第66話 共闘 2

「あら?アシッドスライム?」

「あぁ。殆どこのゴミ捨場の主だな」


 普通のスライムって緑色。薄く明るい色合いで、魔核が薄らと見えて、ゴミの陰にも数匹が見え隠れしてる。でもこのゴミ捨場の端にいて鍋や包丁に取り付いてるのは赤サビ色?のスライム。流石に魔核は見通せない。


 街のゴミ捨場に何やら見た事の無い魔物がいる。そう訴えがあり、取り敢えず確認の為にギルド職員としてマイケルが出向いた訳だけど、まぁ確かにアシッドスライムはスライムの上位種で滅多に見ない魔物なんだが…。


 そうは言っても、コイツがロディマスの従魔でこのゴミ捨場の主的な存在なのはエラムじゃよく知られている。訴えて来た奴も長年の住人だ。知らん筈が無い。


「うん?フム、成る程。コイツは何の爪痕だ?」


 それ程デカくはないが、ちとばかり深い爪痕が近くの岩場にある。スライムでは創り様が無い傷痕。

「サラ、お前さん、この爪痕、どう観る?」

 俺の後ろから来た奴も同じくギルド職員。

「多分クァールね。そこらの犬よりは大きな猫型魔物。でも攻撃は鋭い爪と噛み付き位のランクFの魔物だわ。縄張りに入ると結構攻撃的…、なのに今姿を現さない処を見ると…」

「どっか逃げたか?」

「えーと、多分ね。あのアシッドスライムに喰われたんだと思う」

 あー。そう言えばアシッドスライムの方が魔物ランク高いわ。コイツEだよなぁ。

「アシッドスライムは確かに自分からは攻撃しない魔物。でもクァールなら縄張りに入ったと思って手を出す」

「で、コイツに返り討ちに合う」

「そうね。アシッドスライムは強酸性の体液をまるで矢の様に飛ばす。それにスライムらしからぬ危険感知をも持ってる」


 そう。

 スライムは己が身の危険すら認識する知能は持ち合わせてない。んだが、上位種だと少しはマシなんだろうな。


「従魔ならばこその知恵も持つみたいだしね」


 ゴミ捨てに来て、ビビった人間の敵意に反応しない処を見ると、コイツは今人間に敵対しない程度の頭はあるらしい。


「テイマーの事、従魔の事、私達は本当に何も知らなかったのねって思うのよ」

「まぁ、アレ程不遇な上位職はねぇしな。今ですら転職しようって冒険者は皆無って言えるし」


 ロディは最早伝説と言える冒険者になった。でもテイマーへの認識は変わらなかった。


 存在が特別過ぎるんだよ、奴は。


「そろそろ国境かしら?場合によってはランクS魔物の討伐依頼になるって」

「銀獅子…。倒せたらこのエラム初のランクSだっけ?」


 ギルド登録1年未満のガキがだぜ?

 世の中不公平って思うのは俺だけじゃないよな。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 とうとう、オレ達は出会った。


 懐かしい、ずっと冒険者として共にいた仲間達。

 『地上の星』…。


「久しぶり、マーズ」

「元気そうだなぁ、ブレード」


 あのゲームで攻略のトップ争いをしていた2つのパーティ。『地上の星』と『裁きの刄』。


「そして、君がロディマス=クロノ伯爵様?」

「ロディで。根は新人冒険者のガキです」


 マーズがオレの前に立つ。


「お前さんを新人のガキって呼ぶのは、俺達ですら何かの間違いって思うぞ、ロディ」

「そうそう。貴方、もうランクAの冒険者なんだから。ダガーやブレードと同じよ」


 いや、そこ、茶化さないで欲しいよ?ブレードさん…。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 遂に見えた。

 今、我等の前に例のテイマーがいる。


 ロディマス・カロン=クロノ伯爵。

 『滅びの魔女メーヴ』の息子で魔法を全属性で使え、尚且つ化物染みた魔力をも持つ。その上テイムしている従魔はフェンリルとグリフォンというランクAの災害級魔物だ。


 この世界レムルでは珍しい黒髪。そして人族ではあり得ない紅眼。ほんわか雰囲気の波目だから確かに目立ちはしないが。

 しかも彼は、高ランク異世界人エトランゼに出会えて嬉しいって言う、この世界レムルの子供らしい憧れの目を爛々と輝かせて我等を見ている。


 矢張り彼はジュピターではないのか?

 この世界の者だと言うのか?


 まぁ、折角の共闘。これから確かめる術は幾らでも有るだろう。


 それと、彼等の後ろにいるのは…。

 元の世界日本で言うと大学生か?


「ハヤトとヒカリ。『光速』の名は聞いた事位は有るだろ?」

「フム、確かにな。良心的なパーティと聞いていたが、2人?」


 『光速』は3人いた。確か盗賊職の…。


「私達はケンタを失いました。その、彼は転生を選び…」


 そうか。

 赤子で転生し亡くなった訳だ。あの外道神によるふざけた転生の犠牲者がここにも。


「転生者の末路は我々も聞いている。すまんな」

「いえ。シーフのいない私達は冒険者を引退して、今はモルド辺境伯の近衛騎士です。何とか折り合い…、気持ちの整理もつきつつありますから」


 成る程。揃いの甲冑なのはそう言う事か。

 確か侍と僧侶戦士パラディンだったな。例え低ランクでも敵にはしたくない前衛戦闘職だ。


「此処は辺境伯の地だ。拠点の違う我等はこの地に不慣れなのでね。勿論例の迷宮についてもね」

「フム。道案内がいるのは助かる。王国のギルドではそこまで詳細な事は分からなかったから」



 迷宮前の監視用砦。

 帝国側には一応ある様だ。


 そこの一室を借りて打ち合わせに入る。


「この階と後此処です。この2箇所にショートカットと言える階段が有ります。コレ、どちらもある程度のレベルがないと入り口が見つけられない仕様になっています」

 ヒカリの案内。簡にして明瞭だ。

「ハーン。具体的には?」

「職レベルで35は」

「成る程。ランクBは必要という訳か」


 問題ないな。

 我々に55以下の者はいない。


 1番低いのがジュピターの48…、いや、ガイアが46だったか。まぁ、どちらにしろランクAだったから関係ないな。


「『地上の星』にそんな低レベルはいなかったよな。当然我等『裁きの刄』も。ハヤト達も40はあったよな。それにロディも」

「オレも50になりましたよ」


 本当に規格外のテイマーだな。

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