第43話 マジックアイテムを合成しよう

「と言う訳でマジックアイテムの合成開始だよ!」


 私はアルセルさんから購入したマジックアイテムのなかで効果が同じアイテム同士の合成から始める。


「まずは火属性のアイテム同士から。この炎の魔剣と炎の魔剣を合成! そして鑑定!」


『低品質な炎の魔剣:素材、製法、術式、魔法の全てが低品質の魔剣。炎の魔法が封じられており刀身に低い温度の炎を纏わせることが出来る。魔法使いでなくても魔力さえあれば使える。魔力消費量が高い』


 よし、アルセルさんのマジックアイテムは全部最低品質だから、確実に品質が上がっているよ!


「よーし、次の合成行くよー!」


 私は更に火属性のマジックアイテムを合成してゆく。


「他に火属性のマジックアイテムは……斧と槍か」


 まずは斧とごうせいしてみようかな。


「この炎の魔剣に炎の斧を合成!」


 すると二つの武器がいつも通りピカッと光る。

 そして光が収まると……


「およよ?」


 なんと剣の形が変わっていたのである。


「何だろう。剣のような斧のような……ええと、とりあえず鑑定」


『やや低品質は炎の斧剣:切るよりも叩き割る事を目的とした魔斧剣:素材、製法、術式、魔法の全てが微妙に低品質な魔斧剣。炎の魔法が封じられており刀身に弱い炎を纏わせることが出来る。魔法使いでなくても魔力さえあれば使える。魔力消費量がやや高い』


「へー、武器も別の武器同士で合成すると違う武器になるんだ。薬草と同じだね」


 薬草だと何になるか分からないけど、武器だとどんな形状になるかある程度予想が付きそうだね。

 まぁ売る時に誰が作った品か分からなくなるから、これはこれでありかもしれない。


「よし、それじゃあ今度は斧剣に槍を合成だ!」


 斧剣に槍を合成すると、今度は槍と斧が合体したみたいな武器になる。

 更に先端の槍は普通の槍よりも刀身が長く、そこは剣が合体したみたいな形状だ。


『炎のソードハルバード:槍部分の刀身を伸ばしたハルバード。槍と斧と剣の三つの特性を持つが、その分習熟にはセンスと時間がかかる。魔力を消費する事で炎を刀身に纏わせる事が出来る』


「おおー! 遂に品質が普通になったよ!」


 よっしゃー! これなら十分売り物のマジックアイテムになるよ!

 とはいえ、これじゃお店で売っている古代マジックアイテムと同レベルだ。

 ここからさらに品質を上げないと。


「でも炎のマジックアイテムはもう無いんだよね。うーん、アルセルさんに頼んで量産して貰おうかな」


 私は一旦マジックアイテムを仕舞うと、テーブルの上のハンドベルを鳴らしてティーアを呼ぶ。


「お呼びですかカコお嬢様?」


「うん、アルセルさんに炎の魔剣を4、5本作って納品してって伝えてもらえる?」


「かしこまりました。


 よし、これで合成素材の追加発注は完了。

 お店を持ったらこんな感じで従業員に指示を出す事になるのかな?


 本当ならマジックアイテムの話を聞きたいから私が直接行きたいんだけど、まだ他のアイテムの合成も試したいし、何よりあんまり頻繁に出かけるとお義母様が寂しそうにするんだよね。


「おっといけない、速く合成実験を終えないとお義母様が襲撃してくる」


 お義母様はなんというかふらっと襲撃してくるので秘密の作業中に来られるとビクッとなっちゃうんだよね。

 そういう訳で合成実験の再開なのです。


 とはいえ炎のマジックアイテムは追加の補充を待つ必要があるので、この後は他のマジックアイテムで実験をしよう。


「合成に使ったのは炎のマジックアイテムが3つ。残り17個の内、1つが水魔法、2つが氷魔法、2つが火球魔法、5つが風魔法、3つが土魔法、2つが光魔法、3つが防御魔法か。なんだか風魔法が多いなぁ」


 内訳として、水魔法の武器は本当に水がポタポタ出るだけの代物だった。

 多分威力が上がれば炎の魔法を打ち消したり、火属性のサラマンダーみたいな魔物に有利になるんだろうね。


「せめて水筒代わりになればなぁ」


 氷魔法の武器は炎の魔剣のように刀身に纏うタイプの武器で、使うとうっすら霜が走る程度だった。

 火球魔法は小さな火の玉を射出するタイプで、ちょっとした魔法使い気分を味わえる武器だ。

 正直これが一番使ってワクワクした。


「今度魔物狩りに行く時に使ってみよっと」


 ふふっ、華麗に魔法を放ちながらボールスライムを狩る私の雄姿を見よ! ……なんてね。


 数の多い風魔法の武器は、刀身に風を纏わせるものが1つと、風の勢いで剣を振る速度を上げるものが2つ、変わった物で使用者に風を纏わせて素早さを上げるものが2つだった。


 ただどれも威力が低くてそよ風程度だったんだけどね。

 うん、夏場に使うとそよ風で涼しいかもしれない。


「氷の魔剣を合せると簡易クーラーになるかな? まぁこのままじゃ魔力消費が物凄そうだけど……」


 土魔法の装備は武器自体の硬さをあげるもの、土を纏うこれまた属性ダメージをあげそうなもの、最後に地面を動かすものの3つだった。最後の奴は地震を起こしたり、地面の形を大きく変えて移動を妨げるデバフ系アイテムかな?


 そして光魔法の武器は単純にライトとして照らすものと闇属性の敵にダメージを与えるものとの事だった。

 ちなみに武器をライト代わりにする品は1個だけ売れたらしい。

 魔物の多い洞窟に挑んだパーティの戦士が、いざという時の灯りとして買ってくれたんだとか。


「やっぱり汎用性の高いアイテムは需要があるみたいだね」


 最後の防御魔法が込められたマジックアイテムは、使用者の全身を守る物が2つと、目の前に魔力の盾を産み出すものが一つだった。


「うん、これも品質をあげれば売れそうだね。とはいえどれも性能がバラけているから、合成しても最高品質にはならないんだよねぇ」


 流石にアルセルさんがどれだけ頑張ってもすぐに補充用のマジックアイテムを揃える事は出来ないと思うから、最高品質にするのは炎の魔剣に絞った方が良いだろう。

 でもそれが完成する前にオグラーン伯爵の興味を引くアイテムも作っておきたい。


「となるとここはやっぱりここは複数属性の合成かな?」


 私は目の前に並べられた複数の属性のマジックアイテムを見つめる。

 別属性のマジックアイテムの合成か、一体どんな物が出来上がるんだろう?


「普通に考えると2つの魔法が同時に発動するか、任意で別々の効果が発動するといったところかな?  でももしかしたら全く違う効果が生まれる可能性もあるし、最悪の場合は相反する属性同士が反発しあってドカーンなんてことに……」


 ……そう考えると、別属性のマジックアイテムは安全な場所で作った方が良いかもしれない。


「やるとしたら……森かな?」


 私の視線がマジックアイテムからベッドの上でヘソ天をしているニャットにへと移る。


「護衛のお仕事、してもらおうかな」


 ◆


「という訳でやってきました森!」


 お忍びモードになった私はニャットと共にこっそり東都を抜け出し、近くにある森へとやって来た。

 そして森の奥にあるある程度開けた場所で作業を開始する。


「ニャーは近くにいる魔物を狩ってくるのニャ」


「はーい」


 さーて、それじゃあ合成実験第二段を始めましょうかー!


「炎のマジックアイテムは使えないから……うん、氷と水のマジックアイテムにしよう」


 属性も近いし、これならそう悪い事にはならないんじゃないかな。


「それじゃあ氷のマジックアイテムに水のマジックアイテムを合成!!」


 すると二つのマジックアイテムが輝き、氷のマジックアイテムだけが残る。


「鑑定!」


『最低品質の氷流の魔剣素材、製法、術式、魔法の全てが低品質の魔剣。氷と水の魔法が封じられており対象に僅かな水を纏わせ氷を発生し約するして氷漬けにする。魔法使いでなくても魔力さえあれば使える。魔力消費量が非常に高い。やや冷たい水を発生させることも出来る』


「おおー! これは良いね!」


 氷の魔剣の能力が水の魔剣のお蔭でコンボ的に強化されてる!

 これも性能を上げていけば、相手を水浸しにした瞬間に氷漬けにするかなり凶悪な使い方が出来るね!


「よーし、安全性も確認出来たし、次は防御系のマジックアイテムでやってみようか。全身を守るマジックアイテムに魔力の盾を出すマジックアイテムを合成! そして鑑定!」


『最低品質の魔力鎧の盾:製法、術式、魔法の全てが低品質の魔盾。全身の表面に非常に弱い魔法、物理のどちらにも有効な魔法の鎧を張り巡らせることが出来る。魔力消費量が非常に高い』


「おおー、こうなるのかぁ」


 成程、全身を覆うバリヤーみたいな防御魔法に盾の魔法が合体したから鎧になったのか。

 魔力で覆う元の効果と合成後の鎧にして覆う効果には何か違いがあるのかな?

 今度アルセルさんに聞いてみよう。


「じゃあこの盾に残った全身を守るマジックアイテムを合成っと! そして鑑定!」


『最低品質の魔力鎧の盾改:製法、術式、魔法の全てが低品質の魔盾。全身の表面にやや弱い魔法耐性、非常に弱い物理耐性を有した魔法の鎧を張り巡らせることが出来る。魔力消費量が非常に高い』


 ふむふむ、どうやら全身を覆う魔法の鎧の効果は魔法耐性が強いみたいだね。

 逆に魔力の盾は物理攻撃に強い感じなのか。


「これも強化していったら強くなりそうだね」


 さて、こうなると残るは風と土、それに光のマジックアイテムだ。

 とはいえ、同系統のマジックアイテムを合成したら単純な強化もしくは発展形の能力になるのは判明している。


「なら今度は完全に違う属性で合成する番だね」


 使うのは風のマジックアイテムと土のマジックアイテム。

 この二つの相反する属性のマジックアイテムを合成してみよう。


「ニャットーッ!」


「……どうしたニャ?」


 私が呼ぶと、ニャットがひょっこり姿を現す。その口に大きな熊の魔物を加えて。


「……おぉう」


 おっかしーなー、猫って熊を咥える事が出来たっけ?

 お魚ならぬ大熊加えた白猫かぁ……


「え、ええとね。これからちょっと危なくなるかもしれない合成をするから、ヤバくなりそうだったら私を連れてすぐ逃げて」


「了解だニャ」


 ニャットは加えていた魔物を離すと、私の傍に寄ってくる。


「じゃあいくよ! 風の勢いで剣を振る速度を上げるマジックアイテムに、地形を替えるマジックアイテムを合成!!」


 完全に用途の違う合成の結果はどうだ!?

 いつも通り素材がピカッと光ると風属性のマジックアイテムが残る。

 武器自体が同系統の剣だから見た目は変わってないね。

 となると変わったのは中身かな。

 合成が終わってもニャットが反応しなかったから、突然爆発するような事はないかな?


「それじゃあ鑑定!」


『最低品質の風震剣:最低品質な風と土の魔剣:素材、製法、術式、魔法の全てが低品質の魔剣。風と土の魔法が封じられており刀身を地面に突き刺すと地面がやや早く震える。魔法使いでなくても魔力さえあれば使える。魔力消費量が非常に高い』


「どうだったニャ?」


 鑑定の結果をニャットが聞いてくる。


「えーっと、地面がやや早く震えるだって」


「ニャ?」


 うん、よく分からないよね。


「ためしに使ってみようか。ええと、魔力を消費するマジックアイテムを使う時は……確か念じるだけで良いんだっけ」


 剣を地面に突き立てて地面を振るわせろと念じる。

 すると体の中からごそっと何かが抜けるような感じがした。


「うわっ!?」


 危うくへたり込みそうになるのをニャットが体をすべり込ませて支えてくれる。


「あ、ありがとうニャット」


「で、どうなのニャ?」


「え? えっとぉ……」


 地面を見ると特に変わった感じはしない。でも変な違和感がある。

 私はしゃがみこんで地面を良く見る。

 すると、土がプルプルと揺れているのが見えた。


「土が震えてるみたい」


「ニャッ?」


 え~っと、それだけ?

 私はそっと剣に止まれと命じると、体から何かが抜けていく感じが消える。

 同時に地面も動きを止めた。


 つまりこれは、ピンポイントに地震を起こすマジックアイテムってことなのかな?

 でも力が弱すぎて全然影響がないよ。


「分かったのは、違う属性のマジックアイテムを組み合わせると、二つのマジックアイテムの特徴を合わせたマジックアイテムが出来るって事かな? まだサンプルが少ないけど」


 そういう意味では残りのマジックアイテムも合成に使ってしまいたいけど、一気に全部合成したら材料が無くなっちゃうから一旦保留。

 鑑定でデータの蓄積が出来た事で良しとしよう。


「やる事は終わったのニャ?」


「うん。お待たせ。それじゃあ帰ろ……」


「じゃあ飯の時間ニャ!」


「え?」


 そう言ったニャットが殺気持ち帰って来た熊をどさりと私の前に置く。


「ええと、ニャットさん?」


「昼飯にするのニャ!」


「ここで!?」


「そうニャ! 新鮮なうちに食べるのニャ!」


 お、おおう……ニャットさんてばマジだわ。


「まだ討伐した魔物が沢山あるから今から持ってくるのニャ!」


「ええ!? まだあるの!?」


「久しぶりの森だから沢山狩ったのニャ! 最高品質の香草を揉みこんで美味い肉の下ごしらえをするのニャ!」


 げぇーっ、マジかぁー!

 初めて会った晩の下ごしらえの悪夢再び!?


「さー解体するのニャー!」


「くっ、や、やってやるよー! 今の私の装備は以前とは違うんだぜー!」


 そうだ! こっちには最高品質の短剣があるんだ! 解体は前より楽になってる筈!!

 うぉぉー! 覚悟しろ魔物の素材共ーっ!!


「…………疲れた」


 うん、疲れた。

 どれだけ質の良い装備を使っても、解体するのは自分の体だもんね。

 普通に重いしキツイわ。


 解体して香草を揉みこんでを延々と繰り返すから、服が魔物の血でベッタベタだ。

 ああこれ、帰ったら怒られるんだろうなぁ。

 いったい何してきたんだって。


「くっ、この年で遊びまわって泥だらけで帰って来た子供の気持ちを再体験する事になろうとは……!!」


「仕込みが終わったのニャ? じゃあさっそく肉を焼くニャ!」


 ニャットがテキパキと肉に串を刺して焼いていく。 

 めっちゃ仕事早いですねぇニャットさん。

 まぁ後は焼けるのを待つだけだから、そういう意味じゃ楽かな。


「ああそうニャ。これは解体を手伝ったお駄賃としてカコにやるのニャ」


「これは魔石?」


 ニャットは私に魔石を差し出してくる。


「ニャー入らんからニャ」


「えっと、ありがとう」


 さっきの熊の魔石か。とりあえず合成して品質を上げてみようかな。

 まぁ疲れたし、一括合成で良いか。


「魔石を一括合成! そして鑑定!」


『マッドベア変異種の魔石:希少な変異種の魔石。土属性。錬金術で武器と合成すると足場を悪くする効果を得られる』


「へぇ、土属性で足場を悪くできるんだ……ん?」


 そこで私はある事を思いつく。


「これ、マジックアイテムに合成したらどうなるんだろ?」


 そうだ。私はまだ最高品質の魔石をマジックアイテムに合成した事が無い。


「ちょっと、試してみるかな」


「風震剣にマッドベア変異種の魔石を合成!」


 私は合成が完了した風震剣を鑑定にかける。


「さーて魔石を合成したマジックアイテムはどうか……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

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