第40話 刺客 4

 帝都にある法皇家別邸離れ。


 陞爵パーティは終わったものの、ちょい面倒な依頼~勿論冒険者としてのモノを受けて、オレは未だエラムに帰れないでいる。


 発端は鍛治ギルドを通して、だった。

 硝煙鉱石採取。前世で言う処の『硫黄』。


 普通、鉱石採取なんて低ランクの依頼だ。

 にも関わらずオレに話が来たのは、硝煙鉱石の採取出来る場所が、高い確率でドラゴンの寝ぐらに近い所にあるから。


 帝都だと、近い採取場所は焦熱地帯と呼ばれる大陸中央部にあるボルニクス火山の火口近く。小規模な噴火を繰り返す為、火口周りには溶岩が流れて溜っている。

 周りに被害があまり出ないのは、ボルニクス火山が外輪山であるから。火口を囲むように山頂が拡がり溶岩を堰き止め溜め込む様な形になってあて、しかも火口そのものが外輪よりかなり深い位置にある。その上山頂標高も帝国一の高さを誇り、外気温は本来なら寒波地帯と呼べる程の温度にしかならない為溶岩の固まりが速い。


 此処には『炎魔竜ビザード』がいる。

 休眠期に入っている為殆ど寝てるだけの存在だけど、コイツは珍しく獰猛な古竜種エルダードラゴンだ。起こすなんてとんでもない話で、近付く事すら遠慮したい存在。


 ってな訳で、依頼ランクはS。

 しかも緊急性もあり、攻撃力と機動力の観点からオレに白羽の矢が立ったってワケ。


 で、オレ自身所用があって鍛治ギルドに出向いてたんだ。

 陞爵の時に、魔法剣を駆使出来るからってんで魔鉱で鍛えた騎士の剣バスタードソードを拝領した。今迄は只のロングソードだったのでマジで有り難いんだが、大人サイズのこの剣はちょいオレの手に余る。握り柄のトコとか微調整して欲しくって帝都の鍛治ギルドに顔を出したんだ。


「お前さん、あぁ、失礼しました。クロノ男爵様…ですよね」

「そうですけど…、何か」


 鍛治ギルドの受付。

 受付嬢はドワーフ…の訳ないか。人族女性で、冒険者ギルド同様綺麗所がいる。その前に依頼をしているのかな?コッチはどう見てもドワーフの親父。腕の良い鍛治士って一目瞭然の雰囲気。


「いきなりですまねぇ。急ぎの依頼、頼まれてくれねぇか!」

「ホント、いきなりだ。オレはこの剣の微調整を頼みに来ただけなんだけどな」

「どれどれ。はん、握りか?確かにコイツは大人向けだ」


 ちょいムッとする。

 オレも前世日本人の標準からすれば、14歳って年齢考えると決して小さくはないから。尤も、この世界では特別デカい訳でもない。年相応。


「ガントさん、貴族相手に失礼過ぎます。クロノ男爵様、本当に申し訳ございません」

 いや、受付嬢が謝るのもおかしな話だと思うけど。

「急ぎ?じゃあ依頼料としてコイツをオレ好みにしてもらえる」

 剣を差し出すと、

「ソイツはお易い御用だが、安過ぎて依頼料に見合わん。ワシの頼みは硝煙鉱石を麻袋1つ採ってきて欲しいというものだ」


 割り合わな過ぎ。

「それってランクSの依頼?」

「じゃな。ここらじゃ採掘出来るのはボルニクス火山位の筈じゃ」

「行くだけで1週間かかる。それに彼処って『ビザード』がいるよね?」

「その通りじゃ。が、お前さんなら1日じゃろ?」

 グリフォンに乗れる俺なら。


 『炎魔竜ビザード』は休眠期に入ってる。

 コッチから手を出して怒りに触れない限り戦いになる事はないだろう。

 戦うには厳しい相手だ。

 何せ場所が場所だ。

 焦熱地帯と呼ばれる火口周りじゃ氷神狼フェンはそこにいるだけで体力を失う。連れて行けない。


「ま、いいか。この依頼受ける」

「有り難い。そうこなくてはの」


 剣を預けて、帰路に着く。

 で、つけられてる事に気付いた。


 殺気丸出しなんだよね。どシロートかよ。


 さりげなく路地裏へ。オット、しまった、行き止まり。帝都の路に慣れないなぁ~。


 なんちゃって。

透明インジビリティ


 高位の時空魔法。多分使える奴なんて俺と滅びの魔女母さん位だろ。


「くっ!ど、何処に行きやがった?」

 あ~あ。見失った位でワラワラ皆んな出てきちゃダメじゃん。


「俺を探してる?ね、アンタら尾行下手過ぎ。わざわざ路地裏に来てやったんだから、直ぐに仕掛けなきゃ」

「き、き、貴様!ほざくなぁ‼︎」

「アリス!」


 俺の背から出てくるハイ・ピクシー。

広域電撃呪文メガジオン


 結局出て来た奴ら麻痺してやんの。


「で、アンタが元締?責任者かな?1番の実力者でもあるみたいだけど」

「全く。私1人で充分なモノを…、ぐ、が…」

「充分?アンタもシロートと変わんないよ。コッチのワナ位見抜けよ」


 アリスの電撃呪文の範囲外に潜み、真打登場って雰囲気で出て来たにも関わらず、簡単にワナに罹りやがった。時空魔法の1つ『麻痺地帯スタンフィールド』。

 時空魔法は時間空間に作用する無属性魔法。

 派手な攻撃力は無いけど嫌がらせには最適なんだぜ。


「あ、あ…あ」

「もう少し『魔女の息子』の名に関心を持てよ。魔法使い系の呪文で使えないモノなんか俺には無いよ。それともう一つ。気配も消せよ。魔物相手のテイマーが分からない筈ないだろ?」

「あ…」

「魔物の能力上回ってこそのテイマーなんだよ。まさか、絆だけでアイツらが背を許してると思ってんのか?魔物って先ず強弱が基準なんだよ。強きに従うんだ。兄弟同然に育ったのなんて二の次なんだよ。最近のアンタらにはちょいムカついててさ。1回死んでみる?」


 結局帝都近衛師団に引き渡した。

 甘いかもしれないけど、出来れば殺しはゴメン被りたいよ。


 さて。

 採掘依頼だ…。

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