第20話 そして…婚約 4

 いや、確かにドラゴンでもドンと来いって言ったけどさ。


「フェンリルやグリフォンがいて高位の攻撃魔法や魔法剣まで駆使出来る奴を駆り出さない訳ないだろう?主戦力だよ、どう考えても」


 『魔の森』を過ぎてコルコス王国との国境線にもなっているリザン山脈。何でもレッサードラゴンが数頭住み着いたらしい。

 今オレ達は時短の為、その魔の森を突っ切ってるけど、森を迂回してコルコス王国へと至る街道の国境にある城下町がある。トライドルって言う国境守備の砦の帝国コッチ側に拡がる街。その穀倉地帯が山脈の裾野に拡がってるんだけど、それがドラゴン達の狩場になりつつあるんだって。

 だからマヂでドラゴン退治の依頼。

 向かっているのはオレと『裁きの刄』。


 以前クラスレベルの事で有耶無耶にした事をブレードさんは案外根に持っていて、それはもうブツクサ言われたんだ。挙げ句の果てには「それを悪いと思うなら、今回の依頼に手を貸してもらおう」って。

 いや、全然悪いなんて思ってなかったんだけどね。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 目の前の少年についてブレードなりに考えていた。魔法剣を駆使する英雄級40超えの存在なんて俺は1人しか知らない。

 現在ベルン王国に召喚されている勇者のパーティ『地上の星』の魔法剣士だ。確かジュピターと言った。彼はこれまで召喚されてないと思われていた。だが、こちら側に来ていたのか?

 その疑問はウチの内偵役シュリケンも思ったらしい。らしいで終わるのは、そう考えるには辻褄の合わない事があるからだ。


 1つ。年齢。コイツは14って言った。ジュピターは大人で、戦士からの転職者である彼は俺に負けない程の体格をしていた。

 2つ。魔法。ジュピターはさっきも言ったが戦士からの転職者だ。つまり魔法は全てを修めた訳ではない。だがコイツは魔女の息子で魔法使いからテイマーへ転職したと言った。広域極大爆裂呪文エグゾフレイムなんて魔法使いをレベルカンストしなければ使えるモンじゃない。

 3つ。魔女メーヴの子。だからコイツは召喚者じゃない。そして波目で隠されているが、コイツは紅瞳だ。紅い眼の色なんてあのゲームのアバターには存在しない。メーヴの血縁者じゃなければ紅瞳なんて人族にいる筈がないんだ。


「まだ、気になるの?」

 俺の後ろ、軽装備で足取も軽やかについて来るダガー~こんなナリでも魔法使いだ。

 普通魔法使いと言えばローブ姿に杖と相場が決まっているのだが、彼女はそのレッテルを嫌った。確かにゲーム『忘れられた世界ロスト・レムル』の魔法使いはレザーアーマー迄装備出来た。それに魔法発動体を必要としていない。呪文と魔力があれば魔法は発動するんだ。あのゲームで魔法使いが杖を持っていたのは手持ち無沙汰だからと言うのが多かったし、プレイヤーの固定観念が杖装備以外を拒否していた事が大きい。

「まあな」

「そうねぇ。確かに疑惑は有るけど…。あの子とジュピターとの近似点はクラスレベルと波目だけよ。貴方も言ったじゃない。辻褄が合わない点が3つ。それも決定的なって」

「だよなぁ」


 目の前にいる少年。

 俺達が魔の森を突っ切って行けているのは彼のお陰だ。つまり、今彼はグリフォンに跨ってるんだ。ついでに横にはフェンリルもいる。で肩に乗っかっているピクシーと何やら語らっている。

「何話してるのかしら。羨ましいなぁ」

 ピクシーは人型だ。見た目は透き通った昆虫の様な羽を持つ少女。だから魔獣型と違いテイマーとは会話が成り立つらしい。

 尤も俺達にはピクシーの声は「ルルルン、ラララン」位の鼻歌にしか聞こえないのだが。


 人に慣れているランクAの魔獣。

 エラムから出て森に入ってからロディは従魔を呼び出した。街をも滅ぼせる魔獣が人を乗せ、また人と歩調を合わせて歩く。本当に信じられない。

 このお陰で、魔物が徘徊して歩けたものではない『魔の森』で全く魔物が寄って来ない。この2頭に対抗出来るのは同じA以上、若しくはS。そんなもんホイホイ出会えるモンじゃない。


「でも乗り物も使えない。勿論荷駄炉馬も」

 俺達の後ろで荷物を抱えている治癒師ヒーラーのフレイル。俺も筋骨逞しいと思える身体だが治癒師ヒーラーなのに俺の上をいく。


 最初は馬車でロディについて行くつもりだった。だがグリフォン等にビビってしまった馬は全く使い物にならなかった。荷駄用の炉馬も同様。その為歩きでついて行くしかなかった。

 戦闘馬バトルホースならば何とかなったかもしれない。見た目は巨大な馬で、しかもランクBだ。ビビらないと言えば嘘になるだろうが、全く役に立たないとまではいかないと思えた。

 だが、皇家や三公家、帝都近衛軍位しか戦闘馬バトルホースはいない。確かにランクBの魔物にしては人に慣れ易いが、絶対数が少ないんだ。

 戦闘馬バトルホースはオスしか存在しない魔物だ。雌馬を使って繁殖させるしかないが、そこ等の雌馬では妊娠中の胎児の成長に身がもたない。無事出産迄保ったとしても出産自体で体力を使い果たしてしまう。帝都近衛軍でも繁殖用の雌馬を強く大事に育て上げ、結局使い捨ての形で出産させているんだとか。


 魔物に遭っても馬車で行くか、魔物に遭わない歩きか。俺達は後者を選択した。そしてそれは今の処正解と言える。

 俺達は魔の森を平穏無事に通り抜けた…。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 森を抜け街道に出たところでオレはフェンリルフェングリフォングランを陰に戻した。ピクシーアリスは肩のままでも誰もメクジラ立てないけどランクAの魔物はそういう訳にはいかない。オレの存在はそれなりに有名になりつつあるんだけどね。あ~あ。


 取り敢えずトライドルに着いたオレ達は、先ずはギルドに直行する。


「エラムギルド所属の『裁きの刄』と…」

「同じくエラムギルドのテイマー、ロディマスです」

 受付嬢が「少々お待ちください」と奥へいく。

 で、かなり年配の男性を連れて来た。


「お待ちしておりました。トライドルギルドマスター・ヘインズと申します」

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