第5話 出会い 1

 ギルドに来たのは冒険者登録の為。

 それともう一つ。いつの間にか出来てしまってた人探しのクエスト。

 とりあえず、物の試しで受付嬢リリアさんに聞いてみたけど、いきなりビンゴ!

 リリアさんはオレが探している人の妹らしい。


 あれ?

 リリアさんってオレとそう歳は離れてない様に見えるのに?

「えと…、お兄さん?ですか?」

「母親は違いますが…。私と兄は12離れていますし。でも何故?」

「大事な人の為の薬…。リリアさんだったんですね。その為に塔の試練を無茶して…。そうか。オレ、マディアスさんの身内の方へ預かってる物があるんです」

 ストレージボックスから銀の腕環を取り出す。

「それは!?兄に私の母が贈った…」

「コレ、お返しします」

「貴方は兄の…、兄の最期を知っているの?」

「聞いてるだけです。そのがむしゃらに最短ルートで来たって。だから罠の数も種類も多くて…最上階までたどり着いたのは奇跡だったって」

「聞いて…?貴方は塔に?」


「グハハハ!おい、坊主!いくらリリアの気を引きたいからって嘘はいかんな」

「ガキのお前が塔に行ける訳ねぇだろ」

「あそこは魔境と言ってもいい『魔の森』の真ん中だ。しかも『滅びの魔女』がいる。坊主なんか喰われちまうぜ」


 リリアさんと話込んでいたからか?さっきとは別の荒くれ?うん、よりチンピラっぽいヤツラが、コッチを見て嘲ってくる。オレは咄嗟に怒鳴り返す。


「母さんは人なんか喰わない!」


 ギルドが静まりかえった!



「貴方は…、魔女メーヴの子供?その黒髪って、まさか?」

「はい。オレの母さんは魔女メーヴで、父さんはマディアスって。その…、塔の攻略に成功した者への褒美に、母さんが望みを2つ言ってみろって…。1つは大事な人の病を癒す薬、竜水晶の秘薬と…」

「な、竜水晶の秘薬?そんな高価な物を?もう、何が大したことない薬よ!兄さんも魔女も‼︎」


 竜水晶。

 竜の心臓の横にある魔力の源。

 それも亜種や下等種の者なんかじゃ無い、ランクSの神竜級のヤツでないとこの秘薬は出来ない。


「です。で、無理に塔の罠を突破したから半身不随になったから、自分の代わりに薬を届けて欲しいって。でも母さんは『勿論さね。そこまでは1つ目の願いとして聞いてやるよ。でもう一つ何を望む?』って言ったって。そしたら父さん『じゃあ俺の子を産んでくれ』って」


 予想だにしないマディアスの望みにメーヴは笑い転げ、「いいよ。確かに私は老人だが、身体は歳をとっていないからね。まぁギリなんとか出来るだろう。その身体で私とヤレるのかい?」と受け入れたんだ。


 右脚欠損と頭部損傷で身体に麻痺があった父さんマディアスだったけど、男性機能は無事だったみたい。でなきゃオレは生まれない。


「父さん『俺は親不孝しかしてないが、孫の顔を見せる事が出来ればそれもチャラにならないか』って。だからオレは父さんの希望だって。その母さんも、この10数年で急に弱くなって。ほぼ寝て過ごす様になって。『もう、1人でやっていけるだろ。修行も兼ねて街へ出な』って塔から追い出されたんです」


 この世界に転生した時に、そう両親を設定されたんだ。魔女の子なら、このぶっ飛んだステータスも納得して貰えるだろうって。


 誰が仕組んだのやら?


「そうなの…。うん、訪ねてきてくれて嬉しい。じゃあ私の家、案内するわ。ぜひ両親に会って」


 こうして、オレは父方の家族って設定された存在と会う事になった。

 が、その前に依頼だ。

 オレは薬草採取の依頼を受けて街ハズレの先の『兎の森』と言う可愛らしい名の森へ出向いた。


 兎の森。

 その名の通りウサギ=一角兎ホーンラビットがよく出る森。尤もホーンラビットはランクFというスライム並みの弱い魔物で、その肉は中々に美味い。

 この世界の携帯食で旅人必須の干し肉はコイツが原料。なので適度に退治して魔法で血抜きとカッティング。毒消し…とまではいかないけど軽く殺菌作用のあるチクマの葉でカットした肉を包む。へへ、小銭稼ぎ。


 おっと?何か陰がざわめいてる。

 あぁ。グランとフェンが出てきたがってるんだ。アリスは…、ピクシーはランクFだから街中にいても問題ない。寧ろテイマーを嘲る理由にすらなってるし。

 でもグリフォンとフェンリルは共にランクAだ。この2頭を使役するオレは多分この国でも最強…ってのは言い過ぎにしてもかなりの強豪だと思う。


「ごめん、グラン、フェン。このまま待機」


 そんな形で依頼をこなす。うん、こんくらい薬草摘んでるとOKかな?

 間違え易い薬草もあるけど、エルフ程じゃないとは言えピクシーも森の妖精。植物の見分けを間違う事なんかあり得ない。


 後は…、リリアさん家か…。



 少し不安もあったけど、リリアさんのご両親、オレを暖かく迎えてくれた。父さんマディアスの『俺の子を産んでくれ』には苦笑してたけど…。

 何でも父さんの口癖?らしい。同世代って言うか妙齢の女性で言われなかった者は皆無って位。で悉く振られまくったらしいけど祖父リリアの父さん曰く『まさか本当に孫に会う日が来ようとは…』って。

 オレはリリアさんの家の近く、リリアさんのお父さんの弟の家(今は空家)に住む事になった。宿を拠点にって思っていたから、コイツはマジでありがたい。

 生活拠点が出来たオレは、コツコツと採取依頼をこなしていく。堅実にランクF依頼をこなしたオレは1ヶ月後めでたくランクE冒険者にランクアップした。ぼっちソロプレイだけど…。

 テイマーなんて不遇職お荷物、誰もパーティに誘わない。


 でも疎外されてない。

 やっぱ、リリアさんの身内って言う事が大きいんだ。


 リリアさんはギルドでも大人気の受付嬢だ。

 癒しの微笑みを持つ、容姿端麗、頭脳明晰な女性で、しかも独身。冒険者処か貴族ですら嫁の誘いがあるんだって。

 でもギルドマスター・ドルフさんは某子爵3男の元ランクA冒険者でエラムの領主フリッツ=ランバー辺境伯の古い友人。だから、ここのギルドは貴族の無理難題に屈しない。


 本来ギルドの大人気受付嬢だから、リリアさんと仲が良ければ当然ヤッカミが酷い。でもオレはリリアさんの兄の子甥っ子。どんなに親しくてもそこに恋愛感情は無いから、オレはヤッカミやイジメと無縁だ。陰で蔑まれても。


 尤も、コッチも都合がいい。

 何せ神狼フェン鷹獅子グランのエサの確保があるから。

 隠れての狩りって結構大変。


 そんな生活が1ヶ月続いた。

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