1話:呪いと神様のお力




「美味い。物凄く美味しいよアンズ嬢⁉」


 唐揚げをパクパクと口に頬張っていき、リスみたいに頬を膨らませてご飯をかっ込む。


「もうカミちゃんってば、そんなに褒めてもお替りしか出ないわよ」

「十分じゃ、お替り⁉」


 元気よく空になったお茶碗を差し出して、ご飯をお替りしていく。


「図々しいなお前、もうちょっと遠慮とかしないの? ていうかカミちゃんって?」


「だって、名前が分からない神様っていうから、じゃあカミちゃんって呼んで良いって聞いたら、是非とも呼んでくれっていうから。というか紬(つむぎ)ちやん。困ってる女の子を助けたなら、電話くらいちょうだい。お母さんってば驚いちゃったわ」


 なんで普通に受け入れているのか気になるけれど、それよりも、どうやって僕の家を知ったんだよコイツは、確かに不思議な子ではあるけど、本当に神様なのかな。


 半信半疑で、観察しながら彼女を見ていると、僕の視線に気付いたカミがジッと見返してくるが、特に何かを言ってくる気配はない。


「っていうか母さんは、この子が神様だって信じるの?」


「こ~ら、人の事を指差さないの。そうね~、まぁ信じるちゃってるわね。ちょっとした事を劉ちゃんと企画してたんだけど、良い場所がなかったのよ。それがカミちゃんに話したら、すぐに決まっちゃってね、もう神様女神様って感じで、座敷童みたいじゃない」


 カミのご飯を食べるのを邪魔しない程度に頭を撫でて抱き着いている。


「それは別でしょう……場所? 父さんと二人で何するつもりさ?」

「まだ秘密よ~。色々と準備が出来たら教えてあげるわね」


 神様って言われてもいまいちピンと来ないけどね。


「それよりもお前は何時まで家に居るつもりなんだ?」


「何を言う、お主が我と契約を交わしたんだぞ。それを破る事は許されんと言うたはずだ。あんまり我を怒らせると呪いのスピードが速まるぞ」


「呪いって、は~、何言ってんだよ」


 僕が深く溜息を付きながら、半目で睨むとカミは口元を扇子で隠して僕を呆れた目で見返してくる。


「ほぅ、信じておらんな? 後悔しても知らんからな」

「それよりも僕の問いに答えてないよ」


「我と遊ぶと約束したろう。なにやら色々と遊べるモノを持っておるのだろう? しかし、何をするのだ? お手玉か? ダラス玉弾きか? 室内で遊べるモノは何処にある?」


 急に見た目通りの年相応な女の子みたいにはしゃぎ出した。

 本当に遊びに飢えているようだ。


「遊びのチョイスが古いよ」

「何を言うておるんだ?」


 カミがキョロキョロと遊び箱を探す少女にしか見えないんだよな。


「……コレ、なに?」


 テレビをジーっと眺め、コンコンと叩いたり後ろ側を見たりしてペタペタと触りまくっている。電源を付けていないから真っ暗な画面で自分の顔を見ている。


「鏡にしては、黒いぞ?」


 僕の悪戯心に火が灯ってしまい、リモコン操作で電源を入れる。


「わぅ⁉ なんじゃ、黒い鏡の中に人間が居るぞ⁉」

「こらこら、画面に近付き過ぎだ」

「いや、何を落ち着いておるのだ。薄い壁の中に人が居るのだぞ⁉」


 テレビに映った人の顔の前で手を振ったりして反応を確かめているが、そんなことをしてもテレビの中の人は反応してくれない。


「こ奴、我を無視しておるぞ」

「そんな事で腹を立てるな。そもそも向こうにはこっちは見えてないから」

「なんじゃと⁉ ではどうしてこ奴は我等に見えておる」

「何でと言われてもなぁ。そういうもんだからなテレビってのは」

「絵が動いている訳ではないのか? 本当に人か?」


 テレビでこの反応って事は、ゲーム機なんかで遊んでみせたら、どんな反応をするんだろうか、いや、此処は敢てVRのゲームでもやらせてみるのはアリかもしれない。


「はいはい、それよりも外で遊んで来たんなら先にお風呂にでも入って来ちゃいなさい」

「わかったよ、じゃあお風呂に入った後で遊ぼう」


 母さんが僕にお風呂を進めてくるので、さっさと風呂場に向かう事にした。


「何でお前まで付いて来るんだよ?」

「我もお風呂に入ろうと思うてのう」

「入れる訳ないだろうが、僕は男だぞ」


「何を言うておる、性別の事を言うなら問題なかろう。お主が我と約束を破ろうとしたから、お主は今しがた、女子になっておるしな。コレが手っ取り早いじゃろう。我を神と信じるに値する力であると、なぁ紬ちゃんや」


 どす黒い笑みを浮かべて、ニヤニヤと見つめてくる。


 そんなバカな事が……と、思いつつもあまりにも自信たっぷりに言われるものだから、男の象徴たる部分へと手を持って行ってしまう。


「あ、あれ? うそ、だ」

 急いで洗面所に駆け込み、服を脱ぎ去っていく。


「ない……あれ? 無くなってる⁉ はは、嘘だ、夢だよね」

 ほっぺとつねってみるけれど、物凄く痛かった。


「安心せい、今のままならすぐに戻るであろうよ。我を満足させれば、だがのう」


 へたり込んでいる僕を見下すように、カミのヤツがジロジロと僕の全身を眺めてくる。

 胸も出ていて、完全に女性の体になり、恥ずかしさからバスタオルを慌てて羽織る。


「性別問題はコレで問題ないであろう。ほれ、一緒に湯浴みをしようではないか」

「あらあら、本当に女の子になっちゃって」

「母さん⁉ この状況で何で、なんでそんな楽しそうな顔をしてるのさ⁉」


「だって別に戻るのでしょう。カミちゃんが我が家に来てくれて娘が出来たみたいで嬉しかったけど、私は娘も欲しかったのよ~。息子ってよりは一緒にオシャレとかしたいじゃない、だからもう嬉しくって」


 僕はまったく嬉しくないよ。


 この状況を一番に楽しんでいるのは母さんだ、思い知ることになるのはお風呂に三人で入ると言い始めて、僕の体をあっちこっち洗い始めた時に気付かされた。


 しかも、カミが僕を女にした理由は、世話係は同性の方がしやすいだろうという事らしい。




 ==なにが、神様だ⁉ こんなん邪神じゃないか! というか悪霊とでも言った方が良いだろう、僕にとってはただ悪夢のような時間だった。





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