第17話 喧嘩
階段の頂上が見えないほど薄暗く続いている。ところどころにヒビが入っており、大きな振動を与えれば崩れてしまいそうだ。先の見えない恐怖感が三人を襲う。
「……何か出てきそうじゃない?」
「出るだろうな、キラーが」
「そうじゃなくてお化けとかだよ」
「馬鹿言うな、行くぞ」
ベテルギウスはプロキオンの言葉など気にも留めず、身構えながら階段を上っていく。プロキオンはつまらなそうな顔をしながら階段を上った。シリウスは時折振り返り、後ろを気にしながら二人の後をついていく。いつキラーが出てもおかしくない状況。三人に緊張感が漂う。しばらく上っていると、やっと光が見えてきた。上りきった三人は思わず手に持っていた武器を下ろした。
「屋上……?」
「みたいだな」
小部屋の奥にはドアのない出口があり、その外は屋上に繋がっていた。三人は屋上に出てみる。端には鉄柵が立てられているが、それ以外は何もない。鉄柵も錆びていて、少しでも体重をかけたものなら真っ逆さまに落ちてしまいそうだ。
「キラーはどこ……?」
そうプロキオンが呟きながら後ろを振り返ると、小部屋の屋根からキラーが飛び降りてこちらに迫ってきていた。
「みんな、後ろ!」
その言葉でキラーの存在に気づいたシリウスは焦ってピストルを向けるが、一瞬で間合いを詰めたキラー相手に撃つ暇などない。それに気づき後ろに退くも、キラーのナイフが左腕を掠める。
「どけ! オレがいく!」
キラーに一瞬の隙も与えまいと、ベテルギウスが前に出た。
「お前は後ろから援護射撃しろ!」
「僕に指図しないでって言ってんの」
シリウスは苛立ちながら指示通りにベテルギウスの後ろから発砲した。弾はベテルギウスの頬ぎりぎりを掠め、キラーの左肩に当たった。
「あっぶね! おまっ、今のわざとだろ!」
「知らないね。僕はベテの指示通りに動いただけだよ」
カチンときたベテルギウスはシリウスの方に向かっていく。
「あ? 誰が味方に当てろなんか言ったよ!」
「たまたま掠っただけでしょ。それかベテがドジなだけ」
「二人とも喧嘩してないで──」
敵前で喧嘩を始めた二人に対して叱ろうとしたプロキオンだが、キラーが迫ってくるのが見えた。
「あ、危ない!」
喧嘩に夢中の二人にキラーが襲いかかる。すると二人同時にキラーに向けてピストルを撃った。
「今取り込んでんだから邪魔すんなっ」
「今取り込んでんだから邪魔しないでっ」
ほぼ同時にそう言った二人。シリウスの弾が腹部を掠め、キラーは膝をついた。反撃のチャンス……なのだが。
「ベテはいっつもそう、なんでも自分優先。たまには他人に気を使うってことしたら?」
「はあ? お前こそ他人のこと考えてないだろ! だからこんなことになるんだろ!」
と、自分の怪我した頬を指差すベテルギウス。シリウスはふんと鼻を鳴らした。
「だから僕は君の指示通りに動いただけだよ。後ろからっていうね」
「援護射撃をしろって言ったんだよ! 援護で味方に当てる馬鹿がいるか!」
「じゃあもっと別の指示を出したらよかったんじゃないの? 馬鹿はベテでしょ」
おさまるどころかどんどんヒートアップしていく二人の喧嘩に、プロキオンは焦るが止めることはできない。するとキラーがゆっくりと立ち上がり、小部屋の階段を下りて逃げ出した。それに気づいたプロキオンがそれを追う。
「ああもう、二人が喧嘩してるから逃げちゃったじゃん! ボクはキラーを追うからね!」
二人もキラーが逃げ出したことに気づき、慌てて追いかける。
「ほら、ベテのせいで逃げたじゃん」
「はあ? お前がいちいち言ってくるからだろうが!」
追いかけながらも喧嘩は続く。呆れるプロキオンだが、キラーを見失わないように必死に追いかけた。三階、二階と下りていき、一階まで下りたところでプロキオンは立ち止まる。キラーの姿がどこにもない。喧嘩しながらプロキオンに追いついた二人は尋ねた。
「キラーは?」
その言葉を聞いたプロキオンの心の中は怒りでいっぱいになった。
「ねえ二人とも」
いつもよりやや低い声でそう言ったプロキオンに、二人は嫌な気配を感じた。二人に対し、プロキオンは優しい笑みを浮かべる。が、その目には憤りがこもっていた。これは確実に怒っている。そう思った直後──
「キラーは? じゃないよ! 二人が喧嘩してるから逃げちゃったんでしょ! せっかく二人とも強いし連携も取れるのに全っ然意味ないじゃん! 根城も見つけたのボクだよ? 喧嘩に夢中になってたのは二人でしょ? それなのに逃したのはボクのせいなの??」
そこまで一息で言い切ったプロキオンは、はぁはぁと小さな息だけがその場に響いた。あまりの剣幕に二人が何も言えずにいると、プロキオンはいつも通りの幼気な笑みを見せた。
「罰としてボクに焼肉奢ってね」
「はあ!?」
「キラー捕まえ終えたらでいいよー?」
プロキオンはルンルンで基地の方に戻っていく。二人は顔を見合わせると小さくため息をついた。
「しゃーねぇか」
「僕らが悪かったんだから」
こうしてプロキオンのおかげでなんとか二人は仲直りできたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます