78話:新しい家②




 前の家ではカミが入って来たこともあって、広さが半分くらいになった気分だけど、一人になると広く感じる。部屋の大きさは前と変わらないのにな。


 机にはもう既に何時でも配信できるようにパソコンも設置されている。

 小物類や衣服なんかは、まだ段ボールの中だ。


「ふぉ~、やはり和室は良いのう。紬の部屋は前と同じようじゃな」

「人の許可なく開けないの」


 なんで僕とカミの部屋が繋がっているのか、本当に良く解らない気の使い方だ。僕のプライベートは何処に行っちゃったんだろう。両親に問い詰めたい気分だよ。


「しかし、一人で寝るのは寂しいのう……またこっちに来て寝てよいか?」

「少しは恥じらいを持ってよ。女の子でしょうに」

「何を言うておる、問題はなかろう」

「寝る時は女にされるからかな?」

「うむ、男女では問題だが、女同士であるなら問題はない。それに紬は性別が紬じゃ」

「その言葉はそんなに便利じゃないからね⁉」


 けど、カミもそろそろ携帯端末を持つことになるだろうから、ソーシャルゲームをやらせない様にしないとダメだろう。


 僕が一緒に寝る事でそれが防げるなら……安い代償と言えるかもしれない。


「はぁ、まぁ良いけどね」


 少しワザとらしく吐息交じりに言う。

 カミは僕に断られると思っていたのか、物凄く嬉しそうな顔で抱き着いてくる。


「流石は我の使いじゃな」


「分かったから抱き着かないの! さっさと部屋の片づけを終わらせないと遊ぶことも出来ないんだから、しっかり自分の部屋ぐらいは自分で何とかしてね」


「そうじゃな、それではさっさと取り掛かるかのう」


 トタトタと足早に自分の部屋に帰っていく。


 とりあえずカミの部屋は問題ないだろう。

 片付けくらいはカミでもしっかり出来る……問題があるとすれば、僕の両親たちだ。

 あの人達の頭には整理整頓という事が出来ない人達だからなぁ。


 父さんは絶対に出来るはずなのに、何故かPC関連の事から離れると途端にダメ人間となってしまうのだ、あの良く解らない所を直してくれれば、僕の負担も減るのにな。


 僕自身の荷物は少ないし、元々、本棚や引き出しの中に置く場所も決まっているのですぐに終わる。

 少し掃除機と拭き掃除をしてから、さっさと段ボールの中身を取り出して、並べていけば、一時間もしないで終わる。


 ぬいぐるみ達はベッドや棚の上に置いて……広く感じる分かちょっと向きが気になるが、次の機会にでもクレーンゲームで取ってくれば微妙な隙間も埋まるだろう。


 意外と部屋の整理整頓だけで3時間は掛った。

 カミの方は終わったのか、さっきから物音一つしない。


 扉をノックして返事を待つが、何の返事も帰ってこないので気になって少しだけドアを開けて覗いてみると、部屋の一角に段ボールから本を取り出して、真剣に漫画本を読んでいる。アレは本来なら僕の部屋にあったモノだけど、カミの部屋に紛れて居たらしい。


 通りで微妙に足りない隙間があった訳だ。


 集め始めたばかりだから、巻数も少なくって気付かなかったな。後は短編で終わっているモノを中心に詰めていたので、その分の空きが変な隙間を作ったのだろう。


「こ~ら、読んでばかりいたら終わらないよ」

「お、いま良い所なのじゃぞ」


 僕に気付いていな間に近付いて、読んでいる漫画をサッと取り上げる。


「子供みたいな事を言わない。神様なんでしょう、終わらせることは手早く済ませて、全部終わってから楽しみなさい」


「むぅ、分かったのじゃ」

「終わったらデザートも食べて良いから。それまでは全部ダメね」

「すぐに終わらせる! 絶対じゃぞ」


「クーラーボックスに入ってるから、好きに食べて良いよ。僕は母さん達の部屋を片付けてくるから、それが終わったら夕ご飯ね」


 ビシッと何故か敬礼をして、カミはのんびりしていた動きから、切れのある動きに変わって片付けていく。これで一先ず僕等の方は大丈夫だ。


 リビングや客間なんかにはお手伝いさん達なのか、メイド服を着た人達がせっせと働いてくれている。

 後であの人達の分も何かしら用意しておかないとな。


 キッチンの方はもうすぐ終わりそうだから、休みがてらに何か作ってしおこうかな、今の内に準備をしておかないと、夕ご飯に間に合いそうにない。


「母さん達の方は終わったの?」

「え、そうね……もうすぐかしらね」


 僕がジト目で見つめる。

 すぐに目を逸らしながら何かを必死に隠そうとしている母さんが目の前に立ち塞がっている。

 ひょいっと飛び上がって部屋の中を覗こうとすると、邪魔をしてくる。


「はぁ、どうせ進んでないんでしょう」

「うっ! そんな事は無いわよ」

「じゃあ中を見せてよ」


 観念して少しだけしょんぼりとしながら、目の前から退いてくれる。


 努力は認めるけど、段ボールからだして自分の作品を懐かしんでいた痕跡があり、そこから色々と仕分けしようとしたのだろうか、色んな物を広げてお店みたいに並べている。ただし床一面に広げてしまって、足場がない。


「手伝うから、必要なモノは右の箱ね。取っておきたいモノはこっちの段ボール」


 何時まで立っても終わらないから、指示を出しながら僕が整理整頓をしていく。


 夜までにはなんとか、過ごし易い部屋にはなっただろう。


 父さんの方はお手伝いさん達に任せた。機械類は僕じゃあ良く解らない事も多い。


 これで明日からの配信も、問題なく出来るだろう。






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