夢幻の星光

璃志葉 孤槍

第1話 キラー

 東京某所。

 頭に黒いスカーフを巻きつけた男が人気ひとけのない裏路地を駆け抜けていく。それを追うのは灰色の長髪の男性。

 差を詰めようとスピードをあげたところで通信機から指示が飛んできた。


「ベテルギウス。目標はピストルを所持。他にも隠し持っているかもしれないから気をつけるように」


 ベテルギウスは舌なめずりをした。


「了解!」


 ベテルギウスは建物の壁をつたい、宙を舞う。そして懐からピストルを出すと、目標である男に向けて照準を合わせた。男もしっかりとベテルギウスを視界に映している。ベテルギウスがピストルを撃った。男はそれをサラリとかわす。その動きにベテルギウスは思わず唸った。


「この……!」


 男はベテルギウスを視界に捉え続けながらその場から逃げ出した。後を追うベテルギウス。通信機越しに叫び声がこだまする。


「このままだと街にぶつかるよ! キラーを止めて!」

「言われなくてもわかってんだよ!」


 ベテルギウスはキラーを足止めするべくもう一度ピストルを撃った。しかしやはりキラーはそれを綺麗にかわした。横道にそれたキラー。その時だった。キラーが曲がり角で女子高生とぶつかった。女子高生は思わず尻もちをつきながらキラーの顔を見た。

 ──みられた。そう思ったキラーは女子高生にピストルを向けた。乾いた音があたりに響く。間髪入れずに追いついたベテルギウスが間合いに入り、短剣でキラーに攻撃を仕掛けた。短剣はキラーの右腕をかすり、そこから血が噴き出す。


「ちっ……」


 キラーはそう吐き捨て、薄刃のナイフを四、五本投げるとその場から姿を消した。咄嗟に避けたベテルギウスはキラーを見失う。慌てて探そうと周囲を見回したベテルギウスはふと女子高生が視界に入った。意識を失っている様子の女子高生。弾が当たったわけではなさそうだ。すると街の方向から白髪の男が走ってきた。息を切らした彼は女子高生を見つけると驚いた表情を見せつつ、通信機越しに状況を確認する。


「すまない、遅れた。状況これはどうなってる、プロキオン」

見失っちゃった、ごめん」

「……キラーはね。んでベテ、これは?」


 白髪の男はベテルギウスをジトリと見つめる。


「なんもしてねぇよ」

「まだ何も言ってないでしょ」


 ベテルギウスは軽く舌打ちをした。


「どうせピストルにビビって気を失ったんだろ。つか今頃来ても遅ぇんだよシリウス」


 シリウスは女子高生の身の安全を確かめながらため息混じりに言った。


「街に行かれたらまずいからこっちから来たんだろうに……って、何やってんだよベテ」


 ベテルギウスが女子高生の鞄を漁っていた。


「どっかに住所が書いてないか探してんだよ。こんなとこに置き去りにするわけにはいかねぇだろ、俺たちのこと見られたかもしれねぇんだから。送り届けてやってベッドにでも寝かせてやれば夢だって思うだろ」

「だからって女の子の私物を勝手に漁るなよ……。さっきの『何もしてない』はなんだったのさ」


 シリウスが呆れたように肩を落としていると、ベテルギウス、シリウス、そしてビルの屋上にいた茶髪の男の通信機が鳴った。そこから低い声がゆったりと聞こえてくる。


『ベテルギウス、シリウス、プロキオン。仕事を終えたのなら今すぐ基地に戻れ』


 シリウスがその声に静かに返す。


「シンギュラー。女子高生に存在を見られたようです。現在女子高生は意識を失っています。……いかがいたしましょうか」


 しばらく沈黙が流れ、シンギュラーは少し優しい雰囲気で言った。


『その子を連れて今すぐ基地に戻りなさい』


 優しいながらもその奥に潜む威圧感に三人の体がブルっと震える。そして三人は口を揃えて言った。


「承知しました」

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