94話:かくれんぼ
まだ夕暮れ時だったのに、彼女にタッチされてから急に薄暗い廃墟ビルのような団地に変わってしまっている。薄暗くどんよりとした曇り空で電灯がチカチカと点滅している。
〈しっかり数えてね〉
ケタケタと不気味な笑いをしながら、僕をジッと眺める様に階段を後ろ向きに下りてく。
最後にヒョコと顔を出して、ニコッと微笑んで消えてしまった。
「動いたらどうな――」
興味本位に動いてみると、耳元から囁かれる。
〈ズルはだ~め。お仕置きしちゃうよ〉
ぞわっと背筋から変な感じがしてしまう。
しっかりと止まっていると、ゲームの画面にカウントダウンが開始された。
「なるほどね、止まってないと数が減らないし最初っからカウントされるんだ」
『そうそうジッとしてようね~』
「きゃう⁉」
背中を人差し指か何かで上から下へと文字でも書くかの様になぞられた。
『あは、ごめんごめん。怖がって震えてる悠月ちゃんがあまりに可愛かったから、つい悪戯をしたくなっちゃってね~。でも、何時もと違って全身の動きもリスナーさん達に見られてるから、変にしゃがんだり内股でしゃがまないと、下着が丸見えになるから気を付けね』
==グッジョブだ
==驚き方も可愛かったな
==無防備な悠月お姉様も捨てがたいけど、ナイスですミスナちゃん
改めて言われるまで全く気にしなかったけど、確かに全身を見られているんだから少しは意識しておかないとだよね。
そんな事を気にしている内にカウントがゼロになって、かくれんぼがスタートする。
「この不気味な雰囲気の団地を歩き回りたくないんだけど。それよりも、このかくれんぼって何処までが範囲なの? まさか周りにあるマンション全体がフィールドとか言わないよね。一部屋ずつ探す事なんて無理だと思うんだけど」
初めに会った彼女の部屋のチャイムを鳴らして見るが、それらしい音が鳴る気配が無い。それどころか、扉には鍵が掛かっていない様子だった。
「うわぁ~、入れちゃうよ」
ほぼ廃墟と変わらない室内で、室内は荒れ放題だ。
モノが散乱していて靴なんて脱いで上がったらすぐ足を怪我しそうだ。
一歩一歩ゆっくり進むと、その進む歩数と合わせる様に床が軋む様な音が聞こえる。
「はぁ、こういう雰囲気も要らないんだってば」
流石にリアルと違ってVRゴーグルだから顔を左右に向けないと視線の移動が出来ないのはちょっと辛い所だ。慣れてないせいで視線だけ動かしてしまって、端っこが真っ暗で切れた様に映ってしまい、何も無いのに驚いて身を縮めてしまった。
「妙にリアルに作ってるせいで、陰に驚いたじゃんか~。もうヤダ~」
切れは視界の端から自分の影が少し動いた時にニュっと出てきて、物凄く怖かった。
『大丈夫だよ~。まだ全然怖くないからね』
「コレで怖くないって事は、後からもっと怖い演出があるって事ですよね‼」
『勘の良い子ね……でも、まだまだ全然進んでないんだから止めちゃあ駄目で~す』
声のする方を向いて睨む。
『きっと睨んどるな』
『分かるんですか?』
『悠月は怒るとすぐに口元が少し尖らせて、頬が少し膨れるからのう。目がごーぐるとやらで隠れておってもすぐにわかるぞ』
==さすがはカミちゃんだね
==ずっと一緒にゲームしてるだけあるね~
僕の罰ゲームとはいっても、こういう時はカミも参加してくれても良いと思うんだけど、なんで僕一人でやらなくちゃいけないんだろう。
『ほらほら、止まってたら終わらないよ~』
「わ、わかってますよ」
間取りはさっきの彼女が居た部屋と同じなのかな、こんな事なら選択肢が出た時にちゃんと選んで話を聞いておけばよかったな、もしかしたら部屋の中に入れたかもしれない。
でも、かくれんぼなんだし、見つける子は女の子一人だけなんだから、別に怖がる必要はないのかもしれない、別に何かある訳でもなさそうだし、雰囲気だけ怖いだけだろう。
手に取れそうなアイテムを探して、色々とモノを触ってみる。
寝室らしき場所に入った瞬間に、バタンと何かが倒れる音が聞こえた。
「なにが倒れたの⁉」
探る様に顔を色々な方向に向けるも、倒れた感じの痕跡は見当たらない。
今度は真後ろから子供が走るような音も聞こえてくる。
「か、かくれんぼなんだから、隠れてるだけじゃないの?」
クスクスと子供の笑い声が聞こえる。
ただ、さっきの少女ではなく、何人かの声が混じっていて男の子っぽい声もする。
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