38話:ダーク部分の反響に父のウザ絡み
「紬ちゃん。お母さん的には全然アリなんだけどね。劉ちゃんを見て。あんなにショックを受けちゃってるの、何とか慰めてあげなさい」
「いや、何でそんな話になるのさ」
「そりゃあ悠月ちゃんが残虐非道な黒い部分を見せたお主のせいじゃろう。最後の方なんて一方的に攻撃をしながら、まるで悪党が高笑いでも上げながら敵を薙ぎ払っている様にしか我には見えなかったぞ。あれではどっちが悪役なのかは分からんな」
確かに久しぶりに出来た嵌めコンボが綺麗に決まって、テンションが爆上がりしていたせいで、少し変だったとは自分でも思うけれど。父さんにそこまでショックを与える様な事は言っていないと思う、いったい何故こんなにも衝撃を受けているのか分からない。
チラッとこっちを見ては悲しそうな顔をしてくるので、いい加減に鬱陶しくなってきた。
物凄く構って欲しそうに見てくるので、仕方なく相手をしてあげる事にした。
「もう、何が気に入らないの?」
「だって、急に娘が不良になっちゃったみたいに思っちゃってさ」
「ムスメ違うね~。息子だよ」
「今は娘で合っておろう」
余計なツッコミをカミを睨むと、すぐに明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。
僕は母さんの方に視線を向ける。
「しょうがないわよ、劉ちゃんってば娘が欲しかった人だから」
これはもう放っておいても良いんじゃないだろうか、下手に絡む方が面倒な気がする。
「ほら、ご飯作るから機嫌直してね」
「……ふむ、娘の手料理。良いね楽しみに待ってるよ」
「普段から食べておると思うのだが、我の気のせいだったか?」
「なんか父さんの頭がバグってるだけだから、もう気にしない方が良いよ」
父さんの気分も少しは良くなったみたいで、僕の料理を待ちわびるように自室へと戻って行った。その姿を僕等はじっと黙って見送ってから、三人同時に溜息が漏れ出てしまった。
「それよりも悠月ちゃんは配信する度に話題性があるみたいよ」
気分転換とばかりに、母さんが話題を逸らす様に切り出した。
「我も少しは目立ちたいのう」
「いや充分目立ってるでしょう。ていうかさ、そろそろ戻してくれない?」
「何を言うておるんだ? 父上殿にご飯をその手で作ってあげねばならんのだろう。きっと今戻ったら泣いて面倒な絡み方をされるぞ」
確かに今の父さんなら、カミの言っている通りになりそうで怖い。
しばらくは、女子の姿でいるしかないようだ。
「明日には戻してよ」
「気分が良かったら、戻してやろう。取りあえず今日はそのままじゃな。一緒の布団で寝てもらってから考えるかろのう。少なくともそれくらいはしてくれんと話にならんのう」
「あらあら、積極的ね~」
なにが積極的なのか母さんに問い詰めたい処だけど、どうせ何にも言わないだろう。
それにしたって、カミはもう少し恥じらいを学んでほしい。
「普通は一緒に寝ないでしょう。恥ずかしくないの?」
「別に思わんのう。今の悠月は良い匂いがするしな、紬の方は甘い香りが強めじゃぞ」
自分の体臭って分からないもんだから、なんとも言えない。そんなに匂うかなと思い自分の手首辺りを嗅いでみるが、やっぱり良く解らない。
「いつも一緒の部屋で寝てるじゃん」
「一緒の布団で寝るのだぞ」
「……はぁもう、今回だけだからね」
「そんな事をいって、結局は何時も許しちゃうんじゃないの~」
「母さんは少し黙ってようね~。好物を少なくしちゃうぞ」
僕がそう脅しをかけると、すぐに口を噤んでくれる。
「しかっし、本当に悠月は人気の様だぞ。ほれ、これなんかも、しっかりと作られておる」
「カミはもうスマホを上手く扱えるようになってるんだね」
知らぬ間に僕よりも扱いが上手くなっているじゃないかって程に、素早くタップしたりスクロールだって出来ている。
「ふっ、今の時代はこれくらい出来んとな」
得意げに胸を張っているカミは少し可愛らしいけど、一々僕を見下ろす様に笑う。
そういう所はちょっと後で分からせてあげないとダメかもしれないな。
涙目になって謝ってくるまで、思わず意地悪をしたくなっちゃうじゃない。
『ダークな悠月ちゃん登場』なんてタイトルで切り抜きされた動画や、悠月ちゃんのSな部分を強調して描いたイラストなんかが、既にSNSに挙げられていたりした。
後ろの方には、さっきの父さんみたく戸惑った感じのカミが描かれていたりする。
「早くない? まだ一日も経ってないんだけど⁉」
「完全にネタキャラ扱いね。カミちゃんが居てくれて良かったわよね。一般常識枠として、皆からの可愛がられているみたいじゃない」
「我としては、もうちょっとカミとしての威厳を見せていきたいのだがのう」
どれもこれも、僕を色物扱いしていて、コミカルに描かれているのは見ていて面白い。
当事者じゃあなければの話だけどね。
「こうしてみると、確かに父上殿が言っていた事も解らなくはないのう」
「僕はちょっと押し入れにでも入ってくる」
少しだけ現実逃避がしたくなったので、一人で狭い場所に籠りたくなった。
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