第134話 精霊さんのアピールタイム?

「決めた! 私、貴女に付いていくね!!」


 はい、大事な事なので二度言われました。どうやら聞き間違いではなかったようです。

 なんとオアシスの残念精霊は私についてくると言い出しました。


「ええと、この町のオアシスは守らなくていいの?」


「さっきも言ったけど、契約を破棄してきたのは向こうだし良いんじゃない?」


「でもこの町に住んでる人は凄く困ると思うよ?」


「じゃあ全部綺麗さっぱり洗い流す?」


「マジでやめたげて」


 いきなりやべー解決法? を提案されたので慌てて止める。

 うーむ、これが人ならざる存在との感覚のズレってヤツなのか。


「んー、じゃあやっぱ放置でいいんじゃない? 人間だってご飯もお金も無しで働くのはいやなんでしょ?」


「それはまぁ、そうだけど……」


 そう言われるとぐうの音も出ない。

 どのみち精霊本人がもうやる気をなくしてるんだから、よそ者の私がどうこう言う権利はない……んだけど、自分が原因で町が壊滅するのは困る!! マジで!


 万が一この事が誰かに知られたら、私が町を滅ぼした犯人って事になりかねない!

 最悪逆恨みされる危険すらある。なので……


「貴女がオアシスの管理を辞めるのは分かったけど、それで私についてこられたら、私の所為でオアシスが枯れたって勘違いされかねないので、付いてこられたら困ります」


 素直にお断りすることにしました。

 相手は人間じゃないし、オブラートに包んだ物言いは勘違いを生んで逆効果になりかねない。

 だからハッキリ言うべきだろう。


「駄目?」


「私が困るので別の料理が上手な人について行ってください」


「うーん、そういう問題じゃないのよねぇ。さっきも言ったけど、他の食材じゃ物足りないのよ。私も魔力を補充する為に、町一番のお店や貴族のお抱え料理人の料理とか、外から入ってきた高級食材とかも食べてみたんだけどどれもしっくりこなかったし」


「盗み食いしまくりじゃん!!」


 モラルー! 精霊のモラルはどこですかーっ!!


「碌でもねぇ汚水精霊だニャ」


「何よこのドラ猫! 属性の合わない土地で力を維持するのって大変なのよ! 私は水の大精霊なんだから、砂漠はホント大変なんだからね!」


「だったらさっさとよその土地に行けばいいのニャ。地下水脈を使えば好きな場所に行けるのニャ」


 そんなニャットの言葉に私はあれ? と違和感を覚える。


「そういえば地下水脈で繋がってるのなら、この精霊さんがオアシスを維持する必要ないんじゃないの? 繋がったらあとは自然と湧き出してくるもんでしょ水源って?」


 けれと精霊はそうではないと首を横に振る。


「それは違うわ。水脈と繋げただけじゃ水に満ちた土地にはならないのよ」


 え? そうなの?


「この土地は風と火の精霊の力が強くて、土と水の精霊の力が弱いのよ。だから水の精霊達は風と火の精霊に怯えて地上までやってこれないの。だから途中で地下に帰っちゃって、ここまで水が届かないのよ」


 まじかー、異世界の水脈って水圧とか水量とかじゃなく、精霊同士の縄張り問題が重要だったんだね。うーん、ファンタジー。


「だからこの土地に水を引き込もうと思うと、人工的にどこかの大河や上流の川から支流を作って、強引に大量の水の精霊を呼び込んで水の精霊の縄張りを作るか、私のような大精霊を呼んでこれまた強引に水を呼び込むしかないのよ」


 成程、河川工事ってただ水路を作るだけじゃなく、水の精霊を沢山連れてくる役目もあったんだね。うーん、ファンタジー(2度目)。


「という訳で私が帰ったら水の精霊の縄張りは徐々に小さくなっていって、最期には無くなっちゃうのよ」


 結局、この町の水源は枯れる運命にあるみたいだ。

 異世界の水事情って怖いなぁ。


「でもせっかく自由になったんだからすぐ帰っちゃ勿体ないじゃない! 美味しいご飯たーべーたーいー!」


 そして張本人のこのフリーダムっぷりよ。

 っていうか、最初に見た時と口調全然変わってるし。こっちが本性か。


「久々の自由を満喫したいから、貴女のご飯食べさせて! 食べさせてくれたらお礼に精霊石をあげるから!」


「精霊石?」


 と、残念精霊の口から気になる言葉が出てきた。


「知らないの? 私達精霊の力が宿った石の事よ」


 精霊の力が宿った石!? なんか凄くファンタジー感あるんですけど!?


「それってさっきの魔石の事?」



「ううん、あれは私の力が染みついた魔石。精霊石は別のものよ」


 なんか違うっぽい。


「それって具体的にはどんなことが出来るの?」


「さぁ」


 ……はい? さぁって、自分の力が宿った石なんでしょ?


「よくわかんないけど、昔は人間達も喜んでたし、良い物なんじゃないの?」


 ふんわりし過ぎぃー!


「精霊石は魔法使いや錬金術師が魔法を使う際の補助に使うものニャ」


 そこにフォローをくれたのはニャットだった。


「特定の属性の魔法の威力を上げたり、錬金アイテムに仕込む事で、マジックアイテムのように使う事が出来るのニャ。ちなみに精霊魔石はその上位版ニャ」


「おおー! 凄いじゃん! それならマジックアイテムをさらに強化出来ちゃうんじゃないの!? あ、でも今のマジックアイテムって性能低いんだっけ。じゃあ精霊石を使ってもあんま意味ない感じ?」


「そうでもニャいのニャ。精霊石を使ったマジックアイテムの性能は精霊石に込められた力に依存するのニャ。マジックアイテム本体は力を引き出す事と、力の指向性を定める為の触媒でしかニャいのニャ」


 へぇ、それじゃあマジックアイテム本体が同じ物でも、精霊石の性能が髙ければ高い程強くなるんだ。


「じゃあ今の時代のマジックアイテムでも、強いマジックアイテムになるんだね! あれ? でもそれなら何で皆精霊石でマジックアイテムを作らないの?」


 ここで私は錬金術師が精霊石を使ったマジックアイテムを作らない事に違和感を覚える。

 少なくとも今まで聞いた限りでは、現代のマジックアイテムは性能が低く使い物にならないという話しか知らない。


 だから精霊石を使ったマジックアイテムの性能が高いのなら、お店の人も精霊石のマジックアイテムなら性能が高いですよって勧めてくれただろうし、錬金術師達も精霊石を使ったマジックアイテムの開発に舵を切る筈だ。


「精霊石のマジックアイテムはかなり昔に廃れたのニャ。精霊石は、石に込められた魔力を使い切ったらただの石に戻るのニャ」


「つまり使い捨て?」


「そういう事ニャ。対して一般のマジックアイテムは魔力さえあれば何発でも打ち放題ニャ。気まぐれな精霊が力を込めた精霊石がないと使えないマジックアイテムよりも、休めば回復する魔力だけで動くマジックアイテムの方が使い勝手が良かったのニャ」


 そう言われると確かに普通のマジックアイテムの方が高性能、というか利便性が高い。

 使い捨ての乾電池と充電器式じゃ、どっちがコストパフォーマンスが良いかって話だよね。


「ニャる程ねぇ。でも今なら精霊石の方が有用なんだし、研究を兼ねて作る人は居そうだけど」


「ニャが甘いニャ。それは単純に精霊との交流手段が失われた所為だニャ」


「精霊との交流手段?」


 何か他にも問題があった訳?


「昔は精霊の力を借りる精霊魔法使いが人族にも多くいたのニャ。けれど安定して使える魔法やマジックアイテムの技術が発達した事で、気まぐれな精霊の力を借りる精霊魔法はあっという間に廃れてしまったのニャ。結果精霊魔法を使い続けたのは、精霊が好きな変わり者か、精霊に近しいエルフくらいになったのニャ」


 成程、この世界の人間は便利な力を得た事で、精霊達との関わり方を自分から忘れちゃったんだね。


「精霊を召喚する魔法を失伝したのもマズかったのニャ。精霊に関する技術が時代遅れになった事で、それらの知識の多くは無用のものとして廃棄されたのニャ。その結果、精霊に精霊石を作ってもらう事も出来なくニャって、今じゃ精霊が気まぐれに作って放置したものを偶然見つけるくらいしか、精霊石を手に入れる手段はニャくなってしまったのニャ」


 結局、人間の自業自得で精霊石は手に入らなくなっちゃったんだね。

 

「という訳で、どう? 精霊石欲しくない? 私にご飯作ってくれるなら、精霊石作ってあげるわよ」


 むぅ、欲しいか欲しくないかで言えば、すっごい欲しい。

 だって凄くファンタジー感あるアイテムなんだもん!

 専門家の人に頼めば色々面白いもの作ってくれそうだし、私の合成スキルと合わせても凄い物を作れそう!!


「でもさ、精霊石って作るの大変だったりしないの?」


「ううん、全然。そこら辺の石ころにふんって力を込めるだけで出来るわよ」


 滅茶苦茶お手軽に出来るみたいです。


「まぁ大量の力を込めるなら、宝石とか魔石とか、込める石もそれなりに頑丈な物が必要になるけどね」


 成程、凄い精霊石が欲しいなら、入れ物になる石も重要なのか……って、それ、私の合成スキルを使えば最高の入れ物作り放題なんじゃないの!?

 やばい、また一つ私のスキルのヤバイ使い道が見つかってしまった……


 こうなると残念精霊、いや、精霊石を作ってくれるなら残念扱いは失礼か。

 水の大精霊さんには是非ともお友達になって頂きたい所存。

 え? 調子良すぎ? 精霊石に目が眩んだ?

 ええそれが何か? 私は商人なんだから、貴重な品が手に入るチャンスは逃す訳にはいかないでしょ!


 それに一方的に貰う訳じゃなくて、私の作ったご飯……というか合成した食材と引き換えなので、ある意味価値としてはつり合いが取れていると思う。多分。


 となると後はオアシスの問題なんだよねぇ。

 

「うん、一旦状況を纏めようか」


 元々水の大精霊はこの地の人達と契約してオアシスを維持していた。

 けれど水の大精霊と契約した人達は魔力を捧げる事を止めちゃった。

 だから水の大精霊はオアシスの管理を辞める事にした。

 どのみち魔力が無くなるから、ここに居続ける事も出来ないしその気もない。

 で、私が合成した食材は精霊的に凄く栄養豊富らしいから、私と一緒に行きたい。

 ご飯を作ってくれたら貴重な精霊石を作ってくれる。


 ここまでなら商人である私にとってメリットも大きいんだよね。

 問題はオアシスを枯らした犯人と勘違いされて犯罪者扱いされかねない事。

 侯爵家を飛び出した私には後ろ盾がないから、そこが怖い。


「あ、いや、ここは外国だから、侯爵家の権力も期待できないか」


 まったく期待できない訳じゃないけど、それでも頼るのは難しいよね。

 って、もう家を出たからそれ以前の話か。


 あとはアレだね。水の大精霊本人が私についてくる気満々って事なんだよね。

 

「となると解決方法は……」


 うん、もうこれしかないね。


「とりあえずこの国を出るまで隠れててくれるならいいよ!」


 どうせ勝手についてくるなら、バレないようにすればオッケーだよね!


「わーい! やったー! うん、約束する! 絶対バレない様にするから!」


 私の許可が出た事で、水の大精霊がピョンピョンと飛び跳ねて大喜びする。


「……絶対トラブルが起きる予感しかしニャいにゃ……」


 おいこら止めろニャットさん。そういう事言われると不安になるでしょうがー!

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