第169話 ネッコ族の村防衛戦
ニャットの謎が増えてしまった事にモンモンとしながらも、私はミズダ子と共に皆の帰りを待っていた。
「ンニャーン、ニャー達も戦いたかったのニャー」
すると、退屈を持て余していた子供のネッコ族達が自分達も狩りに参加したかったとぼやく。
「おニャー達はまだまだ子供ニャ。今回の狩りには早いのニャ」
けれどお爺ちゃんネッコ族達が子猫が戦うにはまだ早いと諫める。
「そんなことないニャー」
「そうニャー」
会話だけ聞いてると血気盛んだけど未熟な若者と、現役を退いた老戦士の会話なんだけど、その見た目は大きなネコちゃんなもんだから、親猫と子猫がニャーニャーじゃれついてるようにしか見えません。なんだここ、天国か?
とまぁそんな感じで緊張感の欠片もない空気で私達は村で待機していたんだけど、突然お爺ちゃん達の目がシュッと細くなり、全身の毛がブワッと膨れ上がる。
「皆ニャ気を付けるニャ! 魔物の群れがやって来るのニャ!」
「ええ!?」
魔物の群れが!?
本当に? と聞こうとした私だったけれど、その前に魔物のものと思しき雄たけびがまるで正解だと言わんばかりに咆えあがる。
「くぅ、ニャーも年を経ったのニャ。こんなに近づくまで臭いに気付かんとは!」
そう言いながら、お爺ちゃん達が動き出す。
「ニャー達も戦うのニャ!」
更に子猫達も魔物と戦おうと走り出すんだけど、すかさずお婆さん達が首根っこを咥えて村の中へと放り投げる。
「おニャー等にはまだ早いって言ったニャ! おニャー等はそこで見てるのニャ!」
「そんな事ニャいニャ! ニャー達も戦えるのニャ!」
けれど子猫達は自分達も戦えると言って引かない。
「これ結構やばいかも……」
この状況だといつ子猫達が飛び出すか知れたもんじゃない。
そうしたら魔物を迎撃に出たお爺ちゃん達も子猫達を守る為に戦いに集中できなくなっちゃう。
くっ、どうする? こんな時私じゃ何の役にも立たないし、マジックアイテムで戦おうにも、ニャットが強いと言っていた魔物相手にどれだけ戦えるか……。
「おっと、それなら私の出番でしょ!」
と、そこにミズダ子が胸を張って現れる。
「大丈夫なの!?」
「誰にものを言っているの? 私は水の大精霊なのよ!」
言うや否やミズダ子は周囲から水を集めると、巨大な水の球を作り出す。
「とうっ!」
そして水球の中に自らが飛び込むと、水球がグネグネと形を変え、なんと巨大なミズダ子へと姿を変えたのだ。
「って、マジで!?」
「そーれ! どっぱーん!」
ミズダ子が巨大な手を振ると、巻き込まれた魔物達が天高く舞い上がり、彼方へと吹き飛ばされてゆく。
「うわすっご……って、それじゃ村が!?」
凄い攻撃だと感心したのもつかの間、周囲を無視した大雑把な攻撃じゃ思いっきり村を巻き込んでると気づいて背筋が寒くなる。
「だーいじょうぶ、周りをよく見て」
「周り?」
言われて周囲を見ると、驚いたことに村の家々は無事だった。
しいて言えば雨も降っていないのに濡れているくらいで。
「私は水の大精霊よ。敵だけを選んで攻撃するなんて朝飯前ってね!」
そうか! ミズダ子の体は水。なら壊しちゃいけないものだけすり抜ければいいんだ!
「ミズダ子凄い!」
「でっしょー! お昼ご飯は期待してるわよー!」
うん、思いっきり腕によりをかけてご飯を合成するから期待してて!
これなら戦える人、じゃなくて猫が少なくても何とかなるかも……と思った私だったけど、そううまくはいかなかった。
「……まだやって来る」
あれから数時間戦い続けているにも関わらず、魔物達は村を襲い続けていた。
「ヒィ、ヒィ……もう腰が限界じゃ~」
既にお爺ちゃん達は限界を迎えてへばってしまっている。
「ミズダ子大丈夫!?」
「私は全然平気よ~」
かれこれ何時間も一人で戦い続けてくれているミズダ子を心配するも、彼女は全然平気そうだった。
精霊って人間みたいに疲れたりしないのかな?
「でもちょっと手数が足りないわね。このままだと私達は大丈夫だけど、全員守り切るのは危ないかも」
確かに、魔物達はいつ途切れるのか分からないほど数を増やしている。
「丸ごと吹き飛ばしたら一瞬で終わるんだけど、それだと村がねー」
「それだけはやめて!」
村を吹き飛ばしたら皆が帰ってくる場所が無くなっちゃう!
「それに周囲の自然も破壊しちゃうから、この辺の精霊達にも怒られちゃうしね」
そうか、自然が豊かな場所には精霊が居るんだもんね。そりゃあ仲間の暮らす場所を滅茶苦茶には出来ないか。
「まぁ面倒になったら吹き飛ばすつもりだけど」
「あれぇー!?」
それでいいの自然の化身!?
「だって私大精霊だし」
おお、なんと傲慢な自然の化身……
「とはいえ、これはもう皆を連れて逃げた方が良いかもね。村に残り続けるよりは安全だと思うわ」
「むぅっ」
確かに、いつ途切れるとも知れない数の魔物に包囲された状況で籠城戦をするのも限界だ。
そもそもこの村、防壁とかそれらしいもの無いんだよね。
申し訳程度の柵があったくらいで。
ぶっちゃけ籠城戦というよりも包囲網の中で踏ん張っている状況だ。
「でもこれだけ囲まれた状況で皆を連れて逃げ切れるの?」
問題はそれだ。包囲網を突っ切るということは、襲ってくる魔物に子猫とお爺ちゃんお婆ちゃん達の身を晒すという事。
障害物として利用できていた家や申し訳程度の柵すらなくなったら、今とは比べ物にならないほどの被害を受けてしまう。
「だーいじょうぶ。むしろその方が楽なくらいよ」
「……分かった。ミズダ子に任せる」
「おっけー、それじゃあ皆、村から脱出するから集まってー!」
「ニャ?」
「どうするつもりニャ?」
ミズダ子に呼ばれ皆が集まってくる。
「そぉーれ!」
「「「ニャニャニャ!?」」」
全員が一固まりになったところで、ミズダ子が両手を救い上げるように私達を持ち上げる。
「お、おおおっ!?」
そして両手を真上に持ち上げると、私達の体は周囲の木々よりも高い位置へと運ばれる。
「「「ニャーッ!?」」」
突然高いところに運ばれて、ネッコ族達が悲鳴を上げる。
「「「ニャー! 水ニャーッ!!」」」
違った、ミズダ子の巨大な手に沈み込んだ事でパニックになってた。
うん、今の私達って、ミズダ子の両手に首だけ出して沈んでる状態なんだよね。
多分私達が落ちたりしないようにシートベルトみたいなノリで包んでくれてるんだと思う。
なんていうか感触も水というよりゼリーみたいな感じだし。
でもその事を知らないネッコ族にとっては、水の中で溺れてるような感覚になる訳で、そりゃあ悲鳴もあげるというもの。
「それじゃあ逃げるわよー!」
「お、おー……」
「「「ヒニャーッ!!」」」
た、耐えてくれ、ネッコ族の皆ぁ。
◆
村を出た私達は、魔物から逃げるべく移動を続けていた。
幸いどんな荒れた地形も水で出来たミズダ子にとっては障害物になる事はなく、私達は魔物に追いつかれる事無く逃げる事が出来ている。
そうなると他のことを考える余裕も出来てくるわけで。
「あの魔物達、何でニャット達の討伐隊の方に行かなかったんだろう?」
ニャット達は魔物達のやって来る方角に向かい、周囲に被害が出ない場所で魔物寄せを使って魔物の討伐と原因の究明をしている筈。
なのにこの魔物達はニャット達を無視してネッコ族の村を襲ってきた。
「多分だけど、あいつ等の向かった方向とは反対側に居た魔物達じゃないかしら」
あー、単純に行動範囲の問題かぁ。
確かに魔物が来る方向があっても、もうこのあたりに来ていた魔物はその辺を彷徨ってただろうしね。
「まぁそれにしても妙に多かったのは気になるけど。もしかして魔物が気になるものでもこの辺りにあるのかしら?」
「魔物が気になるもの? そういうのって分かるの?」
「わかんなーい。だって私精霊だもん」
うん、まぁそうだよ。分かってたらもっと早く教えてくれたよね。
となると、手詰まりか。
「まぁ単なる偶然かもしれないし、今は気にしなくていいんじゃない?」
気軽に流してくれるなぁ。
「ニャ、ニャ……足がつかニャいのニャ……」
「ひんひん、毛がぺしょぺしょするのニャァ……」
っと、いけない、そろそろネッコ族達が限界っぽい。
「どこかに休める場所ないかな」
「んー、そうねぇ。あっ、あそこなら魔物も居ないし休めそうよ」
そう言うとミズダ子は進路を変える。
そして少し進むと、私達は奇妙な場所へとやってきた。
「これ……廃墟?」
そこにあったのは人気のない廃墟だった。
でも、廃墟にしては何かおかしいような……?
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