第41話 マジックアイテムを探そう

「成る程、これを使ってオグラーン伯爵の興味を誘うか」


 お義父様が私の合成剣を見つめならそう呟いた。


 メイテナお義姉様からオグラーン伯爵の話を聞いた私は、ある作戦を思いついた。

 それは私が合成で作り上げた最高品質の剣を餌にしてオグラーン伯爵を誘い出せないかというものだ。


「非常に良くできた剣だ。そして魔法の発動体となる最高品質の宝石が二種類も組み込まれ、更に装飾としてはめ込まれている水晶も最高級の品。素晴らしい逸品だ」


 お義父様は私の剣に溜息を漏らしながらも様々な角度から眺めている。


「これ程の品はめったに見つからないだろう。蒐集家達もこれを見れば絶賛するのは間違いない」


「じゃあ!」


「だが駄目だ」


 べた褒めだったにも関わらず、お義父様はこれではだめだと首を横に振る。


「駄目……なんですか?」


 何で!? 最高品質の剣だよ!? 宝石だって最高品質なのに!?


「長期的な目で見れば、これでも十分オグラーン伯爵の目に留まるだろう。だが今回はパーティまでの期間が短い。彼が無理を言ってでも誘いたいと思わせる特別な品でないとね」


 くっ、そういう事かぁ。時間をかければ良いコレクションを持っている人だと自然に話題になるけど、今は情報が広まるまで待つ時間が無いと。


「でもこれ以上の品となると、どんな物なら興味を持ってくれるんでしょう」


 それこそ伝説の聖剣でも用意しないとダメって事?


「そうだね。武器自体の出来は私も見た事が無い程の出来だ。となれば後は素材と……」


「素材と?」


 素材と言う事はミスリルみたいなレア素材って事だよね。あとは何が必要なんだろう?


「マジックアイテムである事かな」


「マジックアイテム……ですか?」


 マジックアイテムと言えば、メイテナお義姉様から貰った短剣みたいに魔法が込められた道具の事だよね。

 そしてミスリル製の道具には錬金術師が魔法を込めてマジックアイテムに出来る筈。

 つまり錬金術師を探さないといけないって事かな?


「それも古代遺跡で発掘されるような強力な力を持った古代マジックアイテムが必要だろうね」


「古代遺跡で発掘されるような強力なマジックアイテム……」


 錬金術師に魔法を込めてもらう品じゃなくて遺跡で発掘されるアイテムでないといけないのは何でだろう?

 普通に考えると使いたい魔法を込めて貰う方が利便性が高いと思うんだけど。


「とはいえ、それ程の品となるとそう簡単には手に入らないものだ。パーティは諦めて別の方法で近づくしかないだろうね」


 いや、それだと盗品の行方がどうなるか分からない。

 パーティまではコレクター仲間に自慢するために手元に置いておくだろうけど、それが終わったらどこかに仕舞い込んで見つけるのが困難になる可能性があるからだ。


「いえ、用意して見せます」


 だから盗まれた品かどうか確実に確認できるパーティに間に合わせる必要がある。


「何?」


「私の伝手で古代マジックアイテムの武器を用意して見せます」


「カコ、高性能な古代マジックアイテムはそう簡単に手に入るものではないのだよ?」


 お義父様は少し困った様子で私に語りかける。

 これ、聞き分けのない子供だと思われてるんだろうなぁ。

 でもこっちも決めてるんだ。

 シェイラさんが頑張って作り上げた作品を奪い返すって!


「大丈夫です。私の伝手なら何とかなります」


「ふむ……分かった。だが無理をしてはいけないよ。そこは約束できるね?」


「はい!!」


 ◆


「という訳でマジックアイテムを見に来た訳だけど……」


 私達は町にあるマジックアイテムを取り扱う店にやって来た。

 目的はここで合成に使える素材を探すためだ。


「お客様、こちらが当店の自慢のマジックアイテムとなります。性能は刀身に炎を纏い、魔力を込めれば攻撃魔法として放つことが出来ます」


 そう言って店員は持ってきた剣のマジックアイテムの説明を始める。


「なかなか良い品ですね。こちらの品のお値段はおいくらなのですか?」


 ぶっちゃけ炎の剣とか普通過ぎて地味だよね。

 普通にこれを買ってもいまいち撒き餌にはならなさそうだけど、これを合成すれば最高品質の炎の魔剣に出来る。

 そこまでいけば地味な炎の剣でも話題になるだろう。 

 あとはこれがいくらくらいか、かな。

 まぁそこまで法外な値段ではないだろうけど。


「そうですな。これ程の品なら、金貨800枚と言ったところですね」


「金貨800枚!?」


 ええ!? マジックアイテムってそんなにするの!?

 ロストポーションと大差ない値段じゃん!


「意外とお高いのですね」


 正直かなり驚いたけど、なんとかお嬢様モードを崩さずに済んだ。

 いやー。危なかったぁ。今の私は一応お嬢様なんだから。


「ははははっ、古代マジックアイテムならこれくらいの値段はしますよ」


 しかし店員は冗談でも何でもないと、この値段が適正だと答えた。


「そうなのですか? と言いますか、古代マジックアイテムとは? 普通のマジックアイテムとはどう違うのですか? 確かミスリル製の品なら魔法を込める事が出来ると聞いたことがあるのですが」


 うん、これはトラントの町で聞いたから間違いない筈。

 名前の響きから察するに、多分古代文明の遺跡から発掘したアイテムとかそんな感じなんだろうな。


「確かに錬金術師に頼めばマジックアイテムを作ることが出来ます。しかし現代の錬金術師の魔法は古代の錬金術師のそれに比べて大きく劣るのです。それ故、専門家達の間では遺跡から発掘されたマジックアイテムを古代マジックアイテム、現代の錬金術師が作ったマジックアイテムを現代マジックアイテムと呼ぶのです」


 やっぱり私の想像通りの答えだった。


「では現代マジックアイテムはどのくらいのお値段がするんですか?」


 次の問題は現代マジックアイテムのお値段だよね。

 まぁそれだけ性能が違うと現代マジックアイテムは格安販売だろうねぇ。

 とはいえ、私が合成するにはその方が良いだろうけど。


「そうですね、性能は比べるまでもないですが、それでも貴重なミスリルを使っているので、金貨100枚はくだらないかと」


 ええ!? そんなにするの!? 性能が低い割にちょっと高くない?


「魔法の込められていないミスリルの武具と比べると随分とお値段が変わるのですね」


「おや、お嬢様はミスリルの武具の相場をご存じでしたか。ですがええ、その通りです。マジックアイテムを作れる錬金術師は非常に少ないのです」


「それはマジックアイテムの研究者になれるだけの才能が無いという事ですか?」


 どの業界でも才能の有無は大きいだろうしねぇ。


「いいえ、そうではないのです。マジックアイテムを作る錬金術師が少ない最大の理由は、研究と開発に予算がかかりすぎることなのです。しかも現代のマジックアイテムは古代マジックアイテムと違って性能が非常に低いにも関わらず、開発費がかかっているせいでどうしても高くなってしまうのです。そのせいで結局現代マジックアイテムはお金にならないのです」


 あー、普通の見習い鍛冶師と違って、売って開発費を回収できないから、お金が足りなくなって研究が出来なくなるんだな。


「その為、大半の錬金術師も確実にお金になる魔法薬の開発に専念してしまうのです」


 なんともせちがらないなぁ。

 

「じゃあマジックアイテムを研究する人はほとんどいないんですか?」


「そうですね。一部の変わり者と、後は国に雇われている錬金術師達でしょうか。国の援助があれば個人での研究とは比べ物にならない程予算と素材が与えられますから」


 うーん、と言う事は見習い錬金術師が作ったマジックアイテムをを大量にゲットして合成しまくる作戦は無理かぁ。

 これは買うのは止めておくか。でもその前に一つ確認。


「ところで、この炎の剣ですが、これは蒐集家の方達がこぞって欲しがるような貴重な品なのですか?」


 念のため、オグラーン伯爵とその仲間達が欲しがるような品かどうかも確認しておく。


「蒐集家ですか? あー、そうですね。騎士や軍人ならば欲しがると思いますが、収集家の方々にとっては持っていて当然の品ですね」


「ちょっと意外ですね。こういう時はその通りですと言って買わせようとしてくるかと思ったのですが」


 うん、てっきり在庫処分を買わせようとあの手この手で言いくるめてくるかと思ってた。


「いえいえ、この町を治める侯爵様のご息女に、そのようないい加減な商売は出来ませんから」


 ああ、そういえば今の私は侯爵家の令嬢として来てるんだった。

 マーキスにマジックアイテムを売っている店を聞いたら、ここに案内してもらったんだよね。


「マジックアイテムは非常に高価な品ですので、見物に行くのでしたら侯爵家令嬢として向かう方がよろしいかと」


 って言われたんだけど、確かにその通りだったよ。

 だってお客さんが全員身なりが良くて上品な人達ばかりだったんだもん!

 ただのマヤマカコとして店に行ったら入口でつまみ出されていただろうね。


 けどこうなるとこのお店で合成素材を仕入れるのはちょっとマズイなぁ。

 こうなったらマジックアイテムの研究をしている錬金術師を探すしかないか。


 ◆


 会話を適当に切り上げて店を出た私は、さっそく錬金術師を探すことにした。

 それも出来れば見習い錬金術師が良いなぁ。


「とはいえ、錬金術師なんてどこにいるんだろう?」


 ここはまたマーキスに探してもらうかなぁ。

 でも何度も頼むのも申し訳ないし…… 


「おっ、カコじゃん


 何処を探そうと悩んでいた私に、突然誰かが声をかけてきた。

 って言うか誰!? 何で私の名前を知ってるの!? 

 そう思って顔を上げると、そこにあったのは私の良く知る人の姿だった。


「シェイラさん!?」


「こんな所で何してんだ?」


「えっと、商品の仕入れです」


「ああ、そういやアンタ商人だったモンな」


 シェイラさんは納得したと言いながらウンウンと頷く。


「シェイラさんこそ何故ここに? 確かマドックさんの知り合いの鍛冶師のところで働くって言ってませんでしたっけ?」


「ああ。昼飯を食いに出てきたんだ。いやー、この町の飯は美味いぜ。お屋敷の飯も美味いけどさ、やっぱ私は下町の飯の方が性に合ってるよ」


 その気持ちは凄く分かる。

 お屋敷の料理は凄く美味しいんだけど、やっぱりマナーがね……


「せっかくだから一緒に食わないか?」


「そうですね……確かに私もお腹が空いてきたかも」


 私もいったん休憩にしようかな。

 それにシェイラさんのお仕事の話も聞いてみたい。

 新しい職場で上手くやっているのか心配だしね。


「そんじゃついてきな! 私のお勧めの店だ!」


 ◆


 シェイラさんに連れてこられた場所はいかにも大衆食堂って感じのお店だった。

 でもその雑多な空気と共に提供されるワイルドな料理はマナー不要なことも相まって、とても美味しく感じられた。


「ニャーはカコの料理が良かったニャア」


 ごめんねニャット、帰ったら何か作ってあげるから。


「って訳で、今はモルワさんの所で下働きをさせてもらってるよ」


 料理を食べながらシェイラさんは工房の出来事を語ってくれる。

 モルワさんって人がマドックさんの知り合いの職人の名前なんだね。


「下働きってどんな仕事をしてるんですか?」


「まぁ普通に雑用だよ。薪やらなんやらを補充したり、工房の掃除をしたりさ」


 確かに下っ端の仕事って感じだね。

 けれど、次にシェイラさんが口にした言葉で、私はこれ以上ない程の驚きを感じてしまった。


「けどちょっと面白い雑用があってさ、なんと錬金術の材料にするために武具を作るって仕事を受けたんだ」


「錬金術!?」


 え? ちょっと待って、錬金術!?


「そうさ。依頼主がマジックアイテムの研究をしてるから、その素材として何でもいいから武具を作れって仕事なんだよ」

 

「その話、詳しくっっ!!」


 マジックアイテム、その言葉を聞いた瞬間、私はシェイラさんの両手をガッシリと掴んだのだった。

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