第15話 装備を整えよう!!
メイテナさんから魔法の短剣を貰った私は、それを合成スキルで強化するためニャットに頼んで武器を売っている店に連れてきてもらった。
「って、あれ? このお店この間来たお店だよね」
ニャットについてやって来たお店の名前はキーマ商店。
そう、私がハイポーションを買ったあのお店だ。
「ニャ。この間来た時に武具も売っているのを見たのニャ」
おお、流石ニャット、そんなところも見ていたなんて!
「寧ろ商人であるおニャーが品揃えのチェックをするべきだったニャ」
はい、おっしゃる通りです。
「あれ? この間のお嬢様じゃないですか」
「え?」
お店の中に入ると、突然店員さんから声をかけられてビックリする。
「ほら、ハイポーションを販売した」
「ああ、あの時の店員さん!」
思い出した、この人ハイポーションを売ってくれた店員さんだ!
「今日は何をご所望ですか?」
「えっと、今日は武器を買いに来たんです!」
「武器ですか……?」
武器が欲しいという私の言葉を受け、店員さんはニャットに視線を向ける。
「ニャーじゃニャいニャ。コイツの装備ニャ」
「ええ!? このお嬢さんに武器を!?」
ニャットに否定された店員さんは、私の方を見て驚きの声を上げる。
つーか何で驚くわけ?
「気持ちは分かるけど旅をするなら装備を揃える必要があるのニャ」
「はぁ……さようですか」
気持ちは分かるって何で分かるのさニャットさんや。
「けどまずは防具から買うニャ」
「え? 防具?」
「そうニャ。武器だけあっても防具が無かったら話にならないニャ」
うーん、それもまぁ分からないでもない。
あの森で魔物に襲われた時、私は防具を持っていなかったもんね。
あの時生きていられたのは本当に運が良かったとしか言えない。
「分かりました。では防具の売り場にご案内しますね」
こちらの話がまとまったのを見て、店員さんが防具売り場に案内してくれる。
「こちらが武具の売り場となります。ただ、子供よ……小柄な方用の装備はあまりありませんので」
今子供用って言いそうになったな店員!!
「何で売ってないんですか?」
私はまたしても子ども扱いされた怒りを必死で抑えつつ、何で在庫が無いのかと尋ねる。
「ええとですね。大抵こ……こー……子供用の武具は工房でオーダーメイドとなりますので、しっかりした装備を買いに来る方がいないのですよ」
こ、この店員、他の言い方を考えるのが面倒になって誤魔化すことを止めやがったな!
「でも子……若い冒険者も居るんじゃないんですか?」
あっぶなー、自分で小さい子って言いそうになっちゃったよ! 違うよ! 若いんだよ!
「幼い冒険者は親が貴族か金持ちでもない限り十分な装備を揃えるだけの金を用意できないんですよ。それに冒険者になりたての子供じゃ魔物と戦うのは難しいですから、まずは魔物に見つからないように隠れつつ安い薬草取りをするくらいしか収入の手段が無いんです。それだと生活費で精一杯で装備に金を回せないんですよ」
なんと、純粋にお金が無いから装備を整える事が出来ないのかぁ。
「で、少しずつお金を貯めてようやく子供でも持てるナイフや短剣を買う事で採取の幅が広がりますね。まぁそれでも武器だけじゃ魔物との戦いはキツイんで、パーティの中で体格の良い子供が盾役として小型の盾を買って凌ぐ感じですね。ついでに木の板を紐で結んで鎧もどきを自作してれば上出来な方でしょう。ちゃんとした鎧は高いですから」
うおお、子供の冒険者ってシビアな生き方してるんだな。
寧ろ子供の方が命を守る為に重装甲にするべきだろうに。
「それに、経験を積んで安定して稼げるようになったころにはもう体が成長しているので、子供用の鎧は不要になるって訳です」
「そう……なんですね」
思いもよらない所でこの世界のシビアな現実を聞いてしまった。
そうか、鎧は高いんだね。
「とりあえず今ある物を見せて欲しいニャ」
「畏まりました。うちで扱っているのは小人族用の装備ですね。こちらなら子供でも装備できます。ただ小人族は人間の子供と違って大人の体なので、筋肉のない子供にはちょっと重いですね」
くっ、子供用の次は小人用かい! どこまでも人をミニマム扱いしおってー!
「なるべく軽いのを用意して見繕ってほしいニャ」
「畏まりました。でしたらこちらになります」
ニャットのリクエストを受けた店員さんは、すぐ傍にある鎧を持ってくる。
「素材は川大トカゲの革をなめした物を使っており、軽くて硬いのが特徴です。ただ全身を覆うと硬い分動きにくくなるので、要所を川大トカゲの革で守り、それ以外の部分は柔らかい革素材で出来ています。前線で戦うよりも動きやすさを優先して最低限命を守る装備ですね」
店員さんの言う通り、胸や腕、それに脛のあたりはワニ皮のバッグみたいな硬そうな素材で覆われているけど、それ以外の場所は普通の革を使っていた。
そして何より特徴的だったのは、ワニ革の部分が真っ白だった事だ。
「これ、白いんですね」
「ええ、川大トカゲは白い体をしているのが特徴で、そこから獲れる革は貴族や女性の冒険者に人気なんですよ。染料で染めている訳ではないので匂いに敏感な魔物に気付かれにくいのも特徴です」
なるほど、お洒落と実用を兼ねているから価値があるのかな?
「普通サイズの鎧でこれだけの箇所に川大トカゲの革を使うと金貨5枚はするんですが、小人族サイズだとそこまで大きいサイズの革を用意しなくて良いので金貨3枚まで安く出来るんです」
くっ、メリットまで子ど、小柄な事をアピールするんかい!
「成る程、小柄故の利点だニャ。カコ、これが良いんじゃないかニャ?」
「……ニャット先生がそう言うならいいんじゃないですかー」
「何を膨れてるニャ?」
ふーんだ、いいもんねー。ならこれを買ってやるもんねー!
「じゃあこの鎧を5個下さい」
「え? 5個!?」
5個と言われた店員さんがマジッ!? と目を丸くする。
「はい、5個下さい」
くくくっ、驚いたか! 私はこの鎧を合成スキルで強化してスーパー川大トカゲの鎧として強化してやるのだ! うん、ちょっと語呂が悪い。
「か、畏まりました」
「あと軽くて硬い盾はありますか?」
ついでに盾も注文する。
魔物に襲われた時生き延びることが出来たのは、最高品質の棒が盾になってくれたからだもんね。
鎧も大事だけど盾も欲しいよ。
「腕に付けるタイプのバックラーでよろしいですか? こちらは走り大亀の甲羅を削りだしたもので、軽くて硬いですよ。ただ走り大亀の甲羅は加工が大変なんで、銀貨50枚になってしまうんですが……」
「じゃあそれも5個下さい」
「は、はい。畏まりました。……やっぱり貴族のお嬢様は買い物の仕方が凄いなぁ」
よっし、これで防具はそろった! あとは……
「あと武器も欲しいんですけど」
そう、お待ちかねの武器です!
「武器ですか、やはり軽い方が良いですか?」
「はい。軽くて性能の良い短剣をお願いします!」
「短剣ですか、お貴族様が欲しがる短剣と言うと……ああ、あれがあった! ちょっと待っててください!」
良い商品のあてがあったのか、店員さんは店の奥へと入って行った。
そしてしばらくすると木箱を抱えた店員さんが戻ってきた。
店員さんが箱を開けると、中には綺麗な鞘に包まれた短剣が入っていた。
そして鞘から短剣を抜くと、薄紫の刀身が姿を現す。
「こちら、ミスリルの短剣でございます」
「ミスリル!?」
うぉぉーーーーっ!! ミスリル来たよーっ!!
ファンタジー金属のお約束、ミスリルですよ!
メイテナさんから貰った短剣に合成すれば、軽量化の魔法がかかったミスリルの短剣になるのでは!?
「こちらは普通の鉄の剣より軽くて切れ味も良いです。またミスリルなので魔法を封じて魔剣にすることも出来ます」
「え? 魔剣!?」
それってメイテナさんから貰った短剣みたいな!?
でもミスリルだから魔剣に出来るってどういう意味だろう?
「えっと、ミスリルだとって、ミスリル以外では魔剣に出来ないんですか?」
「はい。普通の鉄では魔法を封じる事は出来ないんです。ミスリルのような魔法と親和性の高い金属だけが魔法を封じて魔剣に出来るんです」
「って事は、これもミスリルなんですか?」
私はメイテナさんから貰った短剣を店員さんに見せる。
「鞘から抜かせてもらってもよろしいですか?」
「どうぞ」
店員さんは短剣を受け取ると鞘から抜いて刀身を確認する。
「確かに、この短剣にはミスリルが使われていますね。ただミスリルの含有量はそこまででもないみたいなので、あまり強力な魔法は封じる事が出来なさそうです」
「ミスリルの含有量?」
「ええ、ミスリルは貴重なので、大抵は他の金属を混ぜて使うんです。その際ミスリルの比率が高いほど、強い魔法を封じる事が出来るんです」
成程、ミスリルの割合が多い程良いんだ。
って事はこの短剣にミスリルの短剣を合成すれば確実に品質が上がるね!
「じゃあそれ買います!」
「ではこちら金貨10枚となります」
「金貨10枚!? かなり高いですね!?」
予想外の値段に驚いてしまった。
鎧よりも高いんだ!?
「ミスリルの含有量が多いので、どうしても高くなってしまうんです。ただ魔法が封じられていないので魔剣よりは安いですよ」
まじかー。魔剣になるとどれだけ高くなるんだろう。
「ところで魔剣にするにはどうすればいいんですか?」
今後ミスリルのアイテムを手に入れた時の為に、魔剣にする方法は知っておきたいんだよね。
「魔剣は付与魔法の使える錬金術師に頼めばやってもらえますよ。ただ結構なお金がかかりますし、悪い錬金術師に引っかかったらせっかくの魔剣が無駄になってしまうのでお気を付け下さい」
成程、錬金術師の腕前も重要なんだね。
……これ、私の合成スキルでなんとか出来ないかな。
薬草の品質を向上出来た事を考えると、低品質の魔剣同士を合成して品質上げる事とか出来そうだよね。
この町に錬金術師が居るのなら試してみたいな。
その為にもミスリルの在庫は確保しておきたいね。
「ところでミスリルの短剣ってほかに在庫有りますか?」
「ええっ!? それも沢山買われるんですか!?」
「なんならミスリルそのものでも良いんですけど」
「ええと……ざ、在庫を確認してきますので少々お待ちください!」
その後、もう一本だけミスリルの短剣があったので、そちらも買う事にした。
残念ながらミスリルは貴重なのであまり数は揃えられないみたいだったんだよね。
という訳で鎧を5つと盾を5つ、それにミスリルの短剣を2本で金貨37枚と銀貨50枚を支払って私達はお店を後にしたのだった。
◆
という訳で装備品の合成をはっじめっるよー。
「ニャニャー」
ニャットのやる気のなさそうな拍手を受けながら、まずは鎧の合成をおこなう。
「川大ワニの鎧を合成! そして鑑定!!」
『質の良い川大ワニの鎧:見た目の割に軽いが小人族用の硬い鎧。子供にも装備できる』
子供は余計じゃぁー!
ええい、合成を続けるぞー!
私は残った鎧を合成してゆく。そして……
『最高品質の川大ワニの鎧:最高級の川大ワニの皮がふんだんに使われた鎧。軽く硬く動きやすい。中級の魔物が相手なら相当な防御力を発揮する。炎系の魔法の威力を弱める効果がある』
「よっし! 最高品質になったよ! それに炎系の魔法の威力を弱めてくれるんだって!」
これで魔物に襲われても安心だよ!
でも最高品質になったら新しい効果が付いたね。これも合成スキルの力なのかな?
ちょっとこれも検証してみた方が良いかな。
「相変わらずデタラメな加護だニャア」
ニャットの呆れた声を背に私は更なる合成を続ける。
「走り大亀の盾を合成! そして鑑定!!」
『品質の良い走り大亀の盾:軽くて硬い亀の甲羅の一部を使った盾』
この時点では特別な効果は無いね。
「残りを合成また合成!! そして鑑定!!」
『最高品質の走り大亀の盾:軽くて硬い亀の甲羅の一部を使った盾。走る速度をわずかにあげてくれる』
おっ! やっぱりだ! 最高品質にすると装備に特殊な能力が付加されるみたい!
でも薬草や香草じゃ最高品質にしても何も起きなかったんだよね。
何が違うんだろう?
「ねぇニャット、防具を最高品質にしたら、元の装備にはなかった能力が追加されたんだけど何か知ってる?」
「ニャ!? 新しい能力!?」
「うん。鎧には炎の魔法の威力を弱める力が追加されて、盾は走る速さを少し上げてくれるんだって」
「ニャンだそりゃ。聞いたこともニャ……いや待つニャ。もしかして……」
「何か思い当たる節があるの?」
私はニャットに早く教えてくれと急かす。
「おそらくニャが、それは変異種の素材かもしれないニャ」
「変異種?」
「ニャ。魔物には時折特別な力を持った特異な個体が生まれるニャ。それを変異種と言って、変異種から獲れた素材は他の同種の魔物の素材よりも質が良く、稀に魔剣の様に特殊な効果を発揮する装備になるらしいニャ」
成程、レア個体のレア素材って訳か。
「あっ、もしかしてこれが魔物の素材を使って作ってある防具だから合成で質を上げる事で変異種の素材と同じ扱いになったんだ!」
「多分ニャ」
成程、ただの装備だったら普通に最高品質になるだけだけど、魔物素材だから特別な効果が付いたのか。
うーん、これは私の合成スキルに新しい可能性が見つかったね!
例えばミスリルの魔剣に最高品質の魔物素材の剣を合成すれば、二つの特殊能力を持った超魔剣が生まれるかもしれない!
「うおお、これは燃えてきたよぉ!」
スキルの検証が捗るぅぅぅぅぅ!!
「よーし、こんどはメイテナさんの短剣にミスリルの短剣を合成するよ!! 合成! そして鑑定!!」
『品質の良いミスリルの短剣:軽量化の魔法がかけられたミスリルの短剣。軽く鋭い切れ味の短剣』
「よし! 質が良くなったよ! もう一本も合成して更に質を……あっ、いや、でももう一本は残しておいて、錬金術師に頼んで魔法を封じてもらった方が良いかも」
このままもう一本も合成しようかと思った私だったけど、ここは魔法を封じて魔剣にしてから合成した方が良いかもと思いなおす。
「となると次は魔法を封じてくれる錬金術師探すべきかな」
うまくすれば軽量化の魔法以外も封じた凄い魔剣が出来るかも! ああそれに魔物素材の武器も合成したいね!
うんうん、ワクワクしてきたよ!
「その前にやるべき事があると思うニャ」
と、興奮している私に対しニャットが忘れていることがあると告げた。
「え? 何を?」
「武器を強くするのもいいがニャ、肝心の使い方を知ってるのかニャ?」
「え? 使い方?」
とおっしゃると……
「おニャー短剣の使い方知ってるのニャ?」
「……知らニャイ」
「ニャイのアクセントが甘いニャ。全くそんな事だと思ったニャ。このままだとおニャー、自分の武器で大怪我をすることになるニャ。ちゃんと使い方を覚えるニャ!」
うぐぐ、全く以て反論できない。
確かに言われてみれば私は武器の扱い方なんて全く分からない。
そんな状況で武器を振り回しても戦いに勝てるとは思えない。
うーん、これはニャットの言う通り、早急に訓練するべきかも。
「じゃあニャット、短剣の使い方を教えて!」
「断るニャ」
「えー何で? ニャットは冒険者なんでしょ? だったら短剣の使い方くらい知ってるんじゃないの?」
自分で使い方を覚えろって言ったんじゃーん!
「んニャ」
ニャットは返事の代わりに自分の前足を見せて、ニョキッと鋭い爪を覗かせる。
「ニャーの武器はこの爪ニャから、人間の武器は必要ニャいのニャ」
「ああっ! そうだったニャー!!」
「ニャーのアクセントが甘いニャ」
そうだった、ニャットは武器を使わないんだった。だってネコの手だもん。武器は持てないよね。
衝撃の事実に私は打ちひしがれる。
「大体、それの使い方を学びたいニャらもっと適役が居るニャ」
「え? 誰?」
そんな人いたっけ?
「その短剣の元の持ち主だニャ」
「あっ、そっかメイテナさん!」
そうだった! この短剣は元々メイテナさんの物だし、あの人に使い方を学べば良いんだ!
「よし、それじゃあメイテナさんに頼みに行こう!!」
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