85話:内緒の初ホラーはVRから②
本社の近くまでくると、どうしても逃げたい衝動に駆られて何度か来た道を戻ろうとしたのだが、その度にカミによって阻止されてしまう。
仕舞いには手を握られて引き摺られる様にして強引に本社まで連れて来られてしまった。
流石に近くまでくると、自ら足を動かして進むしかない。
「ねぇ、そろそろ話してくれても良いんだけど」
「何を言うおる、そんな言葉を信じて逃げられたら叶わんからな。最後まで話す気はないのう、何度も逃げ出そうとした己を怨むのじゃな」
今は女の子になっているから、カミよりも身長が高いのに僕が手を引かれて歩いているのが妙に気恥しい感じで周囲の視線が物凄く気になってしまう。
なんか工事をしている人達も惚けた感じで見てくるし、どうしたんだろう。
「うぅ、やっぱり――」
「帰らんぞ」
こうも視線が集まると本当に居心地が悪くって帰りたくなる。
「そんな涙目で見てもダメじゃぞ」
「何でそこまでして行きたいのさ、別に日を改めてって事でも良くない?」
「予定を作って先延ばしにしそうじゃからな、それは却下じゃ」
ずっと一緒に居る時間が増えているせいで、段々と僕の思考が読まれ始めている。
きっと母さんや父さんの入れ知恵もあるんだろうけど、よく僕が考えている事が分かるな。
そんなに分かり易いんだろうか? いや、数名を覗いては別に僕の思考を読んだ行動をしてくる人なんて、そうそう居ないだろう。
ただ、仲良くなった人達は何故か全員が僕の考えを当ててくる。
余計な事を考えていたせいで、何時の間にやら事務所の前に到着してしまった。
「こんなに無断で入ってきてよかったの?」
「きちんと入り口に居た者には挨拶をしたであろう、主は考えごとに夢中で全然気付いておらんかったようじゃがな。それにハル社長から許可も得ておるから問題ない」
「何時の間にそんな段取りが良くなったのさ」
「便利な道具があるのだから使い方を覚えて活用したに過ぎんぞ?」
きっと父さんに習ったんだろうな。携帯だって僕よりも文字を入力するスピードが速くなってきている。カミは面白い事ならすぐに覚えちゃうんだもんな。
事務所にはまだ機材が揃っていないが、机やら必要そうな機材は一通り揃っているようだ。カミが大きな声で挨拶しながら入っていく。
僕も手を引っ張られて強制的に室内へと連れて行かれる。
恥ずかしい気持ちを抑え込みながら、精一杯の声で挨拶を言う。
カミの声に気付いた人達が同じように挨拶を返して、僕等の方に注目しだした。
初めは誰だろうという感じで、興味津々の視線が集まり徐々に誰だか当てる感じでハル社長の近くに居る人達が小声で名前を言いあっている。
作業をしているスタッフっぽい人達も僕等に興味を持ちながら、徐々に目の前の仕事に手を付け初めて、チラチラとこっちの様子を窺いながらお片付けをしている様子だ。
「カミちゃん悠月ちゃんいらっしゃい。まだ全然片付いてないけどね」
嬉しそうに僕等に気付いたハル社長がヒラヒラと手を振って僕等を呼んでくれる。
名前を呼ばれた瞬間、この場に居るであろう全員が再び僕等の方に注目する。
「ということは、この子達が後輩ちゃん達ね」
「リアルで見るとまた雰囲気は捉えてるけど、また違った美人さんって感じだ~」
「……スタイルが良いですね。羨ましいです。でも、理想のお姉様像はそのままでした」
其々の反応で見てくるので、余計に気恥ずかしい。
「ほれ、我の後ろに隠れとらんで行くぞ」
「わ、分かってるよ」
スタッフさんっぽい人達にも頭を下げながら、ハル社長の方へと歩み寄っていく。
「すまないのう、お昼を届けに来たぞ」
少しだけもったいぶる様にカミがお弁当箱をリュックから取り出す……そのリュックは初めから背負ってたっけ? 来る途中で神の力的なモノで出したのかな? 変な所で面倒くさがりだよねカミって、確かに手荷物は邪魔になるけどもさ、そういう使い方はズルい。
「お弁当を作ったのは僕なんだけど?」
「盛り付けやら手伝ったのだから二人で作ったで良いではないか」
「まぁ、そうだけどね」
ハル社長は僕達からのお弁当を嬉しそうに受け取る。
「ありがとう、早くお昼になるのが楽しみ」
「ちょっとハルっち! 私達の事を紹介してよ~」
「あら、ごめんなさいね」
大事そうに自分のデスクであろう机に僕等のお弁当を持って行ってから、すぐに戻って来た。少しだけ取り繕う様に咳払いをして、先輩達を紹介する姿勢になる。
「先ずはそうね、こっちのさっきから興奮している子はミスナちゃんよ」
「よっろしく~。本名は星(ほし)涼子(りょうこ)っていうの~」
スレンダーな体付きで、ちょっと身長は低めの女の子。活発そうで釣り目な顔付をしているから、少しだけ気が強そうに見える。
「続いて、キャリちゃんね」
「宜しくお願いしますね。末永く一緒に活動できる事を嬉しく思います。本名は森丘舞です」
なんか挨拶の仕方が変な気がしたが、気にしないでおこう。
知的な女性という感じがするけど、ちょっと物ぐさな感じもする。
ふんわりとしたロングヘアーで、前髪のくせっ毛がチャームポイントかな。お姉さんという感じではなく、どちらかと言うと誰とでも仲良く慣れそうな女性だ。
「最後に奈々ちゃん。後数人居るんだけど、今は買い出しに行ってていないのよ」
「よ、よろしくお願いします。北条菜々美です。キャラの名前は菜々美から取ってます」
気の弱そうな女の子だけど、何故か積極的に僕と握手をしに来てくれる。
ちょっと顔が赤い気がするけど、気のせいだろうか、熱が無ければ良いけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます