第64話 人魚の島で合成を

  人魚達を治療するポーションを作成する為、私は彼等が郷と呼ぶ洞窟の外へと出る。

武器を装備してから海岸沿いに移動していくと、川を発見したのでそこを伝って島の奥へと進んでゆく。

 ロアンさんにもなるべく水辺に居ろって言われたしね。


「と言う訳で森の入り口までやって来たわけだけど、まずは何から合成したもんかな」


 何しろ東部とは植物の植生が大きく違うので、見知らぬ植物だらけで選択肢が多すぎるのだ。


「といっても、今はやれるだけの事をやらないとね」


 私は採取用の革手袋をはめると、念のため泥沼の魔剣を鞘から傍に置いておく。

 万が一魔物に襲われた時に、すぐに剣を構える為だ。


「まずはいかにも薬草っぽい草同士を合成だ!」


 私はそれっぽい草を二本摘むと、合成を行う。


「そして鑑定!」


『少し質の良いサウスサーク草:南国に生える雑草。潮風に強い』


「久しぶりの雑草かい!」


 私は思いっきり雑草を地面にたたきつけた。

 くっ、まさか雑草に南国verがあるなんて!!


「ええい、次々!!」


 強引に気を取り直した私は、手当たり次第に見つけた草を合成していく。


『質の良いフーリ草:海鳥が好んで食べる草。特に薬効はない』


『質の良いラグス草:艶が良く細長い葉は子供達が引っ張って遊ぶのに最適』


「雑草パラダイスかっ!!」


 雑草の種類が多いなこの島!!


「くっ、何か他に素材はないのか!」


 ふと私は近くの木の根元に生えて来たキノコが目に留まった。

 そのキノコはどこか私を誘っているような気がする。

 まるで摘んでよー、摘んでよーと言っているかのようだ。


「って駄目駄目! キノコは危険なんだから!」


 そうだ、キノコは素人が採取するには危険すぎる食材だ。

 食用キノコと似たような外見の毒キノコも存在するらしいし、何より触れるだけで危険なキノコもあるっていうじゃない。


「と言う訳で君は採取しません」


 すると何故か茸がチッと舌打ちした気がした。気のせいだよね?


 なお後日私はこのキノコがイターゼロブッコス茸という凄まじい猛毒茸であり、見た者を誘う不思議な性質がある恐ろしい茸だったと知って驚愕する事になる。

 うん、やっぱ茸はヤバいね!


 とまぁそれは後の話。私は茸以外の素材の探索を続ける。


「なんだかんだ言って採取するなら草、それに葉っぱと木の実かなぁ」


 私はまだまだ採取していない草を採取しては合成と鑑定を繰り返す。

 けれどその結果は大した効果もない薬草未満のシロモノばかりだった。

どれも最高品質になるまで合成してギリギリ薬草未満かなって感じだ。

試しに鑑定した草同士を合成してみたんだけど……


『イツバ草:天ぷらにするとおいしい』


『タワーノフキ:独特の苦みが美味しい。天ぷらにもあう』


はい、山菜パラダイスになりました。

 絶妙に役に立たない!! 食べるものが無いときは助かるんだけどね!!

 とりあえずいくつか纏めて合成したら魔法の袋に収納。

 食材に罪はないので帰ったらティーアに料理して貰おう。


「木の実も少ないし、葉っぱもこれといったものはないねぇ」


 と言うかこの体だと木に登るのが大変だよ!


 さて、どうしたものか。

 このまま水辺付近で探すか、水辺から離れて奥の方に行ってみるか。

 魔剣があるから戦えない事はないけど、何が居るか分からない以上なるべく戦闘は避けたいところかな。


「まずは人魚達に助けを求められる水辺での探索を続けてみよう。移動すれば植物の種類も変わるかもしれないし」


 と言う事で水辺での捜索を再開。

 すると川が二手に分かれていた。

と言うより上流から流れてきた水がここで分岐してる感じだ。


「ふーむ、上流に行くか別の支流の河口に向かうか」


 別の支流だとこれまで進んできた川と同じ気がするんだよね。

となると上流の方が新しい薬草に出会える可能性は高い。

とはいえ、あまり海や人魚の郷から離れると助けが来るのが遅くなる危険も高くなるんだよね。


「あと水源に近い上流って水深が浅い所もあるしね」


 これはまぁ私が前世で山の近くにあるお婆ちゃん家に行った時に経験した光景からくる感想なんだけどね。

人間が河川工事をしていない山中の自然の川って深さが均一じゃなくて突然深くなったり浅くなったりしてるんだよね。


だからそれに気づかずにうっかり山の中に入って行ったら助けを呼んでも誰も来なかったとなりかねない。


「と言う訳でまずは支流に向かおう。もし何も無くても戻るか海岸沿いに移動すれば郷に戻れるし、最初は安全策を取ろう」


 と言う訳で私は支流を下ることにした。


 ◆


「んー、やっぱ代わり映えしないなぁ」


 支流を下って来た私だったけど、やっぱりというか当然と言うべきか、これと言って変わった薬草の姿はなかった。

 なお雑草の種類は増えた。おにょれ、何でこんなに雑草の種類が豊富なんだこの島は。


「そして海が見えてきましたよっと」


海が見えてくると、川に魚の数が増えてきた気がする。

 中には明らかに海の魚っぽいのも交じってるんですけど。


「確か汽水域って言うんだっけ? 海水と真水が混ざってて海の魚も入ってこれる場所の筈」


 ニュースで川の奥深くにまでサメが入って来たってやってたなぁ。


「ん? 何だろアレ?」


 ふと川の中ほどに赤茶色の何かが見える。

 それは細く、海の方に繋がっている……というか海に行くほど広がっている?


「あっ、違う。海から入って来てるんだ!」


まるで錆びのような赤茶けた色をしたその液体は、河口の途中で真水と押し合っていた。


「何だろあれ? 赤潮ってヤツ?」


 確か海には赤潮とか黒潮とかいうのがあるんだよね。プランクトンだったかが原因の奴。

 初めて見るけどあれがその赤潮なのかな?


「自然の神秘を見たわー……おっと、いけない。薬草探し薬草探し」


 再び薬草探しを始めた私は、ふとおかしな色の薬草を見つけた。


「んんー? サウスサーク草に似てるけど色が違うなぁ」


 とりあえず二本摘んで合成してみよう。そして鑑定だ。


『やや汚染されたサクスサーク草:廃液の毒素で汚染された雑草。食用には向かない』


「汚染された草!?」


 ええ!? どういうこと!? あっ、もしかして川に漂ってるあの赤いのって、赤潮じゃなくて廃液ってヤツ!?


 あれがロアンさんの言っていた毒液って奴なんだね。


「あれを採取出来たら色々調査出来るかもしれないんだけどなぁ……」


 でも人魚達も具合を悪くする危ない液体だし、川に入って採取するのもちょっと怖いか。


「うーん……あっ!」


 そこで私はさっき鑑定した汚染されたサウスサーク草を思い出す。


「これを沢山合成すれば、最高濃度になったサウスサーク草が作れるんじゃないかな?」


 私はさっそく変色したサウスサーク草を集めてくる。


「良し、一括合成!!」


 そして一気に纏めて合成してから鑑定を行う。


『最高濃度に汚染されたサウスサーク草:ロストポーションの失敗作の廃液に汚染されたサウスサーク草。人体に害がある』


「……ふぁ!?」


 ロストポーションの失敗作!? どどどどういう事!?


「人魚達が具合を悪くしたってロストポーションの失敗作が原因だったの!?」


 うおお、一体どういう事なんですかねコレ!? っていうか何海に排水垂れ流してんの!?


「うむむ、これはかなりマズいよね」


 いやマズい事に変わりはないんだけど、なまじ自分の知ってるモノが関係していると分かるとなんというか謎の焦りを覚える。

 もしかしてこれ、私がロストポーションをメイテナお義姉様達に提供したのが原因とかじゃないよね?


「さて、原因は判明したよ。あとは……」


 汚染されたサウスサーク草を見つめながら私はある事を思う。


「これからどうしよう」


 ……うん、そうなんだ。原因が分かったのは良いけど、私は錬金術師でもなければお医者さんでもない。

 つまり解毒剤の作り方がサッパリ分かんないのです!


「うーん、手持ちの解毒剤とこの草を合成してみるとか?」


 つっても、今持ってるのは普通のポーションと酔い止めの薬、あとは南部特有の薬草がいくつかくらいなんだよね。

 そしてこの島で発見した雑草の皆さんか。


「よし、毒からその毒の解毒剤を作るもんだってよく漫画とかで見るし、この汚染されたサウスサーク草を色んな草と合成してみよう! まずはフーリ草から!」


『最高濃度に汚染されたイツバ草:絶対食べるな』


「つ、次はラグス草だ!」


『最高濃度に汚染されたタワーノフキ:独特の苦みが天国に登る。死にたくなければ食べるな』


「あかん……」


 はい駄目でした!! 


「これを合成させても駄目なんだろうなぁ、とりあえず合成」


『最高濃度に汚染されたマイゼン:複数の雑草、山菜に蓄積された最高濃度の毒素が奇跡のマリアージュを起こしたデス山菜。そのまま食べると命に関わるが、抽出した汁を希釈すると解毒薬の材料になる。なお搾りカスは焼却処分せよ。絶対に煙と灰は吸うな』


「……おおっ!?」


 まさかのミラクル!! どうやら色んなものと合成を繰り返したのが功を奏したらしい!!


「そっかー、合成を繰り返すと全く別の物になるだけじゃなく、合成に使った素材の影響も受けるんだね」


 これは新しい発見だよ!! モノがモノだけに素直に喜び辛いけど。


「よし、それじゃあさっそく解毒剤の材料を作る為に希釈するぞー!」


 私は汚染されたマイゼンを手に取ると、さっそく汁を絞って希釈する事に……


「って、希釈する為の水をどうしよう? なるべく綺麗な水が良いよね?」


 となるとここの川の水をそのまま使うのは良くないよね。

 海水が混ざった汽水域の水だし、なにより汚染水が混ざってる。

 紅くなっていない部分でも汚染水が混ざっていると思った方が良いだろう。


「なら上流の水を、出来れば水源にある湧水を使おう!」


 私は汚染されたマイゼンを魔法の袋に入れると、武器を手に上流に向かう。

 念のため川の水深も注意しつつ川をさかのぼっていくと、一時間もかからずに水源にたどり着いた。


「成る程、岩肌から溢れた水が小さな滝になってるんだね」


 それは滝と言うにはささやかな大きさだったけど、間違いなく滝だ。


「ええと、何か水をくむのに使えそうな入れ物はっと……あったあった」


 私は売り物を入れる為の容器を取りだすと、それを滝の水で綺麗に洗い流す。

 その次は近くにあったなるべく平らで大きい石と片手で持てるサイズの小さな石を綺麗に洗う。


「よし、準備完了!!」


 そしたら汚染されたマイゼンを取り出し、洗った平らな石の上に置く。

 そしてもう一つの小さな石でマイゼンをすり潰してゆく。

 あとはすり潰した石に付着した汁を容器に一滴垂らし、中の水を鑑定。


『非常に高濃度に汚染されたマイゼンの汁:この一杯で城壁崩しと呼ばれる強靭な魔物を昏倒させられる猛毒。マズイ、もう一杯飲んだら死ぬ』


「おおう、たった一滴でも駄目だったかー」


 私は魔法の袋からもう一つ容器を取り出すと、同じように洗ってから湧水を組み、そこに希釈した水をそっと少量注ぐ。


「さて、今度はどうかな? 鑑定!!」


『汚染されたマイゼンの汁:大変体に悪い。飲むな。解毒剤の材料にはまだ毒素が強い』


うむむ、まだ駄目かぁ。よし、次の容器だ!

 といっても残ってるのは小さなタルだけなんだよね。

 まぁこれも容器には違いない。

 私は樽を頑張って洗うと、その中に水を注ぎ、二度希釈した汁をわずかに注ぐ。

 樽が大きくて水を満杯まで入れれなかったけど、まぁ他の容器と同じくらいの量だし大丈夫でしょ。


「よしこれでどうだ! 合成!!」


『やや汚染されたマイゼンの汁:飲むには適さない汚染水。解毒剤の材料にはまだ毒素が強い』


「ウギャー!!」


 これでも駄目かー!

 ってか、もう使える容器がないんですけどー!!


「こうなったらこの樽を抱えて湧水を流し込めば……アカン、重さに負けてブチまける未来しか見えない」


 そんな事になったら川の上流が汚染されて人魚達にドえらい迷惑をかけてしまう。


「えーっと、えーっと……そうだ!」


 私は周りの木々を見渡し、なるべく大きな葉っぱのついている木を探す。


「あった!」


 掌よりも大きな葉っぱの生えている木を見つけたら、木に登ってその葉っぱを一枚千切り取る。

 ふははははっ、子供の頃に木の実を取る為に木登りを頑張った甲斐があったぞー!  なお登ったはいいけど降りられなくなってしこたま怒られた当時。

 だが今の私は違う! 何故なら今の私は成長して大きくなったからもう怖くなんて……


「怖ぇーっ!!」


 しまったぁー! 体が縮んでるの忘れてた!!

 なんとか必死で怖いのを我慢して降りた私は、手にした葉っぱを湧水で綺麗に洗うと、それを容器代わりにして樽の中に水をそそぐ。

 正直めっちゃ効率悪いけど、樽を抱えて水を入れるよりはマシだ。

 時間をかけて何度も湧水と樽を往復し、満杯近くまで水が溜まった所で私は再び鑑定を行う。すると……


『希釈されたマイゼンの汚染水:解毒剤を作る為に適した濃度に希釈された汚染水。ポーションに混ぜると解毒剤となる』


「おっしゃああぁぁっぁぁぁ!!」


 遂に私は解毒剤の材料を作り出すことに成功したのだった。


「……さて、この大量の汚染水どうしようか」


 はい、頑張って魔法の袋に収納しました。

中で荷物同士がぶつかってこぼれたりしない魔法の袋って最高だね!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る