじぃっと目をキラキラさせながら僕を見ているクロさんの姿。

 アイスがとても食べづらい。

 三人、お互い見つめあった後、一言二人に向けて呟いた。

「……食べます?」

「食べる、店主」

「食べます、店主さん」

 二人は即答。

 僕はそのまま冷蔵庫に手を伸ばし、二つ抹茶アイスを取り出し、スプーンと一緒に渡してみる。

 見よう見まねで蓋を開けて、スプーンですくって抹茶アイスを一口、口の中に入れた。

「「ッ!!」」

 冷えていたせいなのか、口の中から感じる冷たさに驚いたのか、目を見開き呆然としながらラティさんとクロさんが僕の方に視線を向ける。

 美味しいのか、冷たいのに驚いたのか、次の一口がいかない。

「……クロさん、ラティさん?」

「……これ、冷たいね、店主さん」

「……ぱんけぇきに乗せたら美味しいだろうか?」

 そんな事を呟きながら、二人はジッと抹茶アイスを見つめており、そんな二人を見て思わず笑ってしまった。

 たかがアイスでここまで真剣な表情をしている二人に思わず笑ってしまった。

 そんな二人を見つめつつ、いつの間にか僕は先ほど考えていた事をすっかりと忘れてしまうのだった。

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