20話:僕達のデビュー




『は~い、おはようございマス皆さん。準備の方は如何ほどですかね?』


「まぁ準備は万端に済ませてあるけどね。私達が全力でサポートするって言っても、二人とも経験なんてないんだから、ガッチガチよ。見てるこっちが緊張しちゃいそう」


 その割に母さんは僕等の事を楽しそうにデジタルカメラで撮ってるけどね。

 今さっきまで習っていた事を、僕は必死に頭の中で繰り返しいる。

 なにせ隣に居るカミは、機械では当てにならないんだから。


「こっちの画面のヤツは触らなきゃ問題ないから大丈夫だって。ほれほれ気楽にリラックスしないと、変なミスして恥ずかしい思いをするのはお前だぞ~」


「しかし、この文字が勝手にひょこひょこと出てくるのが、全て人とはのう。信じられんが、実際に手元で見せてもらったからな」



 ==挿絵はかなり俺好みのこだったな、


 ==新しい子会社だったから初めは期待してなかったけどさかなりヤル気に満ち溢れてるよね。最初っから其々のキャラに三つの衣装だもん。


 ==他のキャラは影絵だけしかまだ発表されてないけど、良い感じそうだよな。

 ==この二人は一早く応募したのかな?

 ==いや、速さ的に引抜じゃね?

 ==スカウトって話じゃなかったかな。本社のライバーが呟いとったし。




「多くない? コレ全員がリアルタイムで見てくれてる人なんだよね?」


 正直な所、自分はもっと少なくって細々とやるもんだと思ってたんだけれど、どうやら違う様で、既にフイットによって、色々な情報が出回っているらしい。


「そりゃあ、私が宣伝したからね」


「ちなみに今回の配信中でも普通に杏が話しかけるから、驚いたりするなよ。ボイスチャットでのやり取りになるから、別室に居るからな。呼び方は何時も通りで大丈夫だろう」


 実際に母さんだからね、下手に呼び方を変えないのは有難い。


「何と言うか、むず痒いのう」


 カミは少しだけ気恥ずかしそうにチラチラと母さんを見ている。


「ふふ、好きに甘えちゃいなさいよ。神様が甘えちゃあダメだなんて、私は思わないもの」


 本当にただの子供っぽく母さんに抱き着いて甘えている。

 今日の朝にカミのヤツは僕に対しては、すっごく我儘だった気がしますがね。


「いやいや常に僕には駄々甘えじゃないか、今日の朝だって普通にプリンを横取りしてきたぞ。その上、遊んで欲しいからってトランプなんか持ち出して付き合わされたし」


「ほら、そんな無駄話をしている間にも、時間になるぞ」


 父さんがかなり離れた場所に座って、サポートの態勢に入ってくれている。


「それじゃあ頑張ってね、私は自分の部屋から繋いでるから」


「最初の挨拶なんだけど、私が挨拶してからの繋ぐからよろしくね。貴方達の大先輩達も見てると思うから、変に掻き乱されちゃあ駄目よ」


 なんか最後に物凄い事を言って、通話グループから一旦抜けていった。


「はぁ~、ふぅ~~~~」

「ガチガチになっておるのう。ほれ水じゃぞ」

「ありがと」



『――――さて、私の挨拶はここまでにして、これから一緒に我が社を盛り上げてくれる子達を紹介しましょう。配信とかは初心者さんだから優しくしてあげて下さいね。先ず一人目は、奈梨悠月ちゃんです』


 そう言って父さんが僕の方を見て、OKサインを出してくれる。

 コメント欄は拍手やら、一言の歓迎ムードの雄叫びを書いている人達が沢山いる。




 ==瞬きが多いな。

 ==あ、すっごいキョロキョロしだした。

 ==なんだ? いきなりミュート芸かな?




「あ~、いえ……余りの人の多さと、コメントの流れに飲み込まれてただけです」


 何時もの癖で、ツッコミっぽくジト目で、一部のコメントに反応してしまった。



 ==可愛い声だね。

 ==男の子なのか? どっちだコレ?



「僕は男です。声が妙に高いのはきっと緊張してるからですから、可愛いとか言わないで」


『でも、性別は不選定なのよね』

『そうそう、そうやって反抗的だと、女の子にだってされちゃうんだから』


 急に母さんと社長さんが入ってきて、ビックリしてしまった。

 先ほど驚かないようにと言われていたのに。



 ==どういことだってばよ?

 ==モグリめ、お主、母殿のフイッチを読んでないな。

 ==公式にも配信と同時に出てるんだぜ。



「え~、はい……自己紹介がまだでしたね、ごめんなさ――いったっ⁉」



 ==マイクにぶつけたなw

 ==ドジっ子かw

 ==天然ね。天然のショタ子だ~(歓喜



「うぅ~、奈梨悠月です。まだ知らない人に説明すると、いま隣で待機している神さま……邪神によって呪いを掛けられてしまい、性別が不安定になってます。お願いですから下手な事を言わない様にね。僕は男で良いんですから」


 そんな事を言っていると、父さんがニヤニヤしだして、一枚の看板を取り出した。


〈カミちゃん、やっちゃえ〉


 なんかGOサインを出している。


「隣に居る、か・み・さ・ま、じゃぞ。悪い子にはお仕置きをせねばならん決まりだ」

「へっ⁉ ちょっと⁉」



 ==急に声が変わったなw

 ==立ち絵も変わったよw

 ==これは良いお姉様だ

 ==というかさ、女の子の方が身長が高いんじゃね?

 ==ナイスバディだ。

 ==ボイチェンかな、そういう子なんだね



 なんでこの人達は納得してるんだよ。


「さて、雑な紹介にあった奈梨カミである。皆の衆、これから一緒に遊ぼうな」


『詳細は本サイトにある彼女達のプロフィールで読めるからよろしくね。彼女達のチャンネルでも書かれているから、ついでに登録もしてあげてくれると嬉しいわね』


『私の子供達をよろしくお願いするわね』




 ==ナチュラルに社長とアズキんぐが居るの笑うわ

 ==サラッと混じってやがったからな

 ==さすがはアズキ先生っす

 ==バリバリ好みキャラクターなんだよな~




「……えっとね、あの~カミさんや、初っ端からリスナーとのゲームは無理だから」

「え? なぜじゃ⁉ 大人数で遊ぶのであろう⁉」

「ランク戦なんかあるゲームならね。でも、最初の方は同期生の子達とプレイかな」

「む~、まぁそれも楽しそうだから良いか」

「そう……良いならとりあえず、僕を元に戻してよ⁉」

「イヤじゃ、この抱き心地は最高なのだぞ」

「わふぁ⁉ 急に抱き着かないでよもう」




 ==やさぐれ悠月ちゃんw

 ==緊張していた最初の姿は何処に行ったしw

 ==それでもしっかりと、宣伝用に自分達のキャラ説明を出してる辺り器用だね




「ふっ、残念ながらそれはサポートしてくれている人が居るから出ているだけで、僕等は一杯一杯なので、殆ど喋ってるだけですね」


「うむ、こめんととやらも、まだ読むのに慣れなんだ」


 まだ決めなきゃならない事が多くあると言うのに、残酷にも配信時間がもう少しだけしか残っていない事に、今になって気付いた。






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