第122話 衝撃の告白
解体師と薬師達を酷……大量発注した事で、カクラム病の薬は無事納品された。
後はマーロックさんから薬の代金を受け取るだけ、という感じの所でノーマさんが宿にやってきた。
「おはようございますカコ様」
「えっと、また何かありましたか?」
ノーマさんが来たという事は、ティキルタちゃん関係だよね。
「いえ、今回はお嬢様ではなく、リルク様の件です」
「……あっ」
そうだった。ロスト君にリルクちゃんの為の薬を渡したんだった。
「それで、どうでしたか?」
「それが……」
しかし何故かノーマさんは悲しそうな顔をして目を伏せる。
「え!? もしかして効かなかったんですか!?」
「……ここで話すのは憚られますので、とにかくリルク様の下へ」
ええ!? どういう事!? 確かに私が作って貰ったのはカクラム病の薬だよ!?
それともリルクちゃんが罹っていた病気はカクラム病じゃなかったの!?
……ま、まさか、私の合成スキルが失敗してたとか!?
いやいやいやいや、それヤバくない!? もしそうならこの世界での私の人生設計が完璧に破綻しちゃうんですけど!?
とにかく状況を確認しない事には話は進まない。
私達はノーマさんに連れられて馬車に乗り込み、エルトランザ家のお屋敷へと向かった。
◆
「リルク様はこちらです」
「リルクちゃん大丈夫!?」
部屋に入った私は、すぐにリルクちゃんの姿を探す。
「え?」
するとそこにはキョトンとした表情でベッドに座るリルクちゃんの姿があった。
「カコお姉ちゃん、どうしたの?」
一見すると元気そうだけど、下町で見たリルクちゃんも発作の起きていない時はこれと言って問題はなさそうだったから、油断は出来ない。
「薬、効果なかったの!?」
「え?」
リルクちゃんは不思議そうな顔で首を傾げる。
うん、可愛いんだけど今はそうじゃない。
「お、おい、どうしたんだよ血相変えて」
話しかけてきたのはリルクちゃんの傍にいたロスト君だ。
うん、今気づいた。
「ノーマさんから薬が効かなかったって聞いて!」
「え? いや、効いたぞ。ちゃんと」
「……え?」
は? 効いた? え? でもノーマさんは……
私は部屋の入り口で待機していたノーマさんにどういう事だと視線で問いかける。
「……」
ノーマさんが真剣な顔で一歩前に出る。
「なーんちゃって。実はちゃんと効果がありました」
「………………は?」
え? 今なんて?
「どどどどういうことですか!?」
「至極単純な事です。薬の効果が出たのでカコ様にもリルク様を見て頂こうと思ったのですが、正直カコ様はお屋敷に来るのを面ど……奥ゆかしいので辞退されると判断しました」
今面倒くさがるって言おうとしただろーっ!
「ですので、カコ様が自主的についてきてくださるように仕向けた次第です。
「だからって嘘付くのはズルくない!?」
「いえ、嘘はついていませんよ。嘘は」
「は?」
私は宿にやってきたノーマさんの言葉を思い出す。
『今回はお嬢様ではなく、リルク様の件です』
『それが……』
『ここで話すのは憚られますので、とにかくリルク様の下へ』
「……言ってない」
「はい、症状については何も言っておりません」
だ、騙されたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
やりおったーこのメイド! 確かにはっきりとは言わなかったけどさぁ!
こんなん完全に詐欺じゃん!!
「という訳でリルク様、カコ様がお祝いに来てくださいました」
「そうなのカコお姉ちゃん?」
「う?」
キラキラとした目でこちらを見てくるリルクちゃんを盾にされ、私はノーマさんを責め辛い空気になる。
「う、うん。そうだよー。元気になってよかったねー」
「えへへ、ありがとう」
にへーっとちょっと恥ずかしそうに笑みを浮かべるリルクちゃんの姿にキュンキュンしてしまう。
うん、この子の笑顔を守れたのは、まぁ悪い気分じゃないかな。
だがメイドの方は許さん。
「あのさ……」
と、決意を新たにしている私に、ロストくんが遠慮がちな様子で声をかけてくる。
「あ、ありがとな。お前のおかげで妹を助ける事が出来たよ」
おお、何か素直だ。
リルクちゃんの件が解決したから、気を張らなくて良くなったからかな?
「本当にありがとう。薬の代金は必ず払うからさ!」
「気にしなくていいって。前にも言ったけどちゃんと薬代は貰っているからね」
と、私は振り返ると、扉の陰から中を覗いていたティキルタちゃんに視線を送る。
「ティキルタちゃんもこっちにきたら?」
「ひゃう!? 何で分かったんですか!?」
いや、何でも何も、そんだけ頭が出てりゃ誰だって気付くって。
「あっ、チキルタお姉ちゃん!」
「チキルタじゃなくてティキルタですー!」
ツッコミの勢いで今度こそ姿を見せてしまったティキルタちゃんは、観念したように部屋に入って来る。
「はぁ……リルク様、快癒おめでとうございます。お祝いいたしますわ」
「ありがとうチ……ティキルタお姉ちゃん!」
「ふふ、どういたしまして」
楚々とした雰囲気でリルクちゃんの言葉を受け取るめるティキルタちゃん。
しかしその目はチラチラとロスト君を見ていた。
うーん、この分かりやすさ。
「お嬢様、ロスト様を見ているのがバレバレですよ?」
「ちょっ!? ノーマ!?」
そこにノーマさんの容赦ないフレンドリーファイアが直撃する。
この人身内でも容赦ないな。
「あ、あのさ……」
と、そこでロスト君がティキルタちゃんに向かって話しかける。
「ひゃい!?」
「あらまぁ」
あからさまに動揺するティキルタちゃんと、それを面白そうに眺めるノーマさん。
「アンタに言いたい事があったんだ」
「ふえっ!?」
ううん、ティキルタちゃんが完全に挙動不審です。
「あれの事とか、リルクの事とか、本当に世話になった」
と、ロスト君は部屋の片隅に立てかけられた盾とリルクちゃんに視線を送る。
「べ、別にそれは、わ、私が勝手にゅい……」
「本当にさ、マーロックのおっさんの言う通りだったよ。俺が思っているよりも、俺を気にしてくれる奴は居たんだなって」
おお、ロスト君が謙虚になってる!
「だからさ、俺は、俺を、俺達を助けてくれたアンタに本当に感謝してるんだ!」
「は、はわわわわっ!?」
な、なんかロスト君の様子がおかしいような。
顔がうっすらと赤くなって、その目は妙に熱っぽい。
えっと、なんかつい最近身近でこんな目をする人達を見た事があるような気が……
「だから、言いたいんだ。これを逃したらもう二度とアンタに会えないかもしれないから!」
え!? ちょっと待って!? これってもしかしてアレ!? アレがくるの!?
「ひゃ、ひゃい!!」
「嘘でしょう!? まさか!?」
ここまで来たら何を言われるか分からないティキルタちゃんじゃない。彼女は顔を真っ赤にして噛みながら返事をする。
同時にノーマさんはありえないと目を丸くして驚いていた。
ホントだよ。この二人に接点なんて殆ど無かったでしょ!?
「好きだ! 俺と結婚してくれ!!」
ロスト君のストレート過ぎるプロポーズが炸裂した。
ティキルタちゃんの横に居るノーマさんに。
「「「…………え?」」」
ん? 待って、ノーマさん?
「「「ええ~~~~~~~っ!?」」」
「わ、私ですか!?」
「ええっ!? ノーマさん!? 何で!?」
この状況でノーマさんに告白!? 何がどうなってそうなったの!?
「わーっ! ノーマお姉ちゃんとお兄ちゃん結婚するの!?」
「し、しません! な、何故私なのですか!?」
流石にこんな状況ではノーマさんも普段のクールな雰囲気を維持する事は出来なかったようで、珍しく動揺しているのが伝わってくる。
「何故って全部だよ。俺にあの盾をくれた事や発作で苦しんでいた妹の面倒を見てくれた事全部だ」
「そ、それはお嬢様の命令だったからですよ。私が自主的にしたわけではありません」
「けどあの盾さ、受け取った時はお嬢様からの礼って言ってたけど、本当はアンタが自分の金で買ってくれたんだろ?」
「は? 何故そんな事になるのです!? あれは正真正銘お嬢様からの贈り物ですよ!?」
まさかの超解釈に私達は頭が混乱してくる。何でそんな解釈になるの!?
「それこそ嘘だろ。あの盾、金持ちのお嬢様が送ってくるような物にはとても見えねぇよ。命を助けられた金持ちの礼ってんなら、もっとギラギラした派手で高そうなものにすんだろ」
「「うっ」」
ぐうの音も出ない正論。超解釈どころか寧ろ当然の解釈でした。
それじゃ普段使いにマズいからってやった気遣いが(ティキルタちゃん個人にとって)裏目に!!
というか、よくよく考えると、ティキイルタちゃんとロスト君との間に接点って殆どないんだよな。
大体その間にノーマさんか私が居た訳だし……そりゃあ矢印の方向も自然とそうなっちゃうよねぇ。
「妹の件だって、最初はアンタのベッドを使わせてくれてたんだってな。リルクがさ、母ちゃんみたいで嬉しいって言ってたんだぜ」
「うっ……」
そこは完全にノーマさんの自主的な行動だったみたいで、気まずそうに視線を逸らすノーマさん。
「本当にアンタのお陰で目が覚めたよ。アンタが、俺を叱ってくれたお陰でさ」
叱る? 私のいない間に何かあったの?
「薬を飲んでリルクの病状が良くなった後でアンタ俺に言ったよな。リルクが寂しがっていたって。薬の材料を探す事に拘るあまり、リルクをないがしろにし過ぎだって。その通りだったよ。リルクが発作を起こした時にアンタ達が来てなかったら、リルクは死んでいたかもしれなかったんだ」
それは、私達がリルクちゃんの病気を知った時の事かな。
「俺が薬を持ち帰っても、その時にリルクが死んでいたら何の意味もない。当たり前の事だよな」
へぇ、ノーマさんとロスト君、そんな会話をしてたんだ。
「それにあの時も、俺の武器の使い方がよくないって言って、アンタ指導してくれたよな」
んん? 何それ、完全に知らないんですけどその話題。
「いきなり攻撃されてビビったけど、あれのお陰でマーロックのオッサン達に助けられるんで、ラマトロの群れ相手に生き延びる事が出来たよ。本当に感謝してるんだ」
どうやらノーマさん、知らない所でロスト君に色々と接触していたっぽい。
「それにあの時だって……」
と、ロスト君は私が見ていない間にあったノーマさんとの思い出を語りだす。
ううん、何ていうかかなり親身過ぎませんかね?
こうなると以前森でロスト君を見守っていたのも、本当はティキルタちゃんの命令とかじゃなく、自主的に彼と、ひいては何かあったら一人取り残されるリルクちゃんが心配だったからなんじゃ。
「そ、それは貴方には幼い妹さんが居るたからで……」
つまり、小さい子が居るから放っておくことも出来ず、ついつい世話を焼いてしまったと?
いやー、これは弁解しようもありませんわ。
そこまで親身になられたら、青少年も勘違いしちゃいますよイチコロですよ?
もうロスト君、年上の女の魅力にメロメロじゃないですかー。
ん? いや待てよ。と言う事は同じ年上の女である私も……
「おニャーの場合は見た目相応の票かニャから空しい期待は止めておくのニャ」
「ニャんだとーっ!!」
「ニャが甘いのニャ」
などといつもの漫才をやっている間にもロスト君のアピールは続いていた。
「俺をどうこう思ってやってたわけじゃないのは知ってる。あくまでお嬢様の命令があったからだって。でも、アレはそれだけじゃないだよ。ただの命令ならあそこまで親身になってくれるとは思えねぇ。アンタが、凄ぇ良い女だから、あんなに優しいんだって分かるんだ」
だから、とロスト君はノーマさんの前で膝をつく。
「今の俺は税も支払えないような下層民だが必ず冒険者としてのし上がって本当の意味でこの町の住民になる! その時に、もう一度アンタに告白する。俺と結婚してくれと!!」
そして再びのプロポーズ!
ど、どう応えるのノーマさん!?
「~~っ!」
対するノーマさんの顔は真っ赤だった。
もう隠しようもない程に真っ赤だ。
これで何とも感じてませんよというのは無理がある程に。
おいおいおいおい、こりゃ完全に脈ありですよ。
あれですか? 仕事一筋だったから色恋にかまける暇も無くて異性への免疫からっきしとかいう感じで?
出来る女が恋愛ではポンコツとか、破壊力強すぎない!?
「……だ、だから私はお嬢様の命令で貴方達に接触しただけなんです! お、お嬢様、お嬢様も何とか仰ってください!」
ここでティキルタちゃんに助けを求めるノーマさん。
でもここでティキルタちゃんに話を振るのはマズくない?
なんかさっきから無言だし、もしかして怒りのあまり声も出ないとか? この泥棒猫がーっ!! とかいう展開になったりしない!? そしたら修羅場まっしぐらですよ!?
「……」
いやホントに反応無いな。静かすぎて怖いくらいなんですけど?
「あの娘なら気絶してるニャ」
「え?」
ニャットの言葉にティキルタちゃんを見れば、そこには立ったまま白目を剥いているティキルタちゃんの姿があった。
ええ、貴族のご令嬢の欠片も無い姿です。
「ティ、ティキルタちゃーんっっ!!」
「お嬢様ーっ!!」
その後、ティキルタちゃんがショックでぶっ倒れた事によって部屋は騒然となり、もはやプロポーズどころではなくなってしまったのだった。
うん、強く生きろティキルタちゃん!
これ以上はもー知らん!
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